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美容室に行けない。


熱しやすく、冷めやすいタイプだ。
こんなものは特別な「タイプ」ではなく、道を歩けば必ずすれ違うくらいには同じ様な人間は居るだろう。

が、この性格のせいで美容室に行けないのは如何なものだろうか、と思う。

もともとお金のかかる髪型ではあるし、人見知りなので気軽に遊びに行けるほど美容室のトビラは軽くない。

そんな自分が、自分の手で、また一つ美容室に行けない理由を作り出してしまった。
このままではモジャモジャの世捨て人になりかねないので、一度整理するつもりで書き残して置こう。

毎回僕のカラーを担当してくれる女の子が可愛い。
見た目がタイプとかそーゆーのじゃなくて、なぜだかホッとする。
天真爛漫というか、なんかこう自然と話ができるし楽しくなるし、洋服とかも含めて総合的にやわらかくて明るくて可愛い。

年末。
いつものように他愛のない話をしながらカラーをしてもらっていると、学生時代の話題になった。
彼女の中で僕は、髪の毛は青いしいつもヘラヘラしてるからか、昔から陽キャでパリピだったんだろうと思っていたそうな。

10年近く通っていてもそう見えてるのだから、本当はそうなのかもしれないと思いつつ、過去の陰部丸出しの青かび像を語った所、とてもびっくりした様子だった。

モテたいとか目立ちたいという気持ちはもちろんあったのだが、逆行する現実に嘆き、アニメやゲームのキャラクターとアイドルが心の支えだが、当時はまだそんなにオタク文化は浸透していない。

文房具ならまだしも、トレーディングカードなどのグッズを常に持ち歩き、少年ジャンプを交換してワイワイする友人達の片隅で、それらを一人で愛でるただの気持ち悪い男子。それが俺だ。

「え~。全く想像できませんね。不思議だなぁ。えへへ。」と笑う彼女はガチで引いていたのか、純粋ゆえに楽しい昔話として笑ってくれたのか、今では検討もつかない。

まぁ所詮は作業中のBGMみたいなもんで、そこまで聞いてないのかもしれないが、やはりどう思われたかは気になるところだ。

そこで、彼女の過去や趣味嗜好なども聞いてみることにした。
詳しいことは省略するとして、その会話に登場したのが「APEX」というゲームだ。

名前はよく聞くし、内容もなんとなくわかる。
しかし、ニンテンドー64の「ゴールデンアイ」というおそらく似たタイプのゲームを昔プレイしたとき、毎回酔って吐いたりした為に個人としてはその手のゲームは苦手だ。

どうやらゲーム自体、そこまでやってこなかったみたいだが、なんやかんやで今凄くはまっているとの事だった。

仕事が終われば、長いときは朝までやるそうな。

そして一言。
「オンラインで一緒にできるんですよ♪夜とか時間合えばやりませんか?飲みながらでもいいですし♪」

モテたい、モテない、女の子から「誘われる」ことに関してはめちゃくちゃウブな私。テンション爆上がりです。

かなり年下の女の子なので、ここはクールに。
「そうなんだぁ。年末は暇だし、とりあえずインストールだけしてみるかなぁ。できたら連絡しますね。」
と伝えながら、カラー材を取りに行ったりして席を外したタイミングで即効メモした。

もう脳内では年末年始、彼女とオンラインゲームをやりながら楽しくお酒を飲み、沢山仲良くなろうそうしよう。というプランC(恋w)が完成していた。

ダウンロードに時間がかかるので、早めに取り込んでおいて、準備できたら連絡下さいと笑う彼女は、僕を他の世界に連れ出してくれる妖精のようないたずらで可愛らしい笑みを浮かべている。

心に決めた。今日、俺は「APEX」を手に入れる。
それは、彼女の心に続く扉をあける最初の鍵だ。
練習を重ね、彼女をフォローできるようになれば、自ずとプライベートでも仲良くなれるかもしれない。

希望に満ち溢れた少年。
いや、中年のオッサンは、急いでの家に帰りNintendo Switchを引っ張り出す。
オンラインでソフトを見つけ出し、インストール開始。
ここまでは物凄いスピードだったと思う。

だがどうだろう。
インストールを始めると、進歩状況をあらわすメーターの伸びが悪い。
3回ほど家を出入りして、タバコを吸ったりぼけっとしたりしながらその時を待っていた。

それなのに。。
インストールは一向に終わる気配がなく、1時間半ほど放置したあげくまだ終わる様子のないSwitch君をそのまましまい、飲みに出かけることにした。

この時点で沸騰しきっていたプランCも、もうすっかり色褪せ、明日がきても手をつけないことは自分でも理解できた。

そうだ。その時はそれで良かったのだ。
問題はほら、1ヶ月ほど経った現在の私に今、まさに、重くのしかかっている。

そろそろ美容室に行きたいと思うのだが、なにせ連絡する約束はもちろん、スタート地点にさえ立っていない俺。
嬉しそうにゲームの説明をしてくれた彼女の顔。
全てが融合して、大蛇も顔負けの鎖が巻き付いている。

今更インストールして始めても、おそらく時すでに遅し。
人の熱意を裏切ってしまった罰かもしれないが、家に帰って準備するまでのスピードはなかなかに素早かった。
めちゃくちゃ燃えていた。
でも忘れていたのだ。
俺の炎は蝋燭よりも早く溶けてしまうことを。


こんな時、皆さんならどうするだろうか。
社交辞令だったのさ。と、普通に美容室に行けるのだろうか。

俺にはその勇気がない。
こんな風にウジウジしてる間にも髪は伸びる。色は落ちる。

特に気にしてないかもしれないと楽観的に考えることもできるが、なにせ「可愛い」というドラがのっている。

モテたい。好意を持って貰えたら嬉しい。
そんな感情を抱えてしまっている以上、このドラを切るわけにはいかない。

しかし、髪は切らなくてはならない。
途方にくれたまま、とりあえずバリカンでサイド等は落としたが、後頭部は見えない。
おそらくガタガタだろう。

こうなったらめちゃくちゃ練習を重ねて、準備期間だったと言う他思い付かないが、ちょっとやそっとで高得点(得点なのか?)を叩き出せるなら、そんなにハマる人達は居ないだろう。

本を読みたい。曲を作りたい。パチンコに行きたい。
全てを投げ出して、今更ゲームかぁ……

もう自分がどこに向かっているのかもわからず、今私現実逃避の為電車に揺られ、隣町の飲み屋に向かっています。

はぁ。まだまだ2点を更新できそうにない。笑

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