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(詩集)きみの夢に届くまで

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詩の数が多いので、厳選しました。っても多い?
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#ラヴソング

(詩)きみの夢に届くまで

この夜の何処かで 今もきみが眠っているなら この夜の何処かに 今きみはひとりぼっち 寒そうに身を隠しているから 今宵も降り頻る銀河の雨の中を 宛てもなくさがしている 今もこの夜の都会の片隅 ネオンの雨にずぶ濡れに打たれながら 膝抱えさがしているのは きみの夢 幾数千万の人波に紛れながら 路上に落ちた夢の欠片掻き集め きみの笑い顔を作って 都会に零れ落ちた涙の欠片の中に きみの涙を見つけ出せば 今も夢の中で俺をさがし求める きみの姿が見えるから この夜の何処かに 今もきみが

(詩)片想い

想い浮かばなかった言葉 うたわなかった唇 想い出せなかった顔 忘れ去った後の海のしおざい 想い出せなかった顔 けっして忘れた おぼえはないはずなのに どうしても 想い出せなかった顔、微笑み その泣きそうだった微笑み 「だいすき」と 動かせなかった唇 「だいすき」と いくら想っていても 心の中で何度つぶやいてみても どれだけ「だいすき」だったか 自分でも気付かなかった心 女の子をデートに誘おうとする 瞬間にかぎっていつも ラブソングをうまく口ずさめない どんなにあなた

(詩)雨に消えた微笑み

肩を濡らす雨に気付いて 傘を差すきみのため息が白く 星のない夜の空に消えてゆく ぼくがなりたかったもの きみの肩を包むレインコート きみの肩に寄り添う傘 きみの肩に落ちた雨のしずく ふときみがついたため息 傘も差さず大きな声で呼んだら きみは振り向いて少しだけ笑った なりたかったもの ただしずかに降りしきる雨 きみがいなくなった後 きみの微笑み思い出すように 何度も何度も思い出すように ただしずかに降りつづく雨に なりたかった

夜が明ける前に

なんで人は 幸せになれないんだろ かみさまは答える 罪があるから 罪をつぐなうため それ相応の苦しみを 受けなければならない その試練を乗り越えない限り 幸福にはなれないのです なんで人は 幸せになれないんだろ 仏さまは答える 迷いがあるからじゃ 生まれてから 去ってゆくまでの間 人間は何年も何年も 同じ場所を いったり来たりしているだけ その迷いからさめない限り 永遠には辿り着けんのじゃ なんで人は 幸せになれないんだろ なんで人は自分より 不幸せな人を見ると

エスカレータ

人波から少し離れて エスカレータの 一番後ろに乗るのが好きさ 人込みの中で わざとゆっくり歩くのも 何人の人と ぶつかるか数えながら 何人の人と ぶつかったら きみに会えるだろう 東京で暮らす人の数だけ ぶつかれば会えるかな でもおんなじ人と ぶつかったりするから やっぱりきみには 会えそうにない ……都会なんて、そんなものさ 男は 好きな女の子がいないと 詩が書けない 詩人はたえず 誰かを好きでいなきゃ 詩が書けないから きみに飽きた後 ぼくは 誰を好きになろう そ

(詩)柿の木だった頃

いつも山が見えた 田んぼが見えた 畑が見えた 小さな家が見えた 男の子がいて 女の子がいた いつも 風が吹いていた いつか 男の子も女の子も 大人になって 村を出ていったり 結婚したり そしてまた 別の男の子がやってきて 別の女の子がやってきた 人も ぼくから見れば 風と同じなのさ 人も、ただの風 ぼくが柿の木だった頃 少女の手に 柿の実を落としたら 少女は 柿の実にキスをした 柿の木のくせに ぼくはドキドキした すぐに年老いてゆく一生も たまには悪くないな、と

(詩)ラストダンス

きみと一晩だけ ダンスを踊ったことがある ダンスといっても きみの体調が あんまり良くなくて ふたりとも 少しも動かなかったから 正確にはダンスとは 呼べないかもしれないけれど しずかにただ じっと きみがぼくのうでに つかまっていたんだ そして一晩中 星空の砂浜に 突っ立っていた 時々ぼくが歌ったり きみが笑ったり それからふたりとも 黙っている時は しおざいがひびいていた 夜が明け 血相を変えて一晩中 きみを捜し回っていた 連中がぼくたちの 海岸にやってきて み

