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「人生のカウントダウン」が始まる瞬間は、思いがけないところにあったりする

私は雪国の田舎で生まれ育った。
車がないと生活できないような町だったが、全国チェーンの飲食店はある程度揃っていたし、ジャスコ(なつかしい)もあったから暮らしていて困ることはなかった。
人混みが苦手な私にとってはとても居心地がよくて、地元は好きだった。

物心ついた頃から性別違和を抱えていた。
今から20年以上前、とあるバラエティー番組で「本物の男とオナベを見分けろ」的な企画があった。たまたま番組を見ていた私は、これが私の生きる道だと思った。

未来に希望が見えた私の隣で、なんだか様子がおかしい人がいる。母親である。オナベを見て「えー、なんか変な人だね」と言って顔をしかめている。

母親がいけないのではない。番組出演者の目は物珍しいものを見るようだったし、実際それが当時の世間からの目だったのだろう。

私自身もその番組から生き方の指標を見つけることができたと同時に、自分がその生き方を選んだたときに親そして世間からの目がどう向けられるかをイメージすることができた。

テレビの取り上げ方こそ今では問題かもしれないが、ネットも普及していなかった当時、小学生だった私が情報を得る手段として、その番組は有益だったように思う。

自分らしく生きていくためには大好きな地元を離れて親と縁を切るしかないのだと、子どもながらに腹をくくったものだ。

女として地元で生きていく選択肢もあったかもしれないが、それは自分にとって自分の人生を生きていることにはならない。自分を偽ったまま生涯を終えるのは嫌だと思った。迷いはなかった。

そこから私の頭の片隅では、常に地元を離れるまでのカウントダウンが行われることになる。ああ、この町に住めるのもあと◯年か〜…みたいな。地元が好きだからこそ切なかったし、限られた時間だからこそ家族や友人との時間を大切にしなければと思った。

バラエティー番組の1つのコーナーが、1人の子どもの人生のターニングポイントになった瞬間である。

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