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ポーの一族


ポーの一族は萩尾望都さんの代表作。


開くたび花の香りが漂うような、とても美しい薔薇と人の生気で生きるバンパネラの本。
宝塚にもなった。





沈丁花が咲くたびにこの物語のメリーベルを思い出す。


もうずっと一生そんなバラの咲く村で暮らせたらどんなにいいでしょうね

生きて行くってことは
とても難しいから
ただ日々を追えばいいのだけれど
時にはとてもつらいから
弱いひとたちは
とくに弱い人たちは
かなうことのない夢を見るんですよ

恐ろしいのは信仰だ
我々を含めいっさいの異端を認めない心
これは邪悪なものだ、これは嘘つきで実在せぬものだと
狂信している精神は恐ろしい


バンパネラとなって永遠の子どもになったエドガーは、ただ虚しく妹のメリーベルだけを支えに生きていた。その妹も失ってしまうんだけれど。


なぜ生きているのかって
それがわかれば
創るものもなく
生みだすものもなく
うつる次の世代にたくす遺産もなく
長いときをなぜ
こうして生きているのか


エドガーが学校で知り合ったアランを仲間に加えようと窓辺に現れるシーン、好き。

 

ぼくはいくけどきみはどうする?
くるかい?
きみもおいでよ、ひとりではさびしすぎる

なぜ目をさまさない

ぼくは一人で
思い出ばかりを追いすぎる

きみをつれてきたのが
まちがいだったとしても
ぼくが生きてはいけないものなのだとしても
たのむから目をさまして


特に『はるかな国の花や小鳥』の話がとても好きで
花とピアノと寂しさのある内容も絵も綺麗だった。

エドガーを、『私の庭で捕まえたユニコーン』と呼ぶエルゼリが、ピアノを弾いたりエドガーに薔薇を切ったりして。

昔のことを忘れられずにいるエルゼリを、エドガーは『思い出のにおいのする人』と言う。


森の中を二人で歩いたの
道に迷った子どものように
するとふいに崖の上に出たの
そこからお城が見えたのよ
「お城が見えるわ」と言って
すぐそれが月あかりで
木々がそう見えただけだとわかったの
お城なんかなかったのよ
でも彼は言ったの
「ああほんとうだ、お城だね」
そうこたえたあの人が
世界中でいちばん好きだったの

行き場があるのはいいわ
バラをうけとってくれる人がいるのはいいわ


エドガーが物書きを魔法使いと呼ぶのも素敵で
この年代の漫画はどれも詩的だけれど、萩尾望都さんは特に、本当に詩人だなぁと思う。
歴史的背景も物語の下地にしっかり感じるような。

やがて大人になる代価に
魔法や夢を支払った
ものをかくのはだからです
その時だけわたしは子どもに戻れます
奇跡や魔法が使えます
あなたも夢をみるでしょう?


エドガーとアランの依存関係が、一致しているのに擦れ違ってしまっているのが、見た目と裏腹に埋まらない歳の差を感じる。

最後が悲しくて、でもエドガーはまだこの現世を彷徨っているのかなと思うような
ふしぎに現実に余韻を残す物語。

近年、続編が出たようで、作者さんの精力的なご活動を尊敬しつつも、
個人的にこの作品はこのままの記憶で終えたくて、そちらは読まずにいるので、実際その後どうなったのかは知らないんだけれど…

本当に綺麗な物語。


帰ろう
遠い過去へ
もう明日へは行かない


これまでサポートくださった方、本当にありがとうございました!