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(詩)トマトの神様

そのおばあさんは
昼間っから寝ている
わたしのベンチに

そっと
ふたつのトマトを
置いてゆきました


それは
わたしがまだ若い頃
貧乏でお腹をすかし
公園のベンチで
ゴロンと横になって
いた時のことでした

その時たしかに
わたしは夢の中で
かみさまを見た

かみさまが
通り過ぎてゆく時に吹く
風の音を聴いた

そして目を覚ましたら
そこには
ふたつのトマト

かみさまが
置いていったトマト

太陽の光と
まっすぐで
とうめいな雨粒を
いっぱいに吸って
まっかに熟した
ふたつのトマトでした

遠くで
トマトのかごを背負った
ひとりのおばあさんが
わたしに向かって
手を振っていた
くしゃくしゃの笑顔で
手を振ってくれました


あなたは
かみさまに会ったことが
ありますか

わたしは今でも
トマトを見ると
あの日の
かみさまを思い出し

トマトに向かって
そっと合掌するのです

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