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(小説)おおかみ少女・マザー編(三・十四)

(三・十四)ラヴ子十三歳(その3)・親友
「そうだったんだ。ごめん!わたし、何にも知らなくて……」
 申し訳無さそうに答えた真弓に、ゆきは自分の幼年期の話、神戸の養護施設にいた事や、斉藤家の養女になった事などを打ち明けた。真弓は素直に、今までのゆきに対する自分の態度を詫びた。相変わらずぼそぼそと、俯きがちにではあったけれど。
「いいんだよ、全然!気にしない、気にしない」
 にこにこ陽気に笑い返すゆき。
「でもうちの父親だったやつなんて、毎日飲んだくれのヘタれだったから、いない方が良かったけどね」
 そして無邪気な子どものように、真弓は笑顔を浮かべた。
「やっぱ、みんな、いろいろ悩みがあんだね。じゃ、お母さんの手伝いがんばって。ファイト、真弓ーーっ!」
 もう、斉藤さんたら……。苦笑いを浮かべながらも、どこか嬉しそうにゆきに手を振り、家へと帰ってゆく真弓。それから真弓は少しだけど、学校に行くのが楽しくなった。

「真弓、一緒に帰ろう」
「うん。帰ろう、帰ろう、ゆきちゃん」
 いつか真弓はゆきのことを、名前で呼ぶようにもなった。毎日元気なゆきとお喋りすることで、真弓も少しずつ陽気になり、お喋りも苦ではなくなった。蚊の鳴くような話し声も、少し大きくなった。家の手伝いに忙しい真弓を気遣って、ふたりがぺちゃくちゃお喋りするのは、いつも下校の帰り道と決まっていた。
 ところで話は変わるが、元々真弓はスマホを持っていなかった。実は真弓に限らず、旧人類の家庭の子どもたちの多くが、スマホを持っていなかった。否持てなかった。旧人類の仕事の賃金が下がったり、仕事自体が失くなったり減ったりしたことで、旧人類の世帯の収入がどんどん減ってしまったからである。その為一時は日本を始め世界中で、旧人類の大人ですらスマホを持てないケースが急増していった。
 ここで、スマホに関する世界の動きについて、少し触れておこう。
 ではこのまま旧人類がどんどん貧しくなってスマホを持てなくなると、一体どんな事態が起こり得るのであろうか?そのうち以下の方程式が成立してしまうことに、成りかねない。
 ●スマホを持つ人間=人類
 すると旧人類の過激派、テロリストたちが、世界中でスマホを目の敵にするのではあるまいか?歩きスマホをする人間を襲ったり、スマホを奪って破壊したり……。その程度ならまだかわいいもので、スマホ工場をターゲットにして爆破テロを起こすやも知れぬ。
 スマホは依然、人類の命綱である。そこで、これはまずい!と感じた人類は、日本を始めとする先進国に於いて緊急の対策を講じる事とした。スマホを全国民に無償で提供するよう各国に要請し、それを義務付けたのである。

 こうして真弓を始めとする旧人類の子どもたちにも、スマホが支給された。
「よかったね、真弓。番号、交換しよ!」
「うん。ありがとう、ゆきちゃん」
 家で母親の手伝いに追われる真弓はいつも疲れていて、授業中居眠りすることもしばしば。ゆきはそんな真弓に、熱心に勉強を教えて上げた。それから真弓の母親の帰宅が遅い時は、真弓の家である安アパートの部屋に上がって手伝ったりもした。お陰ですっかり真弓の妹、弟たちとも仲良くなった。ひとりっ子のゆきにとって、妹、弟たちとのわいわいがやがやは、羨ましい限りである。真弓の家に行く時は、お菓子やケーキのお土産を忘れなかった。
「いつもごめんね、気遣わせちゃって。本当ありがとう、ゆきちゃん!ほら、あんたたちもお礼言って」
「ゆきのお姉さん、ありがとう」
「わたしも、ありがとう」
「うん、うん。みんな良い子、良い子。お姉さん、めちゃ嬉しいよ!」
 にこにこ、にこにこ、大空に舞い上がる程の喜びと幸せに浸るゆき。まだ弱冠十三歳でありながら、既に人を喜ばせる事、幸せにする事に生き甲斐すら覚えるゆきであった。
 こうして真弓とゆきは親友になった。

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