熊野古道・中辺路を歩いてきました/オススメの歩き方5つ
みなさん、こんにちは。熊野出身のファシリテーター、青木マーキーです。お盆休み、いかがお過ごしでしょうか? 僕は実家に帰ってました。ほんとは家族4人で帰省するつもりだったのだけど、南海トラフ注意のニュースとか、いろいろあって僕一人で帰省することに。墓掃除や、実家の手入れをして過ごすかな、と思っていたのですが、ふとこれを機に「熊野古道・中辺路を通しで歩いてみよう」と思ったのでした。
熊野古道は20年前に世界遺産に登録された熊野への参詣道。1000年ほど前から、人々が熊野詣を続けた道です。京都にお住まいだった上皇や貴族も度々訪れたり、東北地方の武士や、日本各地の庶民が訪れた記録も残っています。和歌山県北から南下する紀伊路、太平洋ぞいを通る大辺路、田辺から本宮へ山中を歩く中辺路、高野山からの小辺路、吉野からの大峰奥崖道、お伊勢さんから三重県を通過する伊勢路など、複数のルートがあり、そのいくつもが、今も当時の姿で残されています。つまり1000年前から使われてきた道を歩く、ということです。この道を、花山上皇や、後白河法王や、後鳥羽上皇や、藤原定家、和泉式部なんかも歩いていたかと思うと、大河ドラマ・ファンとしては、なんだかドキドキします。
今回はメインルートの中辺路(なかへち)を歩いてみることにしました。これまで、何度も熊野地方を案内してきた僕は、部分的には歩いたとがあるのだけど、通しで歩いてみたら、どうなるんだろう?と思ってのトライ。熊野三山の神域がスタートする滝尻王子から本宮大社までの38.5kmの道のりを2日間で歩いてみよう!という企画です。
オススメの歩き方 その1:交流を楽しんで歩く
中辺路がよいのは、その横をバスが走ってくれていること。紀伊田辺駅から本宮大社までのバスが朝5時台から夕方5時台まで、本数は多くはないけれど、毎日確実に運行してくれています。これが実にありがたい。僕は本宮大社を朝5:44に出るバスにのって、スタート地点の滝尻王子に7:12下車。美しい富田川が出迎えてくれます。昔の人は紀伊田辺からこの川沿いに歩き足を浸すことを禊ぎと捉えていたそうです。
滝尻王子にて参拝・祈願をしたら、いきなりの急登。たぶんこのスタートの登りが一番きつんじゃないのかな、と思います。以前、古道歩きの初めてという方をお連れして、この道を30分あがったところで「ギブアップ、もう降りましょう」の声がかかったことを覚えています。登りはじめ、朝一番、体も慣れてないということで、かなりきつく感じました。でも、だんだんペースがつかめてきます。
途中、何人もの外国人に会いました。直接言葉を交わしただけでも、フランス、オーストラリア、イスラエル、韓国、中国、インドネシアと実に多様。日本からも沖縄や滋賀や大阪など、いろんな土地から熊野を目指して来て下さった方と交流できて、とても楽しかったです。
オススメの歩き方、その1は交流を楽しんで歩こう、です。道中、苦しいと思ったり、キツいと思ったとしても、周りを歩く皆さんは、同じゴールを目指している仲間ばかり。はげましあったり、助けあったり、声かけあったりしながら進むことができるのは、なんだか、とてもよかったです。
老夫婦が歩いている姿を見てうらやましいなと思ったり、親子で歩く姿を見て「こんな小さい子にチャレンジさせるの、すごい」と思ったり。僕もいつか家族で歩いてみたい。妻はいつか一緒に歩こうと言ってくれているし、子どもたちも興味もってくれるとうれしいなぁ。
オススメの歩き方 その2:スマホは機内モードで
8月のお盆シーズンなので、一年で最も暑い時節。当日は熱中症アラートも出されていましたが、いざ登ってみると分かるのは「森の中のほうが圧倒的に涼しい」ということ。山を歩くのでもちろん汗だくではあるのですが、森の中は基本的に日陰が多く、風が吹くと気持ちよい。森を抜けてコンクリートの休憩所やアスファルトの駐車場に差しかかると、暑くてとてもいられなくなって、またすぐに森に歩きに出てしまうほどでした。これは以前、雨天時に歩いた感想なのですが「多少の雨が降っていても、森の中は大丈夫」という感覚もあります。木々の葉っぱは、私たち巡礼者を守ってくれているのです。
自然の様子や風や生きものの気配を感じながら歩くのは、とても気持ちよかったです。実は今回、ちょっと悩んで、モバイル・バッテリーを持ち物から外すことにしました。そして、スマホは機内モードに。メールもこない、電話もかかってこないモードにしたのです。すると歩くこと、自然を楽しむことに集中できて、とても気持ちがよかった。まぁ、そもそも山中はソフトバンクは圏外というエリアも広く、ずっと電波を探してスマホが働いているのでバッテリーの消耗も激しいものです。画面を見る時間が減るのは、心地よかった。
