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いのちの車窓から/星野源 読書記録#34

 星野源は不思議な人だ。
 彼はミュージシャンであり俳優であり、文筆家でもある。エッセイ『いのちの車窓から』に綴られるのは、ヒット作の制作秘話や大物芸能人とのエピソードなどなど。
 しかしただ煌びやかなだけではない。ここが魅力的だった。星野源は日常の風景を独自の視点から切り取って見せる。そこには少しのてらいもない。語り口は優しく、親しみ深い。

 芸能人の話なら誰もが聞きたがる。でも、このエッセイは何かそれ以上のものを感じた。芸術家であると同時に市井の人でもあるかのような、星野源はそんな不思議な雰囲気を持っている。

 星野源は「人が好き」であると公言している。エッセイ中のエピソードや語り口からも、それはよく分かる。人との対話を重んじ、それでいて謙虚である。きっと色んな人から好かれているんじゃないかと思う。

 その一方で、彼の「ひとり」への態度は興味深いものだった。

 自分はひとりではない。しかしずっとひとりだ。

p189

 この「ひとりじゃないけど、ひとり」という価値観が、星野源を彼たらしめているものではないか。そんなことを考えた。
 ふつうならここの語順は「ひとりだけど、ひとりじゃない」となるのではないだろうか。上の表現は、彼が人との関わりを好むのと同じように、ひとりで在ることもまた肯定している、そうしたことを示している。「ひとりぼっち」ではなく、「ひとり」として生きること。

 視点が変われば世界は別物になる。心の窓を開いて、明るい方を見ようとする。彼はそんな生き方を選んだのだと思った。いのちの車窓をゆったりと眺めながら、その景色が鮮やかなものであるようにと願いながら。


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