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あーる
「ふむ」
2000字に満たない1枚の紙を何度も端から端まで読み返す彼女。
「うん、上手くなった」と紙を渡した。僕が書いた短い物語。
「最近上手い。マジで」と付け足すように。
「おー、なんか逆に怖い」
「はっ倒すぞ」「…あおはさ、こう、超短いの積み重ねて長編にするのが向いてるかもな」
「・・・俺には一気に書けないってこと?」
「・・・どっちが簡単かと言われれば前者だけど、どっちもできないから、普通」
「それ、大体1820字じゃろ」
あとで確認したら1823文字だった。なんでわかるんだろう。やっぱりプロだからか。
「文字数の割に深部まで書けてる。燃費がいいんだな。前より無駄な無駄が減った。今までのあおだったらこのスケールだと5000字は必要だったはず。結局文字数よりも密度なんよ」両手でギュッと圧縮させるジェスチャーで話した。
「プロは10万字でそれをやるんだよ」と今度は自分を指してニンマリした。
「細部まで作り込むのは推理ものだけじゃない。何にも起こらない日常を描く時も同じ」
たとえば、と僕の紙をとって「ここのナレーションの語尾、”ーである”より”ーだ”の方がいい」「音の問題かな、今回の物語に”ーである”みたいに、かしこまった感じの丸くなる音の語尾を使うと、読み終わった後にしこりとして残る」
あーる、と丸をイメージして発音した。確かに。丸まって留まる感じがして、多分、それが「かしこまって」感じるのに繋がるのかもしれない。
あとはここと、ここと、ここと、と、単語ひとつずつに「これはこっちの表現がいい」「このキャラはそんなこと言わないと思う」「人物像からワードチョイスするのって結構手間じゃけえ、けんどそれができたら”キャラ立ち”できる」
「2000字もないのによくそこまで読み取れるね」と言うと「それは表面的な文字数」と言って「体感字数はさっきも言ったけど3倍はあると思うよ、これ。それだけ余白が大きくて、想像の範囲もある程度制限をかけられてるから迷子にならずに楽しめる」と言った。
ふう、と立ち上がって「あお、上手くなったな」と、とても嬉しそうに笑った。
身近にプロがいればそりゃ上手くもなる。
彼女は遊ぶように仕事をして僕とも遊ぶ。
数少ない共通点が、互いの大好きなものだった。
僕らは文字で、文章で、小説を書くことで繋がっていた。大袈裟ではなくて。
生活費になります。食費。育ち盛りゆえ。。