
適量生産が始まる出会い(FLIKCUBE デザインのひみつ)
2021年6月のこと。
僕たちTENTは、ある新製品の発表会を行いました。
今回は、その時に発表した幻の新製品
『FLIKCUBE(フリックキューブ)』について。
そしてその背景についてお話ししていきます。
1.思考を解放する立方体
TENTアオキ(写真左)
こんにちは、今日はよろしくお願いします。
PM Juggling 板津さん(写真右)
よろしくお願いします。
PONTE 青木さん(写真中央右)
よろしくお願いします。
まずはFLIKCUBEとはどんなものなのか、動画で見ていただきましょうか。
ぜひ音ありで見ていただきたいです
TENTアオキ
在宅ワークでお仕事中に、なんとなく行き詰まるとき、あるじゃないですか。
そんな時に、おもむろに手にとって
FLIKCUBEと戯れてると
気がつけば、頭を空っぽにできて、少し血の巡りも良くなって
なんか閃いちゃうかもよ
姿勢も良くなるかもよ。
なんていう、在宅ワーク時代の新しい息抜きツールです。
TENTハルタ(写真中央左)
言ってしまえば、現代版のお手玉ですね。
TENTアオキ
言ってしまいましたね。
TENTアオキ
でもまさに、お手玉をTENTなりにアップデートしたもの。
手足で転がし弾ませて、思考を解放する立方体。
それがこの、FLIKCUBE(フリックキューブ)になります。
TENTハルタ
ことの始まりとしては、まずお二人がお店に来たんですよね。
2.お店で声をかけてみたら
PONTE 青木さん
僕はフライパンジュウを愛用しているんですけど、ジュウを作ったTENTさんがリアル店舗を始めたって発信されてたので、二人で行ってみようって話になって。
PM Juggling 板津さん
場所もちょうど我が家の近くだったんですよ。たしか、お店はじめられたばかりでしたよね。
TENTアオキ
そうですね、6月の頭にオープンして、お会いしたのは6月下旬だったと思います。
TENTハルタ
ちょうどアオキさんがお店でレジ係してた日ですね。
TENTアオキ
はい、二人ともHINGEを買ってくれたので
「何か、モノづくりとかそういうことをされてるんですか?」
ってレジしながら聞いてみたんですね。
そうしたら「ジャグリングの道具を作ってます」って。
板津さん
たしかリュックからいくつか、こういう道具を出しましたね。
TENTアオキ
そうそう、それでおもむろにジャグリングはじめて。「なにそれ、面白すぎる!」って大声が出ちゃいましたよ。
なんせ、上手いなんてレベルじゃなくて。
TENTハルタ
すごい勢いで階段駆け上がってきて「ハルタさん、面白い人がいるので、降りてきてください!」って。
降りていったら、もうね、想像の斜め上の面白い事になってて。お店の中で、たくさんのボールが空中を舞ってましたからね。
TENTアオキ
ジャグリングだけ見てても十分楽しいのに、さらにその道具を作って販売していると聞いてたまげました。
板津さんはそもそも、なんでジャグリングの道具を作って販売することになったんですか?
PM Juggling 板津さん
小学生の時のヨーヨーから始まり、とにかくいろんな種類のジャグリングをするのが大好きで。
いつかこれを仕事にできればと思いつつ、僕はそんなに上手い方ではなくって。
PM Juggling 板津さん
大学を卒業した頃。ある日テレビを見ていたら、海外の「ピザ回し選手権」というものを取り上げてて。
「選手権があるってことは練習するんだろうけど、練習用のピザとかあるのかな?」って気になって調べてところ、シリコン製の練習用ピザが存在することがわかったんです。
TENTハルタ
これですね。うわ!めっちゃくちゃ気持ち良い。
PM Juggling 板津さん
面白そうだから個人的に輸入してみたところ、そのメーカーから「君、日本でこれを販売してみない?」って打診がきたんです。
就職もしてなくて食い扶持もなかったので、まずはそのシリコン製ピザを輸入して、Webサイト作って販売しようと思って。
TENTアオキ
しかし、この魅力をWebで伝えるって難しそうですね…
PM Juggling 板津さん
ですね。なので、僕の方でジャグリング的な解釈でいろいろな技を考えて、まずはジャグラーの方々に親しんでもらうことにしました。
TENTアオキ
それでたくさんの人に買ってもらえたと。
PM Juggling 板津さん
はい、すごく多いわけではないですが、なんとか食べていけるぐらいになりまして。
おかげさまで、ピザ回しドットコムは一応10年以上続いています。
でも僕は元々はジャグリングが好きなので、ジャグリング道具を自作して販売もしてみようと思って。PM Juggling というWebサイトを立ち上げました。
TENTアオキ
なるほど、そういう経緯だったんですね。それで、ここにあるのがPM Jugglingとしての製品ですか?
