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800字日記/20221019wed/101「みかんの時期」

目覚める。昼よりもずいぶん早い時刻だった。顔をあげると机にメモ紙が見える。かかりつけの医師からの手紙だ。

睡眠リズムをととのえる方法

朝一定の時刻に起きて

日光を浴びる(くもりの日の窓辺で十分)。

2022 10/14 蘆宮

ひどい字だ。みみずがのたうっているようだ。医学部を出て、規模の大きなセンターの医局部長がかく字には見えない。が、こういう字は人間味を感じてぼくは好きだ。


話はシンプルに見える。が、問題がある。ぼくは毎朝一定の時刻に目覚めることができない。ぼくが睡眠リズムをととのえるためには、毎朝一定の時刻に目覚めなければならない。ぼくはまず、その問題を解決しなければならない。問題はそれほどシンプルではないのだ。やるべきことは明白だが実行はしがたい。これは他にもあてはまる普遍的な問いの気がする。


外は快晴でポカポカ陽気だ。パソコンで音楽をかけて、部屋のそうじを始める。網戸の隙間からアブが入る。ネコが追いかけまわす。掃除の手を止める。ある曲に聞き耳を立てる。ヒゲダンの「プリテンダー」だ。

「君の運命の人は僕じゃない、辛いけれど否めない♪…」


生ハムのサンドイッチをつくって食べる。ネコと遊ぶ。綿棒をなげると飛び付いてくわえてくる。


十四時に部屋をでる。どこもかしこも金木犀のかおりで充満している。田んぼでは稲刈りだ。チェーンクリーナーを買いにホームセンターに行くと、柿とみかんが売っていた。


「時期ですね〜」

とぼくがいう。

「この小さいやつの次は大きい青島みかんだよ」

と受付の人はいう。

ひとネット買って浜へ向かう。漁港の入り江にかかる橋の真上でカモメが鳴く。その向こうでジェット機が本州へと旋回していく。


チェーンの手入れをし終えて、浜につきだしたアベックスポットに行ってみる。どんぐりの実を拾って写メを撮る。


「Yさんの運命の人は僕じゃない。辛いけれど否めない…」

歌えない。シリアスすぎる。


どんぐりの実を、海へほうってかえる。

(797文字)

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