デザイナーの使い方 by TENT
2020年の11月
大阪産業創造館にて。
経営者のための
デザイナーの使い方
by TENT
というタイトルで講演を行いました。
今日はその内容を紹介します。
講演に来られた方も、振り返り資料、共有資料としてご利用ください。
こんにちは、クリエイティブユニットTENTです。
TENTはアオキとハルタ、そして今日はここにいないケンケンの3名をメインに活動する、東京の小さなデザイン会社です。
今日は『デザイナーの使い方』という、ちょっと偉そうなタイトルを付けていますが、あくまでTENTが今のところ「こうすれば良いかも?」と思っている方法について
探し方、見分け方、頼み方、続け方、そして質問コーナーという5つの順番でお話ししていきたいと思います。
1.探し方
(この記事では質問コーナーは掲載してません)
僕たちが様々な地域で今回みたいなイベントに出ると、必ず言われる一言があります。それは
「昔デザイナーに頼んだけど、えらい金額を請求されて売れない製品ができた」だったり
「デザイナー先生は、作品ばっかり作りたがって、商品を作らない」というものだったりします。
もう必ずと言って良いほど言われる言葉なので、本当にそういうことが過去に頻発していたのかもしれません。
では、なんでそんなことが起きていたのか。
インターネットが普及する以前だったからなんじゃないかな?と、僕は思ってます。
インターネット以前の時代に「プロダクトデザイナーを探そう」ってなったとして、探す方法ってそんなになかったと思うんです。
たとえば、
メディアに掲載されている人に連絡してみよう
業界団体に連絡して、紹介してもらおう
デザイン系の学校に問い合わせてみよう
デザイン賞の年鑑なんかから良い人見つけられないかな
とか、そんな方法しかなかった。
つまり、当時のデザイナーの立場からみてみると
これらの要素って、仕事と信用を得るためには、とっても重要なことだったと思うんです。もう、死活問題と言ってもよかったんじゃないかなと。
例えば、何か新商品を作りましょうとなった時。
メーカーとしては
「商品が広く知ってもらえて、沢山の人に買ってもらえて、長く愛用してもらいたい」というイメージを持っていたとして
その当時のデザイナーは
「話題になる製品を作り、掲載や所属、受賞のきっかけにしたい」っていうのがゴールになってしまった可能性がある。
メーカー側、デザイナー側のゴールの不一致が、最初にお話しした不幸な結果に繋がってしまったのではないかなーと、僕は思っています。
(もしかすると今でも起きているのかもしれません。。)
では、このゴールの不一致を避けるためにどうするか。
僕からのシンプルな提案です。
すごく良いと思った商品を起点に、深く検索していく。ただそれだけ。
なぜなら、お客さんは、経歴を見て商品を買うわけではない。商品そのものが欲しいと思うから、買うわけです。
やることはシンプルです。
たとえば、すごく良いと思える製品があっとしたら。
「製品名 デザイナー」
「製品名 デザインしました」
などで検索するだけ。
メディアやお店の記事はもちろん、デザイナー個人のSNSなどからも、探し出せる可能性が高そうですよね。
ということで、オススメの探し方は
「人や経歴というより、製品から探そう」という提案になります。
続きまして
2.見分け方
じゃあ何人か良さそうな候補が探せたとしますよね。誰を選べば良いかというところなんですけど
自分や、そのプロジェクトにとって最適なデザイナーかどうかっていうのは、先ほど挙げた「メディア、業界団体、大学など、受賞歴」などは、何の保証にもならないと、僕は思っています。
もちろん、これら4つのような仕組みが悪いという意味ではありません。
他者が設定した審査軸ではなく、自分自身の審査軸で判断したほうが良いよねっていう話です。
じゃあどういう軸で判断するのか。
オススメは
「その人が、過去に開発に関わった商品を自分で買って使ってみて満足できるかどうか」を重視する。
自腹で買って使って、心底満足している製品があったとするなら、それを作った人とは、根底の部分で価値観が共有できているはずなんです。
プロジェクトが始まると、短くても半年から一年くらいは濃密な付き合いが続くので、根底の価値観がスタート時点から共有できるっていうのは、すごく大事なポイントだったりします。
でも、例えばの話。
「家電のデザインを依頼したいのに、その人が作った文具を買って使ってみても意味がないんじゃない?」なんて質問も、よくいただきます。
これ、案外そうでもないんですよ。
別のジャンルの製品だったとしても、その人が何を考えどう作ったかと言うモノづくりの思想は、変わらないんです。
開発の途中で、様々な障壁で、何を優先したのか。世に出ている製品をよく使い込めば、その判断の1つ1つを読み取ることができます。そこに共感できてさえいれば、ジャンルが違っても問題ないと思います。
「家電の経験がない人に家電のデザインを依頼できるか」
みたいな話も、よくあるんですけど。
例えば発注主が家電メーカーであるなら、その開発ノウハウはメーカーさんがすでにお持ちなはずですよね。
TENTは二人とも家電デザインの経験豊富ではありますが、メーカーさんとどんなふうにセッションして物作りしたのかは、この記事が参考になると思います。↓
なので、たとえ家電の経験がそんなにないデザイナーと組んだとしても、お互いを補い合うよう、良いところを組み合わせることで、画期的なものが生み出されちゃう可能性もあるわけで。
(ここで言っている"家電"は、あくまで喩えです。"家電"の部分に、別のジャンルを当てはめても大丈夫だと思いますよ!)
