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仙華幻録 第一話 花に奪われた日常

あらすじ

舞台は神仙がいる架空の中華風の世界。
主人公は仙人になってしまった人間の少女、あい
愛華は人間に戻るため、神仙と人間の間に生まれた青年・りんしゃおと共に、神仙を司る太上老君を探す旅にでる。
人間に悪さをする神仙を退治しながら旅をするうちに、愛華と凛霄は恋人になる。
だが、神仙と人間の間に生まれた子どもは普通の人間より寿命が長く、人間に戻れば愛華は凛霄と同じ時間を生きられない。
太上老君は人間に戻せるというが、愛華は凛霄と生きるため仙として生きる決意をする。
愛華と凛霄は馬車で移動する「仙花薬局」を開き、人間界で苦しむ人々を救う旅を始めた。
人間と神仙の融和を願う、感動の中華風ファンタジードラマ。


記述方式
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モノローグ:〈〉で指定


■この世界の伝承を描写(特定のキャラクターは登場せず語りのみ。巻物が広がり物語を描く)

この世界は神仙の手によって作られた。
地を均し国を造り、脆弱な人間が生きていける場所を作り上げた。
神仙は人間の世で共に生き、その編纂を見守り続けた。

しかし神仙は見守るのみ。
決して人間の歴史に干渉しない。

何故なら神仙が関わると人間の国の在り方は代わるためだった。
かつて一人の神仙の男が人間の女を妻にしたが、妻の住む国だけが神仙の力で人間ではありえない繁栄を成した。そして神仙を手に入れようと戦争が巻き起こり、多くの国が滅んだのだ。

神仙が人間に関われば滅びを招くとし、神仙達は自ら人間から離れ身を隠すことを規則とした。
今もなお神仙はどこかで見守っている。

■愛華の自宅の花壇前
愛華は長い黒髪に黒い瞳。見た目は18歳前後の少女。
愛華は自宅の花壇で花の手入れをしてる

愛華「今日も元気ね」

洋甘菊(カモミール)畑の前にしゃがみ込み花をつんっと突く。

愛華「洋甘菊は増やしても良いかもね。薰衣草は足りてるし」

遠くから翠綺が手を振りながら走ってやってくる。愛華はそれを見て立ち上がる。

翠綺「愛華ちゃーん! 頼んだ花香脂できてる!?」※花香脂はエッセンシャルオイルのこと

愛華にすいが飛びついてくる。

愛華「いらっしゃい、翠綺。できてるよ」
翠綺「やったぁ! 見せて見せて!」

愛華と翠綺は愛華の自宅へ向かう。

■愛華の自宅内

翠綺はリビングの椅子に座り、愛華は戸棚から小瓶を翠綺の前に出す。

愛華「肌赤くなってるから洋甘菊にしたわ。炎症が落ち着いたら薫衣草くんいそうに切り替えたら良いよ」※薫衣草はラベンダーのこと
翠綺「助かるよ~! 薬使うの嫌でさ」
愛華「翠綺は敏感肌だしね」
翠綺「それもあるけど、愛華の肌すっごい綺麗だもん! 薬より花香脂のが効果あるだよ!」
愛華「個人差はあるわよ。でもそれなら芳香療法も良いかもね。私は毎日これを使ってるの」※芳香療法はアロマセラピーのこと
翠綺「どれ!?」

愛華は芳香療法用の芳香炉(アロマディフューザー)や香油瓶(精油ボトル)、香筒(精油を取り出すためのスプレー容器)を取り出して並べていく。
二人できゃっきゃと楽しそうに話す様子。

愛華「いけない。英勇様の所へ行く時間だわ」
翠綺「まだ長老の面倒見てんの? 怪我治ったんだからもう良いじゃない」
愛華「でもお歳だし。それに拾っていただいたご恩を返したいのよ」
翠綺「けどそれ十年以上前じゃない。畑仕事までやってるんでしょ? 尽くしすぎだよ」
愛華「収穫をいくつか頂いてるわ。それで生活できてるんだから有難いわよ」
翠綺「いやいや。愛華は花で生活できてるじゃない。花香脂もだけど、草本茶と食用花は街で相当売れてるんでしょ?」※草本茶はハーブティ、食用花はエディブルフラワーのこと
愛華「それはたまたま買ってもらえただけよ。偶然」
翠綺「一年続けば必然よ。その売上だって村のために使ってるんだし、逆に世話してもらっていいわよ」
愛華「お金より楽しく暮らせることのほうがずっと大事よ。それも英勇様がいらっしゃるからこそ。それをお金で返せるなら嬉しいわ」
翠綺「愛華が良いならいいけどさ。優しさは悪人に付け込まれるわよ」
愛華「そんな人この村にはいないわよ」

