見出し画像

(詩)石

わたしは石になり
この世界を見ている

せわしなく動く
生きものたちは
動くものだけが
生きものだと信じている

たえず
変化してゆくものだけが
進化するのだと
信じて疑わない

たえず変化し
たえず
滅びゆくものたちからすれば
永遠はだから
ただのことば遊びに
すぎないらしい

そして今日も
夢をなくした少年が
ため息まじりに
わたしを一蹴り

けれど
そのおかげでわたしは
陽あたりのいい場所に
転がって
今日は一日
気持ちのいい風に吹かれ
日向ぼっこしていました

そのお礼に
少年の耳に
わたしがうたを
歌いかけたものだから
少年は驚いて
しばらくきょろきょろ
あたりを見回していたっけ

それはもうむかし
はるか遠い昔の子守唄

そういうものを
人間は
空耳とかたづけてきた

わたしはここだよ
わたしはほら今
きみのすぐ足元に
たたずんでいる
ひとつの
石という、生きものだよ
きみも
永遠が信じられたら
いいのになぁ


今日も世界では
戦争が繰り返され
人々が嘆き、飢え渇いている
今日も世界は

それでも
わたしは石になり
この世界を見ている

それでもわたしは
いつまでも、いつまでも
この世界を見ている

わたしは石
ひとかけらの
この暗黒の宇宙の中に
毎日毎日おびえながら
夢だけを抱いて生きている

地球、という名前の
ちっぽけなひとつの
石っころです

この記事が参加している募集

#私の作品紹介

96,828件

#眠れない夜に

69,624件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?