PM Juggling 板津さん
はい、これはPMボールという製品で。カラーボールの内部に細かいオモリが入れてあります。
TENTハルタ
本当だ、ずっしりしてる。
PONTE青木さん
中のオモリは、板津さんが1つ1つ入れているから。グラム単位で理想の重さを発注できるんです。だからプロのジャグラーから重宝されてますよね。
PM Juggling板津さん
そうですね。このPMリングも、もともと海外のメーカーがこういったリングを製造してるんですけど、サイズや重さがおおよそ世界共通で、選択肢はあまりなくて。
PM Juggling板津さん
これは僕自身が板から切り出すことで、厚みも直径も指定が可能なリングになっています。
PONTE青木さん
アメリカ生まれのジェイ・ギリガンっていうジャグラーがいて。TEDとかでも講演してる人なんですけど、彼はジャグリング道具が画一的すぎることに異を唱えてるんです。
ジェイ・ギリガンとPONTE青木さん
手にしているのは雑誌「PONTE」
PONTE青木さん
「いま世界中に普及してるジャグリングリングは、初めに量産を思いついた人が事務所にあったクッキー缶をあてて板をカットしたサイズでできてる。」
「そのサイズを20年以上、なんの疑問も思わず使い続けてるんだ!おかしいよ!」って。
PM Juggling 板津さん
その彼にもPMリングはすごい気に入られて使っていただけて。おかげでヨーロッパで購入者が増えました。
TENTアオキ
ええ!ヨーロッパにもユーザーがいるんですか。
PM Juggling 板津さん
プロ中のプロの方には、結構お使いいただいています。
TENTアオキ ハルタ
へええー!!
TENTアオキ
ちなみにPONTE青木さんは、また別の活動をされてますよね。
PONTE青木さん
はい。僕は製品は作ってなくて。PONTEっていう名前のジャグリング専門のメディアを運営しながら、ジャグリングパフォーマンスしたり、世界中いろんなところを旅したりっていう生活をしてます。
PONTE青木さんが掲載された
フィンランドの新聞
PM Juggling 板津さん
本当に常にいろんな国にいて。コロナの前は、日本にいる方が珍しかったよね。
PONTE青木さん
ひとりでヨーロッパとかアメリカとかアジアとか、世界中のジャグリングイベントを回って。その旅先で取材したものをPONTEというメディアにまとめてます。
TENTアオキ
言語の壁は、どう越えてるんですか?
PONTE青木さん
英語とイタリア語と、あと中国語は、ある程度喋れます。
TENTハルタ
すげー!
TENTハルタ
なるほどー。それで、二人はいつどうやって出会ったんですか?
PONTE青木さん
EJCっていうヨーロッパで有名なジャグリングイベントがあって。そこでは10日間くらいテント暮らしするんですけど。
2013年の開催地フランスの現地を歩いていて、会場に入ろうとしたら、入り口でばったり会った最初の日本人が、板津さんでした。
TENTアオキ
なんという奇跡!
