ある日、罵倒する世界に飛び込んだ。

約一年前に「罵倒教室」という小説を書いた。そのあとがきのようなものを、今更だけど書きたい。


「罵倒教室」の簡単なあらすじとしては、人生が平凡でつまらないと考える実家ぐらしのOLが、特異な体験・刺激を求めて「罵倒教室」の門を叩くという話だ。SNSのやり取りから始まり、講師から指導を受けて最後には対面で罵倒するという試験をクリアしていく。

実をいうと、この話には私の実体験が多く含まれている。守秘義務があるから詳細には書けないけれど、簡単に言うと、私は「罵倒してほしい」という人に弟子入りしながら、人生で初めて見知らぬ人を罵倒するという、不思議な数日を過ごしたのだ。

「罵倒教室」の物語自体はファンタジーだし、どの部分が実体験かは言わない。だけど、SNSで募集されたその依頼に対しどうしてか「やってみたい」と思い、真面目にメッセージを送り、かなり清潔なやり取りを経て罵倒話術を学んだことは事実だ。

小説に出てくるルイ(講師)のような人は、とても丁寧に罵倒の世界(ほんの一部で、個人的な趣味の範囲であるだろうけど)を教えてくれた。
どんなポイントに注目して罵倒すべきか、どんな言葉で罵倒するのか。その講習と並行し、自分でもネットで調べたり、SNS上の知り合いに聞いてみたりして、とにかくその数日は「罵倒」することに集中した。どこをとっても私の知らない世界だった。

弟子入りする際、私は正直に「罵倒」に関して全くの初心者であることを告げた。その上で、相手は私のそんなところに興味を持ち、採用するに至ったらしい。
私は出された課題に対し、初心者らしく、それはそれは熱心に挑んだ。だから最初から結構褒められた。

罵倒期間のその数日は朝から晩まで課題に取り組み、最終的にはおそらく(初級にしては)相手を満足させるレベルに達したようで、最後は予定にない応用編まで頼まれることになった。しかしそこは契約外の要求だったのではっきりと断った。相手がそんな申し出をしてきたことに怒りを覚えた私は、素の状態で罵倒してやりたい気持ちだった。だけどすんなり謝罪されて、きれいに講習の幕引きをした。

あとにも先にも、あれだけ人を嘲笑い罵倒したのは初めてだし、もう一度頼まれたところでやらない。だけど、一度でもやってみてよかったかどうかを問われれば、間違いなく「やってみてよかった」と答える。

そんな不思議な経験が、その後の私の人生に何も生かされないのはもったいないと思い書いたのが「罵倒教室」という掌編小説なのだ。作品として、罵倒した思い出を残す事ができて良かったと思う。

当時を振り返り、あのときの講師に「ありがとう」は言わない。
だけど、なんだかんだ、「罵倒」講習を受けたことに満足している。





#自分で選んでよかったこと
#エッセイ



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