幸せケアハウス 【なるべく動物園】
「人間、最後はなるべく動物的でありたいものです」
母を入居させる予定の園を、説明を聞きながら見学する。
飼育員のような作業着を着た園長の後について行くと「猿山」と書かれた部屋の前に着いた。岩を思わせる隆起した床の上に、男女が仲良く毛繕いをするような親密さで、互いの体をさすっている。男性は服を着ていない。
「着衣に関して、ルールはありません」
園長は言う。
「だって、動物に強制して服を着せることは虐待でしょう?」
母の反応が気になり振り返ると、居なくなっていた。慌てて来た道を戻る。
母を見つけたのは「アライグマの池」だった。ビニールプールが置かれた場所で、母は一心不乱にじゃがいもの泥を落としていた。かつて台所仕事が大好きだった姿を思い出し胸が熱くなる。
園長に、ここに決めますと言いかけたそのとき、足元に何かが落ちた。
「チンパンジーの家」から投げられた黒くて異臭を放つもの。投げた人は私を見て笑っている。私も引きつった笑顔で応えた。
[完]
#毎週ショートショートnote
に参加させていただきます。
今週のお題【なるべく】×【動物園】で書きました。
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