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(詩集)きみの夢に届くまで

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詩の数が多いので、厳選しました。っても多い?
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#少女

(詩)きみの夢に届くまで

この夜の何処かで 今もきみが眠っているなら この夜の何処かに 今きみはひとりぼっち 寒そうに身を隠しているから 今宵も降り頻る銀河の雨の中を 宛てもなくさがしている 今もこの夜の都会の片隅 ネオンの雨にずぶ濡れに打たれながら 膝抱えさがしているのは きみの夢 幾数千万の人波に紛れながら 路上に落ちた夢の欠片掻き集め きみの笑い顔を作って 都会に零れ落ちた涙の欠片の中に きみの涙を見つけ出せば 今も夢の中で俺をさがし求める きみの姿が見えるから この夜の何処かに 今もきみが

(詩)少女へ

少女へ 生き急ぐきみへ その席に座っていた ひとりの少女が じっと花を見つめていたことや 時々ひとりで笑っていたことを 誰も知らなくても 痛々しいほど腰の曲がった 老婆が歩く姿や 駅前の階段に座り込んだ 浮浪者の姿をどんなにか かなしそうな目で見ていたことに 誰も気付いていなかったとしても 花の中に少女のほほえみは残る 老婆や男の心の片すみに 少女の涙の粒は住みついて 少女の声や夢は 小さなかけらに姿を変え それは種となり土に眠り やがて春がまた訪れて 去年の今頃

(詩)少女へ(海)

貝殻、足跡、波の音、 空の青さ、木漏れ陽、プラタナスの木陰、 夕映え、夕立、虹、 駅のホーム、街の灯り、花火、 星座、ラヴソング、風のにおい、 夜明けの静けさ…… 目印はいくつもある、この星の上に もしもきみが遠い国へ行って 誰もきみの行方を 知る者はいなくなっても きみが残していったすべてのものが やがてこの地上から 永遠に忘れ去られた後にも ぼくは海の夕映えのきらめきの中で 潮風と遊ぶきみの笑い声と出会うんだ きらきらと輝く波の中で いつも寂しそうにしているぼくの背中

(詩)少女へ(歌)

この地球の片隅 未開の大地のかたすみに 歌うことの好きな一人の少女がいて 少女は夕ご飯の後 こっそりと家を抜け出し 近くの森に行って歌うのです 眠る動物たちや 風のざわめく森の木の葉や 幾種類もの大小様々な虫たち 鳥たちがいて 少し向こうには 荒涼と広がる砂漠があって 月の光にさらさらと 無数の砂の一粒たちが瞬いて みんな少女の歌を 聴いているのです けれど彼女の歌を 耳にすることができるのは 彼らだけ 彼らがレコード会社に 彼女を売り込んだり TVで宣伝したりはし

(詩)マザーアース

それは ひとりの少女のおでこ そのおでこには アフリカ ユーラシア ノースアメリカ サウスアメリカ オーストラリアの五つの大陸 それから、それから そのほか小さな たくさんの島々が描かれていて その中では 小さな小さな動物たちや 植物たちが暮らしています 少女の鼻は 世界中のケーキのにおいを嗅ぎ 少女の口は 世界中のラヴソングを口ずさみ そして 少女の耳はじっと聴いている わたしたちの嘆き、 泣き叫ぶ声を聴いている そして 少女の目は じっと見つめている いつもじ

(詩)少女へ(夏)

わたし あなたから 生まれてきました それはあなたがまだ 夏服もぎこちない 中学一年の夏の教室の片隅 クラスのみんなが ひとりの無口な女の子を 取り囲んでいましたね あなたは最初 知らない振りをしていた けれど彼女へのみんなの攻撃は 日増しにエスカレートしてゆき ある日誰かが 彼女のセーラー服を 脱がそうとしたので とうとう たまらなくなったあなたは 席を立ち 勇気を振り絞って みんなに向かって言いましたね その瞬間から今度はあなたが 標的にされることを覚悟しな

ネオン街の雨宿り

どうして日本にきたの ニホン、ニッポン にほん、にっぽん どうして 船できたの フネ、ふね、で わたしは船で 日本に来ました わたしの答えは これで、正しいですか わたしの日本語、 変、ありませんか ネオンのまぶしい 光をさけて ネオンのあやしい またたきを逃れ 傘も差さず歩く少女に 傘を差しかけ立ち話 二万 ニマン、エン わたしは二万円、です 少女の指さすネオンライトの ホテルの看板の文字が やさしく雨にぬれている ネオンのまぶしい 光をさけて ネオンのあ

(詩)柿の木だった頃

いつも山が見えた 田んぼが見えた 畑が見えた 小さな家が見えた 男の子がいて 女の子がいた いつも 風が吹いていた いつか 男の子も女の子も 大人になって 村を出ていったり 結婚したり そしてまた 別の男の子がやってきて 別の女の子がやってきた 人も ぼくから見れば 風と同じなのさ 人も、ただの風 ぼくが柿の木だった頃 少女の手に 柿の実を落としたら 少女は 柿の実にキスをした 柿の木のくせに ぼくはドキドキした すぐに年老いてゆく一生も たまには悪くないな、と

(詩)ラストダンス

きみと一晩だけ ダンスを踊ったことがある ダンスといっても きみの体調が あんまり良くなくて ふたりとも 少しも動かなかったから 正確にはダンスとは 呼べないかもしれないけれど しずかにただ じっと きみがぼくのうでに つかまっていたんだ そして一晩中 星空の砂浜に 突っ立っていた 時々ぼくが歌ったり きみが笑ったり それからふたりとも 黙っている時は しおざいがひびいていた 夜が明け 血相を変えて一晩中 きみを捜し回っていた 連中がぼくたちの 海岸にやってきて み

深夜放送

そのラジオ局は ラストバラードが終わり DJがおやすみを告げたら あとは夜明けまで 波の音を流した 深夜放送に 夢中の不良少年は 朝までのわずかな時間 ラジオから流れてくる しおざいの中で 眠りに落ちた 夢の中では 決まっていつも ひとりの少女が現われ けれどその顔は ぼやけていて その代わり少女はいつも 海のにおいがしていた そうやって育ったせいか 今もラジオをつけると しおざいが 聴こえて来る気がする 夜明け前に目を覚ますと どうしてもつい 波の音をさがしてし

(詩)少女が虹を描いている

少女が空に虹を描いていた 色は七色で塗ってくれるかな 透き通るような青空にお似合いの けれど少女の虹は灰色一色 丸で憎悪に満ちたケムトレイルみたい 何かつらいことでもあるのかな この世界から 逃げ出してしまいたいのかな 少女が空に虹を描いていた 涙の色って何色だろ 少女の涙にも 虹が架かればいいのに たとえ涙色の虹でもいいからさ 少女が空に虹を描いている それでも少女が笑う時 空にはやっぱり 七色の虹が 架かっていてほしい