僕としては、山に入ってまで、ずっと画面を見ていたい感じがしないので、これはちょうどよかった印象です。周りの風景を自分の目で楽しみ、紙の地図をじっくり眺めて、位置を把握しながら歩く。うん、なかなかいいぞ。
ちなみに熊野古道は、かなり詳細で良質な紙のマップが揃えられているので、山に入る前に情報センター等で貰っておくのをオススメします。事前にネットで必要部分だけダウンロードも可能。
オススメの歩き方 その3:祈りを携えて歩く
今回の古道歩きで実践したのは「全ての拝所で祈りを捧げる」こと。熊野古道には九十九王子といって、熊野の神さまの分身みたいな小さな神社であったり祠のようなのが道中に沢山あります。長い道中の目印であり、この王子で禊ぎをしたとか、あの王子で休憩して和歌を詠んだという中世の記録も残っています。
今回スタートした滝尻王子に始まり、熊野本宮大社の直前にある祓殿王子に至るまで、すべての王子で法螺貝を吹き、祝詞を唱え、祈ることにしました。また、道中には色々なお地蔵さんがあるのですが、その全てに灯明を捧げ、お線香をあげ、般若心経を唱えるというのもやってみました。能登地震や山形の水害など自然災害に見舞われた被災地の復興や、終わらない戦争の終結と世界平和、風雨順次に五穀豊穣、このたび熊野古道歩きをなさっている皆さん(自分も含め)と、そのご家族、お世話になっている方々、地域の方々の家内安全・身体堅固・厄難消除と、道中の安全を祈ります。
中には落ち葉に埋もれたお地蔵さんや、クモの巣にからまった祠もあるので、その場合は、できる範囲でお掃除も。すると、すべての拝所やお地蔵様が応援してくれるような感覚が湧いてきます。
なので、僕はどんどん他の参拝者に追い抜かれてゆきます。その方々と、次の休憩所で追いついたり、また追い抜かれたり。しだいに挨拶は「こんにちは」から「また後で〜」に変わっていったりしました。「いやぁ法螺貝の音が聞こえると、お、近づいているな! あと少しで次のポイントだ。頑張ろう!という気持ちになるんですよ」と声をかけられたことも、とてもうれしかった。「それぞれ違う場所から集っているけど、皆で一緒に歩いている」。そんな感覚のある古道歩きでした。
そもそも、熊野古道は祈りと巡礼の道。誰か病に苦しんでいる家族がいらしたらその回復を願って歩いてもよし、身近な方が亡くなった後であればその方のご冥福をお祈りして歩いても、よし。皆さんも、ぜひ、熊野古道を歩くときは祈りを携えてお参りくださればと思います。すると、単なる山歩きとは、ひと味違った体験ができるのかな、と僕は思います。
オススメの歩き方 その4:白き衣を身にまといて
外国からの登山者は、けっこうな確率で半袖短パンだったりして、虫に刺されないんだろうかと驚きます。日本人でたくさん見かけたのは、トレッキング・ポール2本もって、レギンス履いている感じの登山スタイル。ザックも靴も有名なアウトドア・メーカーものでばっちり決める感じ。ちなみに熊野古道はアブもハチも吸血ヒルとも遭遇確率が高いので、ガイドブック上でのオススメ服装は、帽子・長袖・長ズボン。
まぁ、何を着るかは、人それぞれ自由なのですが、僕のオススメは「白装束」です、はい。なにせ、祈りとか巡礼とか押しなので(笑)。
昔の熊野参詣絵図などを見ると、白装束がメイン・ファッションだったことが読み取れます。1000年近くある歴史のなかで、たぶん900年間ぐらいは白装束がメインだったのではないかな。そもそも、白い装束は「死に装束」。人が亡くなったときに棺桶で着用する服ですね。山伏修行では、山に入るのは、一度死んで=白装束をまとい、森=母なる胎内に入り直す、みたいな意味合いを込めていたりします。そして、母なる胎内である山中をしばらく歩き、下山した時は、この世に生まれなおす時という感覚。なので、僕のオススメは「白い衣を身にまとう」です。今回、僕はいつも山伏修行で着ている行衣と、白ズボンと、白い地下足袋に白リュック&法螺貝という出で立ちでした。
そこまで全身白づくめじゃなくてもいいのだけど、上着だけでも白いシャツをチョイスするとか、参拝のときに白い羽織りものを取り出す、とか、白い手ぬぐいを持って歩く、とかもいいかもしれません。巡礼の感じが増してオススメです。
オススメの歩き方 その5:温泉を楽しみに歩く