愛華と翠綺は荷物をまとめて外に出る。
翠綺と別れて英勇の家へ向かう。

■英勇の家
愛華「英勇様。遅くなってすみません」
英勇「おお、愛華」
愛華「お食事まだですよね。すぐに準備します」
英勇「助かるよ。すまないね、いつも」
愛華「水臭いことおっしゃらないでください。お手伝いできて嬉しいんです」

愛華はキッチンで料理を作り、英勇に出す。

愛華「どうぞ」
英勇「ああ、有難う」
愛華「私、裏でお洗濯しますね。なにかあれば呼んでください」

■英勇の家の庭
愛華が洗濯物を干していると広場が騒がしいことに気付く
広場の方を見ると馬車が幾つも来ている。

愛華「あ、来た!」

家の中に戻る。

■英勇の家の中
愛華「英勇様。商隊が来たから見てきます。なにか買っておく物はありますか?」
英勇「いいや、特に。それよりもお前の草本茶が欲しいなあ」
愛華「そんないつもある物じゃなくて」
英勇「いつもあることが幸せだよ。お前が元気に過ごしてる証だからね」
愛華「英勇様……」
英勇「今日はもう良いよ。ゆっくり見て来なさい」
愛華「分かりました。ではまた明日の朝に来ますね」

愛華は英勇の家を出て商隊へ向かう。

■広場(商隊・肉屋の前)

愛華(お肉買っておこうっと。英勇様は加工肉お好きだけど、街まで馬車で片道一時間は遠い)

愛華「すみません。がんろうしゃんちゃん、それとふぉてぃを二じんずつください」
店員「はいよ。六十もんね」
※干肉はジャーキー、香腸はソーセージ、火腿はハムのこと。二斤は約1キログラム。

お金を払い商品を受け取ると店を離れる。

■広場(商隊・花屋の前)
たくさんの花や種が売っていて愛華は足を止める。
店員が花守。ここでは正体は明確にせず一店員として描く。

愛華(見たことのない花がいっぱいだわ)

花守「いらっしゃい」
愛華「すみません。これ何の種ですか?」
花守「名はありません。品種改良された物でしてね。虹色の花が咲くと言われています」
愛華「虹ですか。それは気になりますね。私お花大好きなんです」
花守「それは良い。よろしければ差し上げますよ」
愛華「え? 売り物じゃないんですか?」
花守「金銭はお断りしています。数が少ないので心から花を愛する人にこそ育てていただきたいのです。あなたからは花の香りがする」

花守は花の種が入った小さな袋を愛華に渡す。

花守「どうぞ。ぜひ育ててください」
愛華「じゃあお言葉に甘えて」

愛華(帰ったら植えてみようっと)

■愛華の自宅の花壇
愛華は花壇に買ったばかりの種を植える。

愛華(どんなのが咲くんだろう。虹ってことは七つの色の花が咲くとか?)

愛華「元気に育ってね」

愛華は土をぽんぽんと撫でる。

■翌日朝へ場面転換・愛華の自宅の花壇

愛華「え!?」

花壇にはもう花が咲いてる

愛華「まだ一日も経ってないのに……」

そっと花に触れると、花は急に成長しぐるぐると愛華に巻き付く

愛華「きゃあああ!」

もがく愛華だが、すぐに花は消えてしまう。粉になるわけでもなくスッと消える

愛華「……え? なに? どういうこと?」

愛華(なにもない……)

愛華「夢でも見たのかしら」

愛華「……そろそろ英勇様の所へ行かななくちゃ」

■英勇の家
愛華「英勇様。おはようございます」
英勇「ああ、おはよう愛華」

英勇が愛華を振り向くと、英雄は椅子から転げ落ちる

英勇「ひいいいい!」
愛華「英勇様!?」
英勇「ば、化け物!」
愛華「え!?」

愛華の髪に花が咲いていて、愛華の背後でざわざわと動いている。だが愛華は気付いていない。
英勇は愛華を指差し震える。だが愛華は自分のこととは思わず後ろを振り向き、そこで初めて花が咲いていることに気付く。

愛華「きゃあああ!」
英勇「化け物、化け物!」
愛華「英勇様! 待って! 待って下さい!」

英勇は家を飛び出る。

愛華「英勇様! 待って下さい!」

英勇を追いかけるが、その途中でも花は成長し愛華に巻き付いてきてどんどん歩きにくくなっていく。
必死に英勇を追い、なんとか広場に到着すると花が重くて蹲ってしまう。

愛華(なに、なんなの!)