PONTE青木さん
そこでお話しして意気投合して、帰国後ちょっとしてから、PONTEやジャグリング道具のことで、お互いに協力するようになったという感じですね。
2019年にイギリスのイベントに出店した時の様子
3.リラクゼーションとしてのジャグリング
TENTアオキ
さてそんなお二人が『TENTのTEMPO』に立ち寄ってくれたわけですけど、僕はすごく感激したんですよ。
というのも、僕は一年くらい前からフットバッグをやってまして。
ようは、足でやるお手玉みたいなもので。
これには、そもそも始めた理由があって。土日に子どもたちが公園で遊んでいる間、父である僕は暇なんです。
冬なんかは寒すぎるので「何か一人で身体を暖める方法はないか」と探して辿り着いたのがこのフットバッグでした。
やってみると結構ハマっちゃって。頭を空っぽにして3時間でも4時間でも没頭できるんです。
TENTハルタ
僕も子どものころサッカーやってて、何日も何日もリフティングばっかりやってたことがあるんで。アオキさんの言うことは理解できてました。
TENTアオキ
それでよく話してたのが「運動というよりは、リラクゼーション的な可能性を感じるぞ!」って。
PM Juggling 板津さん
わかります。僕は朝、一人で公園とかでジャグリングの練習をすることがあるんですけど、だんだん瞑想するような状態になって。自分の身体と対話できて気持ち良いんですよね。
TENTアオキ
それです!本人が自分のためにやる瞑想みたいなものだと捉えると、すごく腑に落ちて。
ジャグリングっていうと「パフォーマンスの練習かな?」と僕は思っちゃってたんですけど。
「練習」というよりは「ヨガ」とか「ストレッチ」に近いものだったのか!そりゃあ練習嫌いの僕もフットバッグにハマるわけだ!って感激したんですよ。
PONTE 青木さん
当時も初対面の僕たちに、すごい勢いで話してましたよね。
TENTハルタ
ものすごい早口で。
TENTアオキ
僕はHINGEも作り出したように「思考するツール」が大好きなんですけど、このジャグリングというものも「思考する人」には必要なはず!って。
もうすぐにその場で「一緒に何か作りましょうよ!!」って言いました。
TENTハルタ
それ聞いて、どうでした?
PONTE青木さん
いや、憧れのTENTさんからそんなこと言ってもらえるなんて漫画みたいだ!って感激しつつ、本当に大丈夫かなって警戒しました。
PM Juggling 板津さん
僕も嬉しさ半分と、要求するクオリティや量産に応えられる気がしなくて、不安でした。
4.知性を感じるカタチ
TENTハルタ
でもたしか、その数日後には試作品をお店に持ってきてくれましたよね。
PM Juggling 板津さん
そうですね。otomodamaという、もともと僕が作っていた製品をカスタマイズして、中身のオモリの量を減らしてみたものを持っていきました。
PONTE青木さん
こういうお手玉はジャグリング的には「ビーンバッグ」って呼ぶんですけど、一般的なビーンバッグよりもフットバッグ的にも使えるよう中身を減らした分、クタっとしたものになって。
PM Juggling 板津さん
こんなクタッとした見た目ではTENTさん満足してくれないんじゃないかなと思いながら持っていきました。
TENTアオキ
この試作は僕の方ではむしろ印象が良かったんです。
ビーンバッグ的なものってパンパンに膨らんでいるので「球体」になっているんですけど、これは中身が減った分「立方体」のような印象になってて。
立方体を弄ぶ感じが、なんて言うんだろう、ルービックキューブじゃないですけど、ちょっと「知性」を感じたんですよね。
TENTハルタ
ただ、もうちょっとインテリアに馴染む色で作りたいねということで、白と黒で次の試作をお願いしましたね。
TENTアオキ
そして1週間後くらいに上がってきた試作が、もう、たまらなく可愛くて。
僕はもう、常に持ち歩いて身体のあちこちに乗せてました。
PM Juggling 板津さん
ジャグリングでは、黒いボールというのはほとんど存在しないんです。見えづらいから。でも実際に作ってみたらすごく印象がよくて。
PONTE青木さん