今回、かなりの気温ということもあって、全身汗だくでした。夏場はたっぷり汗をかくので、水分はかなり必要です。ルートによっては3時間ほど給水ポイントがない山道を歩くので、その間の水分は持って歩けるようにしましょう。僕は初日1リットルのポカリスエットと500ccの水筒に氷を詰めた麦茶でスタートしました。が、水分は飲み干し、途中で補充したものも飲みきって、トータルで3リットルは飲んだと思います(10時間近く歩いたから当然か)。給水ポイントを見逃していたら危なかったかも(ガイドブックに詳しく書いてある)。2日目は、さらに集落から離れたルートになるので2.5リットルの水分を持って歩くことにしました。こちらも途中2回給水したが、ゴール地点で残っていた水分は100ccもありませんでした。うーん、さすが夏場。ぎりぎりです。
たくさん汗をかくので、ぜひ楽しんで頂きたいのが熊野の温泉です。かなりの種類の源泉があり、温泉好きにはたまらないエリアです。とりわけオススメはゴール地点のひとつである熊野本宮大社に近い湯峯温泉(近いといってもバスで15分、歩いて1時間ほどだだが)。この温泉の薬効はものすごく、江戸時代の温泉番付でナンバーワンの勧進元を飾ったぐらい。僕も最終日、この温泉でほっこりしました。他にも、川を掘れば温泉が出てくる川湯温泉や、巨大な露天風呂を携える渡瀨温泉、中辺路の中継地点である近露温泉や、速玉大社のある新宮市にある高田温泉、那智大社がある那智勝浦町のきよもんの湯、などは、僕がよくいくオススメの温泉たちです。歩いてパンパンになった足の疲れをとり、汗をさっぱり流すには温泉が一番。疲労回復にもたいへんよいです。
温泉がどうしても時間的に無理、という方は、山中に幾度となく川のせせらぎを見ることができます。そこに足をつけてみるだけで、とても気持ちがいいです。今回、僕はある小川に足をつけたら、魚がつんつん突いてきました。気がつくと30匹以上のお魚が僕の足をつついてくれていて「天然のドクターフィッシュや!」みたいな感嘆の声をあげたことを覚えています。温泉や川のせせらぎを楽しみに歩く、これ、かなりオススメ。
達成感がハンパない!
今回の古道歩きのゴール地点・熊野本宮大社についた時には、もう17:30すぎで閉門していました。この日は朝8時から歩きはじめているので9時間半ほど歩いていることになります。途中、何度も休憩をいれたものの、けっこう時間がかかったなぁという印象。しかし、歩き終えた充実感・達成感というのは、かなりありました。同じタイミングでゴールした方々とも、お互いのがんばりや、健闘をたたえ合い、連絡先交換などもしてしまったぐらいです。あぁ、1000年前の貴族や歌人たちも、こういう思いをして、熊野にたどり着いていたんだなぁと感じ居るものがある。
熊野古道には要所要所でスタンプを押せる場所があって、今回はスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラというキリスト教の巡礼の道とのコラボスタンプ帳に押していくことにしました。熊野古道・中辺路の主要箇所は歩ききったので、これでもしスペインでも歩けたら「2つの道の巡礼者」という称号をいただけるそうです。なんだかかっこいい。スペインも行きたくなっちゃうじゃないか!
ふだんのトレーニングも怠りなく
2日間で歩いた距離は合計38.5km。歩数にして7万歩。だいたい2日とも同じぐらいの距離を歩いた印象です。というわけで、今回の滝尻→本宮大社を一気に2日間で歩くのは、ふだんから歩くトレーニングをしてから、チャレンジしたほうが良さそうです。
近所の高齢者の方々が「一日一万歩」とかいってお散歩がんばっている姿が尊く見えます。たぶんそれぐらいはやったほうがいい(笑)。そして、階段や石段を意識的にルートに組み込んだトレーニングがオススメ。
脚力のある人は2日で歩き通せますが、少し心配な人は日数を増やすか、距離を減らして歩くといいでしょう。熊野古道には短いコースもあります。1−2時間で歩けて、それなりのアップダウンも楽しめる「大日越(だいにちごえ)」コースがオススメです。本宮大社から湯峯温泉まで、ちょっと山越えのコース。なにせゴール地点が温泉というのは楽しい。大日越で「おー、これぐらいの山道か!」というのを感じてから、ロングコースの検討をされてもいいかも。
というわけで、この夏チャレンジした熊野古道・中辺路ウォークのレポートでした。熊野古道歩きを検討されている方の参考になればうれしいです。僕自身は、実家の熊野の案内をする活動をライフワークにしようと思っています。「いつか青木マーキーといっしょに熊野古道を歩いて見たいな」と思った方は、以下のフォームに入れてくだされば、僕が次に歩くタイミングでお声をかけたりできます。
熊野で社員旅行をしたい、合宿をしたい、長期的な視点で話し合ったり、対話と巡礼の場を持ちたいという方がいらっしゃいましたら、ぜひ声をかけてください。よろこんでコーディネートします。
熊野古道、長い人生のどこかで、一度は歩いて頂きたい巡礼の道です。熊野出身者として、心からオススメします。いつかいっしょに熊野古道を歩きましょう。