叫ぼうとするが花は口を塞ぐように生い茂る。
村人は恐怖の眼差しで愛華を見ている。

村人・男性A「なんだあれは!」
村人・男性B「花だ! 花の塊が動いてやがる!」
村人・男性C「こんなことできるのは神仙くらいだ。連中本性を現しやがったんだ!」

愛華(神仙!? まさかあの花屋さん!?)

愛華は花に覆われた重い身体を引きずって商隊へ向かう

愛華(いない!)

愛華(あの種はなにか特別な種だったんだ! どうしてこんな……!)

急に周りが熱くなる。
辺りを見ると村人が花に火を付けていてどんどん愛華の身体を取巻いている花が燃えていく

愛華(まさか、まさか!)

村人・男性A「全部燃やしちまえ! 竈にでも押し込んじまえ!」

愛華(竈!?)

愛華は村の大人たちに引っ張られる

愛華(嫌!)

愛華が心の中で村人を恐怖すると同時に花が爆発的に大きくなり村人は吹き飛ばされて怪我をする

村人・男性B「ば、化け物……」
村人・男性C「崖だ! 崖から落とすんだ!」
英勇「網を持ってこい! 動けなくするんだ!」

率先して愛華を攻撃しているのは英勇。
英勇は憎々しげに愛華を睨み付けている。

愛華(英勇様……)

愛華は涙を流しながら村を逃げ出す。

■森(昼)
村人・男性A「探せ! 日が暮れる前に見つけるんだ!」
村人・男性B「俺は南へ行く。お前らは西だ!」

愛華は木々に紛れて村人をやり過ごす

■森(夜)
暫く村人が騒いでいたが、日が暮れるのと共に声が聴こえなくなっていく。
愛華はようやくほっと一息吐く。

愛華(ともかくこの花を取らなくちゃ。けどどうしたらいいんだろう)

花守「心を落ち着けて花に退くよう命令しろ」

花守の声がする。愛華からは見えていない。

愛華(どこ? 誰?)

花守「呼吸を落ち着けて祈れ。花はお前を傷付けない」

愛華(呼吸……?)

半信半疑で言われた通りにすると、花はするすると消えていく。

愛華「消えた……!」
花守「花はお前を愛している。決して害することはない」
愛華「は?」

愛華は声の主を振り返ると花守がいる。

愛華「あなた!」
花守「まさかこんな派手な目覚めになるとはな」
愛華「どういうことなの! あの種はなんだったの!」

愛華が怒るとまた花が咲く

愛華「きゃあ!」
花守「落ち着け。花はお前の心に共鳴する」

愛華は新呼吸して落ち着く。花が消える。
愛華は花守を睨み付ける

愛華「あなたは誰。なにが目的なの!」
花守「花守。花を守るのが俺の役目」
愛華「なによそれ! そのために私に犠牲になれっていうの!?」
花守「ここまでとは思わなかったんだ。すまんな」
愛華「やっぱりあなたの仕業なのね! 元に戻して! こんなんじゃ村に帰れない……!」

愛華は英勇の笑顔を思い出しボロボロと涙を流す。
花守はため息を吐く

花守「俺にはどうにもできん。俺の仕事は花を守ること。それをお前から取り上げるのは花を枯らすということだ。それは俺の仕事に反する」
愛華「知らないわよそんなの! 元に戻してよ!」
花守「できない。俺の信念とは別に、その技術が俺にはない」
愛華「そんな……!」
花守「だが制御できないのは問題だな」

花守は一枚の紙を取り出し愛華に渡す。そこには地図が描いてある。

花守「そこに凛霄という男がいる。そいつを訪ねてみろ」
愛華「誰よそれ。あなたの仲間なんて信用できないわ」
花守「仲間ではないな。俺とは関係のない錬丹術師だ。どんな治療でもできるという男だぞ」