(詩)千年の孤独

きみに会えない一日は ぼくには千年の孤独 だからきみがぼくを強くする どんな苦しみも耐えるし 世界の果てにだって行ける きみに会えない一日は ぼくには千年の孤独 その千年をきみは どんなふうに過ごしたろう みんなとわいわいガヤガヤ 素敵な一日だったらいいな 千年分のさびしさは 全部ぼくが引き受けて きみに会えない一日は ぼくには千年の孤独 とは言っても ぼくだってそれなりに 楽しく過ごしていたから 心配はいらない きみに会えない一日は ぼくには千年の孤独 千年が万年にな

(詩)水平線

ぼくが死んだら ぼくはきみの太陽になろう きみが地球で ぼくが太陽になるってことさ 今水平線の彼方へと 太陽が沈んでいくけど 暗黒の宇宙の闇の中を一巡りしたら またきみの前に帰って来るから 静かな夜明けを連れて 確かに帰って来るから 夜は愛を育む沈黙の時間 そして地球のきみは ぼくの光をいっぱいに浴びて たくさんの生命を 地上に産み落とすのさ きみの上でたくさんの生命が 今も生まれては死に 死んではまた生まれ来る ぼくが死んだら ぼくはきみの太陽になろう だからい

(詩)見えないシート

ぼくの窓から銀河が見える きみの窓からも あの銀河が見えるかな それなら こんなに遠く離れた きみの窓とぼくの窓も 銀河から見れば 同じ夜行列車の 隣り合うふたつの窓に 見えるだろう だから 遠い昔からぼくたちは 永い永い銀河の旅をしてきた いつでもぼくは目の前に 見えないとうめいな きみのシートを感じながら いつもひとりぼっち 夜行列車の窓を流れ去る 銀河をながめていた ためいき、つきながら 駅に停車した 列車のドアが開いては また閉じて 乗ってくる人波の中に きみ

(詩)女の子

女なんて、てきとうに かわいければいいと思った 女なんて、そんなに まわりのやつらが のけぞるほど綺麗じゃなくても まあ人並みでよくて 理想とか好みのタイプとか そんなに難しいものは なにもなくて まあ、てきとうに 胸がでてて 体の線がやわらかくて 安産型で、いや まあ、がりがりなら それでもいいし そんなに、うるさくなくて いや、おしゃべりなら それでもかまわないし 結局のところ 女なら誰でもよかった 女なんて 誰でも同じだと思ってた 女なんて そう、女なんてね つ

(詩)お帰りなさい

なつかしい あなたの胸はわたしの大地 わたしのこと何でも知っている 生まれた街も、わたしの夢も わたしの涙も知っていてくれる そんな気がした はじめて会った時 なつかしかった人 きっと出会う前から知っていた ふたりめぐり会うこと あなたの胸に包まれた時 ふるさとのにおいがした 幾千の時を越え 今やっと辿り着いたね 互いの胸に 孤独を知ったあの日から ずっとこの宇宙の中を さがし求めていたから やっぱり出会う前から知っていた いつか互いの胸に 帰って来ること だから

(詩)お父さん似

きみのお父さんを見たよ 偶然街でばったりとね とっても立派な人だった でもやさしそうだった きみみたいにさ 何だか急に 自分のことが恥ずかしくなった とっても敵いそうにないって とてもきみを 幸せになんか 出来そうにない気がして だからもう会えないって 今度きみに会ったら 言おうって決意したのに きみの顔見たら何も言えなくなった きみが お父さん似だったんだって 分かったよ きみの笑い顔見たら 何も言えなくなった

(詩)傷だらけの恋

今はしずかに 海もひいてゆくから この夜のやみに 世界のかなしみ 見とどけるつとめを 銀河にゆずって ゆっくりと海も今 眠りへと かえってゆくから ぼくたちの 傷だらけの恋も 出会った頃は まっすぐで まっしろ、だったはずの 今はけれど きみの涙と ぼくのいいわけとで すっかり傷ついて つぎはぎだらけに なってしまった ぼくたちの恋の羽根を 今はこの夜のやみに しずかに閉じて 今はしずかに ひいてゆく海の 眠りにつくしおざいたちの 遠い、遠ざかってゆく 時の余韻