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小説詩集6「春の恋の相関図」

 冬は春に恋をする。だから、今日は公園の小道を通った。
 すると倒木が湿った様子で横たわっていて、いつか、と私は思う。いつか、倒木や、壊れた時計に共感するって時がくるんじゃないかって。でも今チックタックいうのは、道端の白い小さなつぼみなわけで、私は授業に向かう。
 映画研究会で一緒になった先輩は、ハッシュタグ履修でとてもお世話になった人。
 で、今日は教室の前で待ち合わせて、そうして中講堂の後方の席にすわった。映画を観るわけでもないのに、どこに座ったらいいのか悩むのはおかしいな、て笑った。
 みんながパソコンを睨んでいるのだから、ここに集まる必要ある?て思えたけど、眺めているだけで、私は教室に恋をする。

 春は夏を追いかける。どこまでも、息が切れるまで追いかける。
 夏は?夏は秋を思う。秋も夏を思う。行ったり来たりしているうちに、気づいたら冬に包まれて、私たちは静かに眠りに落ちてるんじゃないかと思う。
 あれ、私文学部の方がよかったのかしら、とか思っていたら、先輩がタプレットをスーっと私の方に差し出した。

 なんの図式だこれは、あ、フローチャートかとそれを見て思った。けど、そうではない。謎解きかしらとも思ったけれど、そうでもない。ああ、これは恋の相関図なのかと気づいたのは、先輩が名前と名前に線を引き始めたから。
 私も軽い気持ちで、なのに何気に真剣な面持ちで線を引き始めた。
 でも、サークルではまだ映画の話をするぐらいで、撮影もしてないし、そんなに知り合ってるわけでもないのだ。だから、ただのインスピレーション。先輩が自信ありげに、私の引いた線を修正する。なるほど、と唸る私。だから今この空間に恋がじわじわ満ちてくる。

 今朝おばあちゃんが、眩しそうに目を瞬いて私を玄関から見送ってくれた。
 宅浪してたからお昼はいつもおばあちゃんの作ったおうどんを食べてた。おばあちゃんの取り止めのない話を聞いたり、私の荒唐無稽な夢のことを話しているうちに一年が過ぎていったのだけど、もう遠い昔のことのように思える。時間には明暗があって、すぐに思い出に変わってしまう時、があるのかもしれない。

 とか思っているうちに、相関図は完成しつつあって、あ、と思う。
 残された名前は、先輩と私のだけになっていて、これはもう詰まれたな、って思ったけれど、どこかそこにデジャブ感があった。
 なんだったかなあーと考えていたら、ああアルバイトのシフトかって蘇ってきた。みんなのチェックと私の授業が見事に詰んでいて、早朝と超遅番やるしか選択肢はなくなっていた。

 私の人生はオセロゲーム。きっとそう。春が私にそう思わせる。
 陽だまりの中に緩やかな時を刻む音がする。
 けれど、私は気にも留めなかった。だって先輩がとうとうふたつの名を一本の線で繋げていて、私はそれどころじゃなかったから。

❄️ゴシップ好きじゃないけれど、相関図づくりはやめられない。そんな春の人々が桜の花びらほどに舞い上がり、春の嵐に散ったんです、的な気分で書きました。


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