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その後の「さんまんえん」

三万円の枕が欲しい。頭がスースーしてよく眠れるらしい。

私の枕は相変わらず、ぺちゃんこである。
ぺちゃんこな枕を選ぶのは、身体の形が平だからだ。

ふっくらとした枕は西洋人のような曲を持ち合わせているからこそ、身体に合うのである。

とはいえ、布団の上に転がっているそれがあまりに不憫なので、
先日、食料品の買出しのついでスーパーの二階の洋品店で新しい蕎麦殻の枕を購入した。

買ったなりの状態では蕎麦殻が多く枕が高すぎる。帰宅後、枕の端をほどき、余分な蕎麦殻を出している。

ざー、からからから
ざー、からからから

からからから、というのは、余分な蕎麦殻を皿に出している音である。


数ヶ月前、用があって知人の店に行くと、アンティーク品の展示をしていた。

出不精な生活を送っているせいか、たまに街に出ると妙な胸騒ぎがする。いつ出かけても街は外国映画の中のクリスマスのようで、一人うっとりとその非日常を眺めてしまう。


アンティークの白磁の皿二枚。

当時はB品であったであろう欠陥部分が、かえって味わい深い。
求めるときに、友人が傍に来て、ああ、いいのをみつけたね、と耳元でいうので、いいねいいね、といいながら更に一枚余分に求めていた。

一客一万円、合計で三万円。

お金の話は、なぜ嫌らしくなるのだろう。

自分語りより自分が如実になるからだろうか。

とにかく、私の一年越しの高級枕は、あっさりと三枚の白磁皿にすり替わった。
今その皿に、1320円で購入した枕の蕎麦殻をだしている。

蕎麦殻を半分ほど(多分480円分くらい)出し、ほどいた枕を縫い合わせると、私の体にピタリと合う平な枕になった。
ぽんぽんと叩くとうっすら窪みができて、そこに頭を乗せるとピタリと合うのである。

皿の上には、私の頭の窪み分の蕎麦殻が一皿に一山、合計三山ならんでいる。
虚しい部分が形になっているようで不思議な気持ちになる。
山の形が愛らしいので片付けるのは明日にしようと床につく。


三万円の枕が欲しい。頭がスースーしてよく眠れるらしい。インドに行くより人生が変わるかもしれない。私の生きている時間が過ぎていく。スマホのあかりを頼りにさんまんえん握りしめて一人横たわっている。


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