(詩)押し入れは夢の入口

押し入れはお伽話の入口
こっそり隠れて
いつも居眠りしてた
だって誰も入って来ないし
しーんと静かだったしね

押し入れは夜と夢の入口
貧しくて布団も敷けない
狭い一間のアパートの部屋のすみ
姉さんが二階でぼくが一階
押し入れは二段ベッドに早変わり
ふすまを閉めて
おやすみなさい

まっ暗でも怖くなかった
闇の中にいつも
きらきらと
夜空の星が瞬いていたから

押し入れは旅の入口
夕暮れ時かなしくて
こっそり隠れて泣いていたら
ボーっボーっ、って
何処からか船の汽笛と
遠い海の音が聴こえた

そして押し入れは夢の出口
安いけど、お母さん
二間の部屋を見付けたんだって、嬉しそうに
だから、ありがとう
無口でやさしい押し入れさんと
もうお別れ
お世話になりました
それじゃ元気で
そしてそっと、さようなら

押し入れは少年の日の
夢の入口

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