経歴やジャンルにとらわれずに、実際に商品を買って使った上で「この人となら価値観が共有できてる!」って人を選ぶのがポイントだと思います。
3.頼み方
じゃあこの人に決めますよってなったとして、どう頼むか。
ここは、僕たちTENTの具体的な事例でお話ししますね。
KINTOさんの食器や、落とし物タグのMAMORIOさんなど、こういった製品は、プロダクト単発の依頼という形式です。
具体的に何をするかと言うと
メーカーさんから、具体的な商品企画をインプットしていただいて。
その数週間後に、1stデザインスケッチを提案、フィードバックをいただいて、2ndデザインスケッチを提案します。
僕たちはだいたい、こんな感じの三面図であったり、3DCGのイメージなどで提案をしています。
さて、採用案が決定されたら
試作向けの設計フォローが始まります。
試作と言っても、実際に使えるものであったり、外観を確認するためであったり、状況により変わるのですが、
とにかくそういった立体物を作るために、2Dや3Dの図面を描いて、提出します。
試作で問題がないことが確認できたら。
量産に向けてのフィードバックをいただいて、量産用の2Dや3Dの図面を納品。
量産試作を確認して、必要な修正箇所などを書類でキャッチボールしたりしながら、最後のクオリティを上げていきまして
ほんの一例ですが、こういう指示図であったり、写真をとってそこに赤入れするなどして、細かい部分の修正を工場にお願いするなどして、量産開始となります。
そのあとは、必要に応じて説明書やパッケージを制作することが多いです。
続いて、持ち込み提案と言う形式。
これは、さきほどの工程の手前に1つ加わりまして
誰にも頼まれていない段階から、勝手に試作なんかを仕込んでたりします
試作やスケッチをメーカーさんに持ち込んで、企画案が採用されたら、ようやくデザイン提案というフェーズに入っていくというような進め方です。
そこから先は、さきほどの例と同じ感じです。
最近は、ブランド立ち上げという形式も多いです。
もうこれは、具体例をみていただいたほうが早いと思うんですが
トリニティという会社さんから「何か一緒に作りたい」と声がけいただいて始まったのがNuAnsといブランド。
そもそも何を作るか、どんなコンセプトなのか、ロゴは、カタログはWebは、展示ブースは、什器は、などなど、全面的に関わらせていただきました。
続いて、
平安伸銅という会社さんからも「何かを一緒に作りたい」と声がけいただきまして、できあがったのがDRAW A LINE というブランド。
プロダクトだけでなく、コンセプト、ロゴ、グラフィック、展示ブースなど、全体のクリエイティブディレクションをさせていただいています。
詳しくはこちらを読んでいただけるとわかりやすいと思います。
藤田金属という町工場さんからも「フライパンで何かやりたい」と声がけいただきまして、出来上がったのがフライパンジュウ。
こちらは、販売まで担当するなど、ちょっと変わった取り組みになってますが、その話はまたあとでしますね。
象印さんからは「炊飯器やその他の家電製品を何か」と声がけいただき、当初はプロダクトデザインの依頼だったものの、
そこから膨らんで、STAN.という新しいシリーズが立ち上がりました。
さて、これらブランドの立ち上げに関して、僕たちが何を行っているかと言うと
まずは、持ち込み提案の形式に似ていて、そもそも何を作るのかを提案しますね。
そこからデザイン提案を行って
試作向け設計フォロー、からの量産向け設計フォローを経て
発表、広報、販売促進、このあたりにも全て関わります。
なので、単発の依頼と比べると分かる通り、かなり濃厚で長期間のお付き合いになります。
僕の立場から言えば、人生の一部を捧げちゃうようなイメージになるので、人生観が変わることすらあるくらいの関わりになります。
さて、頼むことができて、プロジェクトが進んだとして、一定の成果を得たとする。
その先ですね。
4.続け方
どう続けていくのか、そして、どう別れていくのか。
このあたりを話したいと思います。
まず、すでに販売ルートをお持ちで、そこに向けて商品を作るメーカーさんの場合には、単発のご依頼が多いです。
その製品が出たら、付き合いもいったん解消というイメージ。
最初に販売ルートを持っていない、あるいは、新しいルートを開拓していきたいんだという場合には、もうちょっとメーカーと一体になって、長期の付き合いをしていきます。
