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小説詩集「ハチの巣」

ある日、テロリストがやってきて、その機関銃の雨にさらされてハチの巣になったとしたら。それが比喩でつまり機関銃の雨は人の言の葉でテロリストは同僚だったり、上司だったり、友人だったとしたら、私たちはぼろぼろのずたずたに血を流し、その液体は体内を蝕むだろう。
けれど、もしそれが比喩じゃなく本物にリアルな銃弾だったとしたら、残されたものが血を流しぼろぼろのずたずたで、液体にえぐられてゆくだろう。

突然に病はやってくる。突然に不幸がやってくる。
順番だよって天空から声がする。
けれど、だれもがそうは思えない。特にこれまでさんざんひとりで頑張ってきた者には思えない。
何か悪いことをしたのか、と問うてみても答えは無い。ただ新たな状況があるだけだ。
それはあくまでも空からやってくる。つまり比喩のテロもリアルなテロも。

容赦ないテロリストにインタビューした。
・・・・これまで何人殺しましたか?
・・・・何人?人殺し?ノー、たったの一度も
・・・・この世で許せないことは?
・・・・正しくないことをすること
・・・・あなたは子供のころよく叱られましたか?
・・・・もちろん。でも私はがんばりましたよ。だからふざけたことが許せないんです
・・・・インタビューを終わります

一方、天空の方からも答えが返ってきた。
「奇跡です、あなた方は奇跡を見るのです。生活が一変して、あなた方はにわかに寄り添いませんでしたか?」
逆インタビューだ。
私は心の中だけで答えた。
「確かに、我々にはこれまでなかった団結と再会がありました。そしていかに自分が無力であるかを知りました。けれどだからと言って、何もあの人の平穏を破ることはなかったのではないか」
と。雷鳴がとどろいて私のインタビューは終わった。

いつだって答えは返ってこない。そして推測だけが飛び交う。
推測の渦の中で私は思い出していた。あの人がいつも良い人なわけではなかったことを。あの人も時に体内から機関銃を取り出して容赦なく私に発砲したのだった。
私が血みどろになるのが常だった。
私は強いもにに痛めつけられ、痛めつけることはなかった。
けれど私は、時折私よりもさらに弱いものに牙をむき、体内から機関銃を取り出して射殺し続けていたのだ。
痛めつけられた弱いものは、たいていの場合やられっぱなしだったが、希に立ち上がって決定的な言葉で私を死の淵へと追いやった。

ぐるぐると死の連鎖は続く。
誰ひとり、悪人になろうとして悪人になるものはいない。悪人になってしまうのだ。
我々の体はハチの巣のようにくり抜かれる。もう誰にも傷つけられたくない。私が悪いのか?あの人が悪いのか?もう分からないし、ただ恐ろしい。恐怖と憎悪が入り混じって我々は何か固い自分を守るものを探す。泣きながら探す。
そうして、体に開けられたセルのようなハチの巣へと入ってゆく。
ほっとする。少し寂し時もあるけど安心する。
そうすると、今度はテロリストたちにインタビューされる。

・・・・それで生きているって言えるのかい?
・・・・生きています。好きな事がありますから
・・・・ただ好きな事をやっていればそれでいいというのかい?人の役に立たなくってもいいのかい?
・・・・人の役に立つ?私にはもうそんなことは出来ません。かつてそう願ったこともありましたが
・・・・甘ったれるんじゃないよ。出来るかどうかじゃない。やらなきゃならないんだよ
私は無言になる。そしてこのインタビューが早く終わってお引き取りしてほしいと願う。すると予想だにしなかった事態へと発展する。
・・・・こいつは非国民だ。野郎ども、やっちまえ。

もう誰にも傷つけられたくなかったのに、私は不意を突かれる。インタビューに気を取られてすっかり体を巣穴から出してしまっていたのだ。

機関銃のすさまじい音とともに、血しぶきと砂ぼこりが舞う。
私は呻き、打たれるごとに体は痙攣しながらしなる。
体には無残にもハチの巣の穴が開く。
これまでの小さな記憶を蘇らせながら私は崩れ落ち倒れる。

けれどこれで終わりなわけじゃない。私は再びすべてを恐れてハチの巣のセルへともぐり込む。その大きさは前よりも小さくなっている。必然的にテロリストは大きくなってゆく。もう、私は生きている限りテロリスト達から逃れることは出来ない。

さて、どこかの軒下にひっそりと身を潜めているハチの巣をひき剥がし、なおもひき剥がすと、そこから果てしないむせびの涙が凝縮したあの飴色の液体がどろりと出てくるかもしれません。
ハチの子は果たしてどうしているのでしょうか。

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