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vol.06 よく見ると...絵画の写真?! いろんな人になりきる森村泰昌さん


みなさんはこの絵画を一度でも見たことがあるのではないでしょうか?

ごっほ

ゴッホの自画像!



ん?あれ?

何か違和感を覚えませんか?

よーく見てください!


この作品は現代作家の森村泰昌さんがゴッホになりきって撮影した
セルフ・ポートレートなんです!

森村さんは1985年に発表した《肖像/ゴッホ》から今まで
モナ・リザやマリリン・モンローなど絵画に出てくる人物から
ハリウッドスターまでいろんな人に扮して、セルフ・ポートレートを制作しています。

もなりざ

森村泰昌
《はじまりとしてのモナ・リザ》
カラー写真・インクジェット
1998年

えど

森村泰昌
《「奴・江戸兵衛」としての私》
木版・亜鉛凸版・デジタルプリント
1996年

まりりん

森村泰昌
《ポートレイト(女優)/ 駒場のマリリン》
ゼラチンシルバープリント
1995 /2008年 

こんなにたくさん....
一人の人間が性別、国籍、時代関係なく色んな人になれるんだなとびっくりしました!

なぜ森村さんは35年に渡り、同じ作品シリーズを作り続けているのでしょうか。このコラムを通して一緒に考えていきましょう。


登場人物になることで その世界に飛び込む

みなさんはアート・歴史について学ぶ時や、映画鑑賞をする時は
どのように楽しみますか?

歴史がテーマの小説や漫画を読んでみたり、
美術館・映画館で作品を鑑賞したり...?

森村さんの場合は、登場人物に扮してその時代や歴史を行き来するそうです。

自分自身が作品に「なる」ことで作品や歴史に出会う。

人物になりきるからこそ、「読む・観る」だけでは知ることができないことを体感できるのかもしれません。

森村さんは他の誰かになる途中で見つかる「発見」を作品に取り入れることがとても大切だと考えています。

例えばマネの《オランピア》という絵画を元に、

おらんぴあ


エドゥアール・マネ
《オランピア》
油彩・カンヴァス
1863年

この作品が制作されました。

もり おらんぴあ

森村泰昌
《モデルヌ・オランピア》
Cプリント
2017-2018年

マネの作品に似ているようで、少しずつ違いがありますね!

絵画に描かれている人物は西洋の女性に対して、
森村さんは日本髪を結いた女性に扮していたり、
右端に描かれている黒猫は黒の招き猫に変わっています。

その人物になる途中で見つけたものを「アレンジ」することで
絵画・人物のモノマネに留まらず、森村さんらしさを表現し
自分自身を知るためのセルフ・ポートレートになるのかもしれません。


自分の迷いをさらけ出し、表現する

森村さんが他の誰かになって撮影する「セルフ・ポートレート」という
表現方法を発見するまで、じつに12-13年という長い道のりがありました。

それまで写真、絵画、版画、児童文学と幅広く挑戦しましたが
森村さんが望む表現方法が見つからず、でも何かを表現したいと悶々とする日々が続きました。

その様子を振り返った時、あーでもない、こーでもないと
どれが自分に合っている方法なのか「迷っている自分」を発見したそうです。

この「迷っている自分」を見つけた森村さんは、

「ならいっそ、自分のできることや興味のあることを一緒にして、一つの作品をつくるのは?」

と思いつき、自身にペインティングし、
演じることも好きなので、人物になりきって表情やポーズを決め、
その姿を撮影するというスタイルを確立しました。

森村さんが感じる「迷い」や「未完成な要素」、「興味のあること」を
そのままやり通すことが潔いですし、人物になる過程で見つけた「違い」や「違和感」が作品の個性となっていて面白いなと思います。

私は、森村さんがインタビューで仰った

「迷ってていいんだと、思ったんです。」

引用元:
HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN, 2020, 「美のトライアスロン。」, 
https://www.1101.com/n/s/yasumasa_morimura/2020-07-29.html

という言葉を読んだとき、肩の力がすっと抜けるような感覚がありました。
私もダンスや写真など色んなことに興味があるのですが、自信を持って
「これができます!」と言い切ることがなかなかできないです。
(もちろん、自信を持って言えるようになるように頑張っています!)

試行錯誤している様子をさらけ出したら、新しいものが生まれるのかもしれないですし、それが私の個性になるのかなと思うことができました。

森村さんがセルフ・ポートレートを35年間続けているのは、美術作品や歴史を知るだけではなく、他人になることでありのままの自分を見つめようとしているのかもしれません。


参考文献:
HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN, 2020, 「美のトライアスロン。」, 
<https://www.1101.com/n/s/yasumasa_morimura>

Morimura Yasumasa, <http://www.morimura-ya.com/>

SPICE, 2018, 「森村泰昌『「私」の年代記』展がシュウゴアーツで開催 森村芸術の34年間の軌跡をたどる」,
<https://spice.eplus.jp/articles/212812>



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