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『首』に見る異端の視点

もう観たい人は観たでしょうからネタバレ込みでいいと思いますが、北野武監督の最新作『首』がなかなか面白かったので感想をここに記しておこうと思います。

これは戦国時代版の『アウトレイジ』かな?と誰もが思ったでしょうし、私もそういうものを期待して観に行ったんですが、ちょっと様子が違うんですよね。確かにバイオレンス要素もたっぷりあるんですけど、テーマは違ったように思います。

おそらく、たけしさんが「羽柴秀吉」をやりたかったんでしょうね。で、この秀吉が戦国の価値観、特に首級を求めて争うという武士の生き方の埒外にいる。ここが重要なんでしょう。いちいち戦国の理にツッコミを入れ、ラストシーンは首を「どうでもいい」と蹴っ飛ばします。

秀吉の出自が百姓というのは現在ではほぼ否定されてるようですが、それはこの物語ではどうでもいいことで、要するに異端の存在が業界の常識を蹴っ飛ばし張っ倒し、そして笑うことでのし上がる様をご自身と重ねて描いたのではないでしょうか。価値観のぶつかり合いがテーマですね。

たけしさんは天才であるが故だと思いますが若い頃様々なものに馴染めず、結局は演芸の世界に飛び込み、そこで才能を爆発させました。異端を受け入れて大暴れさせることのできる演芸業界もまた凄いと思います。そして天才の影響を受けて業界も変化・進化していく。

私がそのほんの片隅の片隅に混ぜてもらっている落語の世界も、実に様々な経歴の人がいて、様々な形で関わっておられると思います。基本の型を守れば、後は自由だし、どんな人でもウエルカムですよ、みたいな懐の深さをしみじみと感じます。だから演芸は時代を超えて強いのでしょう。

そんなわけで、秀吉の役は、年齢的にどうかと言われようとも、絶対にたけしさんが演じなければならなかったのですね。『首』は人を選ぶ映画だとは思いますが、なかなかの怪作なので、残虐描写が大丈夫な人にはお勧めです。残虐描写が大好きな人にはさらにお勧めです。

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