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800文字日記/20220311fri/007

失禁か。飛び起き、用を足す。昨晩、鯵を焼いた台所が生臭い。流水で食器が洗える。春だ。音楽をかける。流しの横で猫が一本糞。トイレに流す。スッキリしたのか元気よく走り回る。仔猫だったのがもう二歳だ。胸騒ぎがして現金を持って部屋を出る。

階段を降りた郵便受けに封書が。借金の振込用紙ではなかった。文通相手からだった。

今日は土手へは出ずに路地を歩く。塀からはみ出た椪柑(ぽんかん)を口に入れる。甘い。県道を渡って部落を抜け漁港に出る。仕事を終えた漁夫が市場で昼寝。松が植わる国道を見ると隊列を組んだロードバイクが走る。競輪のようだ。

色が剥げた廃船が傾く国道沿いを、松ボックリを踏み歩く。漁船が係留されている入江の先の橋の下を潜る。橋を抜けると空の高い所で鳶が三羽、旋回している。左手に蛸壺(たこつぼ)、網、ブイ、が積まれてある駐車場で男が独りスケボーを練習している。右手には芝が凸凹(でこぼこ)のサッカー場が。

その入江に背の高い防波堤がある。突端に座って手紙を読もうとここまで歩いてきたが現れた光景に目を奪われた。巨大な作業船団がそこにあった。

船自体が一つの工場街のようだ。いくつもの巨大なウィンチがあって、ここからクレーンの五十メートルはある二本のアームが重なって見える。いや、巨大なクレーン車が作業船に乗っているのだ。現れた男衆はみな顔が浅黒い五十代後半から三十代。総勢十名。怒号(どごう)が飛び交う。現場は物々しく緊張感に満ちる。背後でJAL機が滑走路をゆっくりと動いている。

堤防の突端に立ってその実体に驚いた。まるでS F小説に出てくる工業都市のようだ。中央に巨大クレーンを持つ「後藤組」の船が。「後藤組」は、陸側から「第五国東」北に「第六安岐」沖側に「第八聡晟」「第十聡晟」などの計九隻の作業船に囲まれている。

防波堤の突端で腰を下ろし手紙を読む。「…水郡線の終電の音が聞こえます。この時間は一輌で走っています。哀愁たっぷりです。早く春が来ないかな」(798文字)

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