そのあと

ある晴れた夏の日の午後に
ぼくたちは海を見ていた

ある晴れた夏の日の午後に
ぼくたちは

たしかに海を見ていた

たしかに
晴れた夏の日の午後だった

空は晴れわたり
まぶしい日のひかりが差して
やさしいおだやかな
しおかぜが吹いていた

ある晴れた夏の日の午後に

そしてわずかに
ぼくたちがかわし合った
ぼくたちのことばや
ほほえみの数々は

その永遠よりも
大切だったはずのぼくたちの

ぼくたちがぼくたちだった
ぼくたちがぼくたちとして存在した
あの一瞬は

けれどあの晴れた
夏の日の午後とともに
ぼくたちの前から

うしなわれた

ぼくたちはぼくたちの
すべてをなくした

あの晴れた
夏の日の午後の中で


たしかに
あの日は晴れていた

まぶしい夏の日差しと
しおかぜの中で

やがてぼくたちが
ぼくたちを失ってゆくとも
知らずに

何もかもすべて
永久にぼくたちは
失ってしまうのだと
気付かないまま

あの晴れた夏の日の午後に
ぼくたちはただ黙って
海を見ていた

やさしいどこにもいる
恋人たちとして

あの晴れた夏の日の午後を
たいせつに想っていた

限りなくいとおしく
あの晴れた夏の日の午後を
たいせつに

あいしていた

だから今ここに
きみがいなくても
何もうらむことはないんだ

たしかに
あの日は晴れていた
やさしい
晴れた夏の日の午後だった

何もかもがやさしい
夏の日の午後だった、ね


ぼくたちがよりそって
一日過ごすのに

もったいないくらい
やさしい夏の日の午後
だった、じゃない

だからぼくたちに

そのあとは

ないんだ

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