フィルムカメラと旅したハノイ 〜2006年初めてのひとり旅〜
2006年、テレビ番組制作会社で激務な日々を過ごしていた27歳の私は11月に遅い夏休みを取ることができた。
トラン・アン・ユン監督の映画「夏至」に出てくるハノイの風景が美しくて、ずいぶん前からこの目で見てみたいと思っていたのでひとりで行くことにした。
当時、すでにデジタルカメラはかなり普及していたはずだったけど、私はまだ持っていなくて、学生時代から使っていたフィルム一眼のニコンFM2を持って初めてのひとり旅の共とした。
ハノイではハロン湾に行く以外は特に予定は決めず、「夏至」の世界に浸りたくてひたすら旧市街を歩きまわった。
東南アジアあるある、バイクが多すぎて道を渡れないという状況で、道端でまごまごしてるとおじさんが手を引いて一緒に道を渡ってくれた。
ハノイで出会った人たちは皆穏やかで優しかった。
もう一つの旅の共が料理家の伊藤忍さん、写真家の福井隆也さん著「ベトナムめし楽食大図鑑」という本。
ハノイとホーチミンのおいしいごはん屋さんが網羅されていて、この本とカメラを手に食べ歩きをした。
ハノイのごはんはどれもおいしくて忘れられない。
旧市街は道端にたくさん店が出ていて、みんな風呂いす座ってものを売ったり食べたり飲んだりしていた。
街全体にゆったりとした空気が漂っていた。
旧市街はごちゃごちゃしているけど緑が多く、小さな湖もあるので、暑くてもあまり不快感がなく、爽やかだった。
フランス植民地の名残りでカフェ文化が息づいている。
こんなところもハノイのゆったりとした雰囲気を醸成しているのかもしれない。
初めてのひとり旅から17年経った。
ハノイの街を歩いているとき
「私ひとりでも外国来れた。これなら世界中どこだって行ける!」
と思ったときの高揚感は今でも忘れられない。
ひとり旅の自由さに味をしめた私は翌年バリ島に行き、この島の芸能をドキュメンタリーに撮ると思い立ち、仕事を変え、バリに通うようになった。
ハノイの旅は一度きりとなったけど、ひとり旅の気ままさ自由さ、ひとりでも旅は楽しいことを知る、自分にとってのターニングポイントとなった。
「夏至」の風景そのままの緑が濃くしっとりしたハノイの旧市街はキラキラと輝いて見えて、夢中でシャッターを切っていた。
あの頃のような旅はもうできないと思う。
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