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【掌編小説】クマ出没

あるホームセンターにクマが突如出没した。客も店員も全て避難したが、クマは店内に居座って出ていこうとしない。地元の猟友会が出動し、クマは射殺された。ペットコーナーはちょっと表現できないくらい酷いことになっていた。店員と地域の人々は安堵した。
翌日から店へと大量の抗議電話が殺到した。「なぜ殺した」「麻酔銃を使えなかったのか」「山へ返すべきだ」「悪いのは人間だ」「お前は絶対に許さない」丁寧に誠実に対応した店長は見る間にやつれて体調を崩し、とうとう亡くなってしまった。
慕われていた店長の死に皆は悲しんだ。「なんで店長が責められなきゃいけないんだ」「抗議してきた奴らはクマに襲われても平気なのか」「畜生、奴らの所にクマが出ればそんなこと言えないだろうに」「よせよ、もういい。俺たちで頑張ろう」店はその後さらに繁盛した。
一年後、同じようにまたクマが店に出没した。同じように射殺されたが、もう抗議電話にまともに取り合う店員はいなかった。憤懣やるかたない抗議者は何度も何度も昼夜問わず抗議したが梨の礫だった。何人かの抗議者は怒りとストレスで倒れた。その目には過労と睡眠不足による大きなクマがくっきりと刻まれていた。