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(詩)グリコのおまけ

男の子は
道端にいたせみをひろいあげ
まだかすかに動いている
そのせみをてのひらに抱きしめ
じっとそこに突っ立っていた

強い夏の日差しの中を
また夕立の中でずぶ濡れになりながら

そしてせみが
動かなくなったのを見届けた後
男の子はそっと樹の陰に
せみをかえした

強い夏の日差しを忘れ
雨のしずくに濡れることも忘れ
ある夏の日にこの星のどこかで
ひとりの男の子と
いっぴきのせみがめぐり会い
そのひと夏の
一日のわずかな時を共有し
見つめ合い、語り合い
ふたつの生命いのちは生きた


別れゆくかなしみの涙も
永久の別れや孤独のつらさも
この星の上で
きみに出会ったことの
よろこびにくらべれば

みんな、グリコのおまけにすぎません
きみを好きになったことの
いとしさにくらべたら

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