ブランド立ち上げって言っていたものが、こんなイメージですね。
そして次。
社内にデザイン部署やデザイナーさんがいるような会社の場合には、商品やブランドが起動に乗った段階から、社内のデザイナーさんに引き継ぎを行い運営を行っていただくという形もあります。
引継ぎ方法としては、デザインガイドラインと呼ばれるような具体的な書類や冊子を作成し納品することもあります。
ということで、付き合いが継続したり、引き継いで分かれたり、いろいろな方法があることをお伝えしましたが
それらに加えて最近、僕たちならではの新しい方法があることに気付きました。
はい、最下部の黄色い部分ですね。
さきほどフライパンジュウの例で少しお話ししましたけど、これまでの仕事に加えて、ストア運営、お客様対応まで行っているんです。
でもそれだけじゃなくって。
伝え方に、工夫を凝らしています。
僕たちはプロダクトデザイナーなので、役得として
・そもそもどうして作ろうと思ったか
・どんな苦労や楽しいことがあったのか
なんかを、全部把握している立場にあるんですね。
これを、Web上に記事として書いてしまう。
作り手だからこそ書けるリアルな開発エピソードで、商品の魅力を丁寧に伝えるって言う方法をとってます。
これ、楽しいからやってただけなんですけど
後からすごくメリットがあることが分かってきました。
TENTがお客さんに伝え、届ける。そして、お客さんは注文したり意見を言える。ダイレクトに繋がることができるわけです。
これをデザイナーダイレクトなんて名付けてみてるわけですけど。
開発の背景を直接伝えることで何が起きるかって言うと
お客さんは、個人的な動機で情報をシェアしてくれます。
応援してくれる人もいれば、面白がってくれる人もいたりして。
広告に踊らされるというより、単に個人として、楽しんでくれる。
そうこうしているうちに、その盛り上がりを聞きつけたお店やメディアさんから声がかかることもあります。そうなると
メーカーさんとしては、こちらから営業をかけなくても声をかけてもらう形で新しいルートの開拓ができてしまうわけです。
そんな感じで、なんだかみんなにとってメリットがある仕組みな気がするので、僕たちはこれをデザイナーダイレクト(デザ直)なんて読んでいます。
TENTの専売特許というわけではなくって、本当にオススメの方法なので、みなさんもやって欲しいです。
これまで、デザイナーへの初期投資リスクを下げる方法で「ロイヤリティ」つまり製品が売れるごとに数%の利益をデザイナーに支払うと言う方法が、一般的によく採用されていたんですけど
これ、双方が完全に納得している状態ってあんまり聞かないんですよね。
商品が売れるっていうのは、営業販促活動の影響が大きくって。
ロイヤリティの受け取り手であるデザイナーが、そこに関わっていないとしたら、メーカーとしてはいつまでも支払い続けるのはちょっと嫌ですよね。
一方、営業販促活動をデザイナーがずっと全力でやらないといけないとしたら、ロイヤリティだけでは活動費として不足するはず。
そんな感じで、何かとアンバランスなことが起きてしまうわけです。
でも、デザイナーがお店として販売をするなら。単に仕入れと販売なので、一般的な商流として、当たり前のことをやっているわけで。ここにはアンバランスな部分は少ないと思うんです。
デザイナーダイレクト。オススメです。
詳しくはこちらの記事も読んでみてください。
というわけで、講演の本題はこれで終了なんですが、最後に1つだけお伝えしたいことがあります。
年間契約や月額定額など、ざっくりした契約はトラブルのもと!
デザイナーとお仕事をする場合には、期間を切って、具体的な作業内容を明確にしましょう。
本当にね、これだけは、口を酸っぱくしていいたいです。
面倒くさいかもしれないけど、お金の話、作業内容の話は早めに明確にしましょうね。
確定しようってことではなくて。あとで変更するにしたって、まずはそういう話はちゃんとしておいたほうが良いですよ。
こちらからは以上です。
ここからは質問をドシドシお寄せください。
ありがとうございました!
評判だった過去の講演資料も、貼っておきますね。
TENTにこんな質問があるよ、こんな話が聞きたいよ、トークイベント来てよって方がいましたら、お気軽にこちらに記載されてるメールアドレスからご連絡ください。
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