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小説詩集「透明福袋」


店先でじいっと見る。福袋を見る。

「そんなにみてても、中身はわからんぞ」

て彼が言う。そうだろうか、こうやってじいっと見ていたら、と思ったけれどやっぱり分からなかった。

それで、彼をじいっと見る。じいっと見つめる。

「そんなにみても、オレの中身はわからんぞ」

て彼が言う。そうだな、とも思う。

模擬試験の過去問を一通りやってみても不安になって、何か他にやった方がいいのかも、て取り組むから学力は上がるわけで、分かってたらやらないかもしれないよね。実際そんなにやりもしないけど。

カフェに寄ってじいっと窓の外を見る。彼の話も聞かんでじいっとみる。

「そんなに見ててもさ、未来はわからんぞ」

て彼が言う。分かってる。分かってるけど、未来の結果は2分の1なのだから、水槽の金魚みたいに外を知りたくなるんだよ。

「なんで人生のシナリオはみえないんだ、って思ってる?」

て彼が聞く。うん、そうなの、見えてれば立派にやってみせるのに、1ミリ先がヤミだから、恐るおそるやるしかないの。だから、大量の時間が二者択一の前で費やされるんだよ。

「オレはさ、綺麗な道だけ歩こうと決めてるんだ」

綺麗な道だけを?

「綺麗な道のその先に何があってもいいんじゃないか、と思ってるんだ」

綺麗な道なら乗り越えられるの?

「綺麗な道なら迷いもしないからさ」

綺麗な道なら迷いもしないから?とかおうむ返しに言いながら、やっぱり彼のことをじいっと見て、見ながら私、この人が好きなのか、この人になりたいのか、さえわからなくなってくる。私を取り巻く宇宙の全てが行くてを2つに分けて、はてしなく広がっていく。

「あのさ、そろそろ決めた?福袋買うかどうか」

聞かれて、カフェを出て、なおも難しい大問にぶつかったみたいに、私の答えはでない。選択肢が門番みたいに立ちはだかるから、店頭に戻ってもやっぱり私はじいっと福袋をみつめるのだった。透明にならんかな、て見つめるのだった。


おわり


❄️おとそ気分が抜けないままに、時間が軽快に進んでゆきます。待ってくれ〜とか言いながら、あれ、年末にもそんなセリフ言ってたな、てデジャブな新年です。
ともあれ、やはり希望は見えます。その希望だって福袋的に見えないから進んでいける、的気持ちです。




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