花守は飛び上がり木の枝の上に立つ

花守「制御できるようになったらまた会おう」
愛華「ちょっと! 待って! 待ってよ!」

花守はどこかへ消えてしまう。

愛華「……なんなのよ」

愛華はぐったりと肩を落とす。

愛華(どうしよう……)

暫くそうしていたけれど、日が暮れてお腹が空いてくる。
花守に貰った地図を見るけれど、嫌そうな顔をして握りつぶす

愛華(どこか街へ行こう。休みたい)

花守に貰った地図をポケットにしまい込んで歩き始める。

■街中
村人が化け物が出たと愛華の似顔絵を持って歩き回っている。

村人・男性A「愛華って娘だ。歳の頃は十八」
村人・男性B「花を操る化け物だ。どんどん生えてくるからただ火をつけても殺せない。捕まえたら縛り上げて竈に突っ込むくらいするんだ」

愛華(そんな……!)

愛華は震えて立ち尽くす。
村人たちは愛華を見つけて叫び出す。

村人・男性A「愛華だ!」
村人・男性B「いたぞ! 捕まえろ!」

愛華は逃げてまた森に向かう。

■森
はあはあと呼吸を荒くしてへたり込む愛華

愛華「どうして……」

愛華(どこにもいけない。もうどこにも)

愛華はポケットに入れた花守の地図を取り出す

愛華「錬丹術師って何だろう……」

愛華「行くしかないわね。他になにしたらいいかわからないし」

愛華立ち上がり地図を握って歩き始める
森を抜け川を渡り、一晩かけて歩き続ける。

■凛霄の小屋の前
歩き続けてへとへとの愛華。

愛華(どこにいるのかしら……もう疲れた……)

愛華は疲労困憊でのそのそと歩く。そしてようやく凛霄のいる所に辿り着く。

愛華「小屋!」

こじんまりとした小屋が建っていて愛華は駆け寄る。

愛華「ここかしら。ここよね」

愛華は周囲をきょろきょろするが誰もいない。恐る恐る扉へ近付きノックする。

愛華「すみません」

返事はない。再び扉を開く

愛華「すみません。どなかたいらっしゃいませんか」

返事はない。

愛華(誰もいないのかな)

愛華は扉に手を掛けると、扉は鍵もかかっていなかった。

愛華(不用心。こんなところに人なんて来ないだろうけど)

愛華「失礼しま~す……」

愛華は勝手に入る。
そろそろと廊下を進むと、出入り口の扉とは真逆の位置に再び扉があり、窓の向こうには庭があり、男(凛霄)の姿があった。

愛華(あの人かな)

扉を開けて凛霄に声を掛ける

愛華「あの、すみません」
凛霄「!」

凛霄は驚いて勢いよく振り返ってくる。
凛霄の美貌に見惚れる愛華。

愛華(綺麗な人……)

ぼうっと見惚れていると、凛霄は持っていたタオルを放り捨てて愛華を睨み付ける。

凛霄「なんだあんた。どこから入った」
愛華「すみません。何度か声をかけたんですけど返事がなくて、それで」
凛霄「そんなことは聞いていない! ここには結界を張ってる! 入れるはずがない!」
愛華「結界? 鍵のことですか? 鍵はかかってなかったので、つい……」
凛霄「鍵? 扉から入ったのか?」
愛華「はい」

凛霄は無言でじっと愛華を睨む
愛華はどうしようか困るけれど思い切って話を始める。

愛華「あの、凛霄様ですよね」
凛霄「……なぜ俺の名を知っている」
愛華「花守という人にご紹介いただいて来たんです。それで」
凛霄「誰だそれは。知らない」
愛華「え? でも、えっと、実はちょっと困っていて、あなたなら治療ができるのではと」
凛霄「知るか。俺は医者でも神仙でもない」
愛華「錬丹術師とうかがいました。特別な治療方法をご存知ではないでしょうか」

凛霄はじっと愛華を睨むが何も返答はない。だがその時、愛華の腹がぐううっと鳴る。

愛華「すすすすすすすみません! 丸一日なにも食べてなくて!」

愛華は真っ赤になって叫ぶ。
凛霄はくすっと笑う。その美しい微笑みに愛華はどきっとする。
凛霄は愛華の横を通り過ぎると小屋へ入る扉を開けて一歩入ると愛華を振り返る。

凛霄「多少の食料ならある。勝手に食え」
愛華「有難う御座います!」

凛霄について部屋へ入る

(第一話 終了)


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