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あれがないとできない  /ファシリテーション一日一話

悲報 愛機沈黙

愛用しているパソコンが壊れた。コロナ禍に突入した夏に購入した愛機、MacBookPro。たっぷり充電しているはずなのに、急にパッテリー・ゼロに陥り、立ち上がらなくなる症状が出始めたのは6月の下旬のころ。たまに立ち上がり、次には立ち上がらなくなる不安定な状況で、気になってアップル・サポートに連絡をした。オペレーターが提案してくれたいくつかの方法を試したが、なかなか改善をしない。むしろどんどん状況が悪化する。これはいかん、と思って以前使っていた先代のパソコンをひっぱりだして、セットアップした。作りかけの書類を移行し、頻繁につかう書類をクラウドにあげ、バックアップをとる。

銀座のアップルストアにて「復活」の儀式を執りおこなうも沈黙する愛機

現役のほうのパソコンは、いよいよ動かなくなり、東京出張のついでに銀座のアップルストアにまでいって教えを請うたが、どうにも打つ手はないらしく、工場送りとなった。戻って来るまで、だいたい1週間かかるらしい。先代のパソコンは、キーボードが破損していたり、内蔵カメラが死んでいたり、Zoomを立ち上げると熱をあげてふうふうあえいでいたりと、自分がパソコンを買い換えた理由を思い出すような感じで懐かしかった。まだ、あの夏は、僕の仕事部屋にはクーラーがなく、足下にたらい水をはって、網戸をあけて慣れないZoomと格闘し「青木さんの画面からセミの声がよく聞こえます」とフィードバックを受けて赤面していた。

パソコンがないからできたこともある

修理には一週間ほどかかる、と分かってから、モードを切り替えることにした。僕は電波の届かない山を3日間ほど歩く修行にでかけ、黙々と歩く時間を頂戴した(そして、それは大変によい時間であった)。帰宅後、かねてから作りたかった木のベンチの制作に取りかかり、下手なDIYながら、なんとか完成させることができた。筋トレと節制につとめ、医者と合意した体重減に本格的にとりかかり、目標の65kgに到達した。仕事先との打合せはスマホからのZoomでなんとかなったし、メール返信の遅れているお相手には電話で事情を伝え、要件を口頭にて伝えた。修理期間中もファシリテーションの仕事が何本かあったが、いずれも問題なく終えることができた。なんだ、やればできるじゃないか。

できないのは請求書の発行や、原稿を書くなどの文書作成ぐらいのものだ。おかげでこの連載も、ちょいと滞ってしまったのだが、パソコンを触らないですむ1週間は僕にとって貴重なものだった。

12時間ほどかけてあがった山頂からの日の出は美しく、得がたい経験となった

ないならないで、なんとかしましょう

ご依頼を受けていろんな組織にでかけ、会議を進行するのが主な仕事の自分だが、依頼主から「どんなものをご用意するといいですか?」と質問されることがある。ホワイトボードや、模造紙、ポストイット、クリップボードに養生テープ、など、こちらの要望を伝えるのだが「あいにく、うちにはホワイトボードがなくて、、」「水性マジックがないのですが、どうすればいいでしょう? 買ったほうがいいですか」というお返事が来ることもある。若いころの自分であれば「ホワイトボードがないと、やりにくいのである部屋を借りてください」とか「水性マジックは参加型会議に必須なのでこれを機に買ってみては」と、道具を揃える方向に話をすすめていたが、最近の自分は「ないならないで、なんとかしましょう」みたいな返事をすることが増えてきた。

優れた道具は仕事を助けてくれる。だが、道具に頼り切りになって「あれがないとできない」「これがないとできない」と思っているとしたら、それはもしかすると思考停止の一種かもしれない。プレゼン先で、プロジェクターとの接続ケーブルがなくてオロオロしている発表者と、接続を模索するため奮闘している主催者をみていると「画面はいいからさ、その人の話を、皆できいてみようよ」と声をかけたくなる。

その辺にあるものでなんとかする力

「その辺にあるものを使ってやる」という力が高まると、たいていのことは何かで代用できたりもするのだ。空腹は内臓を刺激し、道具不足は人のクリエイティビティを刺激する。もう何年かしたら、僕はマジックや紙類も手放して、そのへんの木の枝で地面に文字を書いて会議進行をしているのかもしれない。今回のパソコン修理1週間のおかげで、そんなイメージを持つこともをできた。

お陰さまで修理は完璧に施され、以前よりスピードもパワーもあがった感じのある愛機を使って、久しぶりに原稿を書くことができている。ありがたい便利な道具の恩恵を受け、それらに感謝しつつも「あれがないとできない」モードにならないよう、自分を柔軟に保っていたいと思う。

今回つくった2つの木製ベンチをつかっていつかアウトドア・ミーティングをしようと思う

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