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戦場のうた

さびしいとき
口にするもの
くるしいとき

だれもたすけに
きてくれない時
きみが
ひとりぼっちのとき


戦場をのがれ
ジャングルに身を隠し
いつも身を寄せ合うように
きみたち家族は眠った

ある晩
そんなきみの前に
ジャングルの風が吹き
ふと
人の気配を感じたきみは
風の方角に目を向けた

そこには軍服を着た
ひとりの男が立っていた
てっきりきみは
兵士が自分たちを
たすけに来てくれたのだと
思った

けれどその男は
ただ黙って
眠る家族にむかって
銃を向けた

それからきみは
唇で
空気をふるわせる方法を忘れ

ただいつも風が吹くたび
あの晩の銃声を思い出し
おびえた


さびしいとき口にするもの
くるしいとき

だれもたすけに
きてくれない時
きみがほんとうに
ひとりぼっちのとき

「かみさま」と呼ぶかわりに
もういない「おとうさん」、
「おかあさん」とよぶかわりに

そして世界中で一番
好きな女の子と巡り会った時
彼女のほおの涙にむかって
やさしくそっと
息を吹きかけるように

誰かに愛をささやくように
祈るように、願うように

口にするもの

人はそれを
「うた」と名付けた

この星がきれいなわけ
この星が青いのは
うたがあるから

空気はね
うたをうたうために存在する

この星はぼくたちが
うたをうたうために
きみがうたうために

星たちは
きみのうたをきくために

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