黒猫っぽいというか、格好良いし、可愛くて。びっくりしましたね。ネーミングもそういう感じでしたね。
TENTアオキ
はい、僕が感じている何とも言えない言語化できない魅力を、より一層引き出すべく、ネーミングとロゴ、そしてパッケージを考えていきました。
5.自分にとっては欲しい、を大切にしたい。
TENTアオキ
最初は「テノリダマ」とか「カクダマ」とか言いつつ
『フリックキューブ』っていうのが、意味としても音としても良いなあと。
PONTE 青木さん
Fから始まるのが「フィジェット」感があっていいなと。RIPPOも可愛いけどFLIKCUBEの方が知性を感じると思いました。
TENTアオキ
みなさん賛同してくれたので、さっそく本体にロゴを入れる方法を考えました。ちょうどTENT事務所にレーザー刻印マシンがあったんです。
そのマシンでロゴの刻印を1つ1つに入れて。この生地を板津さんに渡して、縫製をしていただいて。
PM Juggling 板津さん
はい。ミシンと手縫いで1つ1つ作っていきました。
TENTアオキ
一方TENTでは、パッケージを1つ1つ手作りしてました。
TENTハルタ
そうして最初にお店で出会ってからちょうど1ヶ月後の7月24日。ついにFLIKCUBEが発表された、と。
PONTE青木さん
いやあ、横で見てても、恐るべきスピード感でしたね。
TENTハルタ
今回とくに面白いなと思ったのが、何から何まで自分たちで手作りしたところですね。
TENTアオキ
そうなんですよ。完全に手作り、そして発表会の時にも在庫はわずか50個しかないという超希少プロダクトとしてスタートしました。
TENTアオキ
50個完売したところで採算がとれるわけじゃない。でも、どうしても世に出したかった。これには2つほど理由がありまして。
1つ目は、リアル店舗をオープンしたということ。
やっぱり、リアルの醍醐味って「新しい出会い」にあると思うんです。
ネットでほとんど完結する時代だからこそ、リアルな出会いから新しいプロダクトが生まれていくなんて、なんかこう、希望があるじゃないですか。
TENTアオキ
そして2つ目は、量産への疑問です。
僕たちはプロダクトデザイナーで、つまり量産する製品を考案する職能なんです。でもあまりにも大量生産を意識しすぎると「みんなが欲しいもの」というボンヤリしたモノづくりをせざるを得なくなる。
最近は意識して「適量生産」という言葉を使ってるんですけど、やっぱり「他の人には理解されないかもしれないけど、自分にとっては欲しい」というプロダクトって、すごく大切な気がするんです。
PONTE青木さん
ちょうど僕たちもそんな話をしてました。
僕は日々描いた絵をSNSにアップしているんですが、それはただ発表しているだけで。売るつもりではないんですよ。
だけど「その絵が欲しいから、売ってください」と言ってくださる方が時々いて。なんか、そういうやりとりって面白いなあと。
— 青木直哉 / AOKI Naoya (@PONTE_aoki) September 21, 2021
TENTハルタ
大量生産されている便利なものを買う一方で、そういう「自分しか欲しくないもの」を見つけた時って、喜びが何倍も高い気がしますよね。
TENTアオキ
そうなんです!大手企業からは決して出てこないような、こういうものも存在しないと、人間やってられないじゃんみたいな、そういう気持ちがあります。
PM Juggling 板津さん
とはいえ、FLIKCUBEの魅力や、ジャグリングの楽しさが、これからより一層多くの方に知ってもらえると嬉しいので。
これからどんどん盛り上げていきたいですね。
TENTアオキ
そうですね、僕たちもFLIKCUBEを皮切りに、ジャグリング的な日常の楽しみ方を、どんどん作り出していきたいと思います!
今日はありがとうございました。
全員
ありがとうございました。
<おまけ>
私も、仕事中にニギニギして、土日には公園で汗かいてます。
今日も、公園に子どもを解き放って #FLIKCUBE じゃい。 pic.twitter.com/RYs7IhkdKN
— あおき量産 (@aoki_TENT) September 19, 2021