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01. 恋愛と部活の両立なんてできないと言いながら、今この時だけは好きあっていようと必死だった。

どこの学校にだって”秘密の場所”はあったと思う。

例えば、鍵の壊れた屋上への扉。体育館裏、授業中の図書室。あるいは校庭の隅の倉庫の裏。ほとんど使われていない教室の物陰。旧校舎の階段の踊り場。

僕らの待ち合わせ場所は体育館裏だった。

プールと体育館の隙間に三角形のスペースがあった。夏草が腰までのび、虫除けを入念につけ、僕らは夏の密会をしていた。怪しまれないように時間を空けて。

彼女と僕の部活がない木曜日。

帰りのHRが終わると目で合図。「じゃあ、体育館裏で」と。
僕は「今日は公園で自主練するかー!」と早く帰るふりをしてコソコソと先に行く。

5分くらいすると彼女がくる。

「あれ?草太、自主練は?」とニヤニヤしながら短い髪を揺らして。
「そんなこと言ったっけ?」ととぼけると「今日は自主練するかー!」とモノマネをされた。真琴は僕の真似がうまい。以前そう言うと「草太は単純だから」と茶化された。

大きな石が二つ。

そこに腰掛け、鞄を放る。
真っ白なエナメルバッグはバスケ部の。真っ黒なエナメルバッグは野球部の。この学校は無地を重んじている?のだ。

「休みなのにグローブ持ってきてるんだ」と鞄を漁ってニヤニヤしたので、僕も「休みなのにボール持ってきてるんだ」とやり返した。

「女子のカバン漁るなよ」
「うわ、差別かよ!」

僕らは付き合っていない。
ただの同志だ。

大きな夢を持っていて、そこだけに青春を捧げる同志だ。
でも互いに好きだったりもする。照れながら手を繋ぐし、キスだってしたことがある。

でも「そういうの」って夢から遠ざかっていない?というモヤモヤもお互い持っていて、でも、好きだからさ、しょうがないじゃん。とも思ってもいて、ちょっとだけ悩んでいる。お互いに。

「草太はさ、うちのこと好きでしょ」
「うん」
「真琴もさ、俺のこと好きでしょ」
「好きだよ、大好き」

「でも恋愛なんかしてたら甲子園もインターハイも遠くなっちゃうし、なんかさ、よくないんじゃない?」
「思うよ」
「あ、でも高校行ったら、会えなくなるからちょうどいいか」
「ね」
「それまではさ、まあ卒業までだけど、こうしていたいな」
「俺もそう思う」
「・・・はっず、てかこう言うのは男から言えよ!ヘタレ!草太のばか」
「言い出したの真琴じゃん!」
「察しろよ」
「真琴」
「なに」
「大好き」
「うざ」
「恋愛ばっかしてたら邪魔になるけどさ、少なくとも今は、今だけはいいかなって思う。もうお互い進路決まったし、それくらいは、それに・・・」
「それに?」
「もっと真琴と触れ合いたい」
「キッショ」

といいながら、じゃれあい、じゃれあい、近まる互いの手。ぶつかり絡まり、顔が熱を帯び、夏草が風にゆられる。夏草のかげで僕らはそっとキスをする。

今思えばなかなかのバカップルだった。付き合っていないと言ったけど今振り返るとやっていることはカップルそのものだった。

しかし「付き合うのは夢の邪魔」という理屈に基づいて、「付き合ってはいない」と屁理屈こねていた。

ただ、実際に高校に行ったら週2、3回の15分の電話だけだったし、ちゃんと、ほぼ100%夢に向かって頑張れた。だから、その束の間の恋は枷にはならなかった。

僕は甲子園に行きたかった。
彼女はインターハイに行きたかった。

これは決して純度100%の恋物語ではなく、むしろ夢の付属品のような恋で、恐ろしいほど悲惨な末路を迎える青春ストーリー。


生活費になります。食費。育ち盛りゆえ。。