見出し画像

「竜胆〜」Vol.9【祇園の夏、少女編】

プロの作家に文章指南を受けている。前回までの流れは下記、。

前回までの流れは下記

昨晩は、先生が体調を崩したようで急遽、休講になった。

とはいえ、である。次回の講義で、

「チミ、一日、なにやってたの」

「え、あ、休んでました」

「へ〜、チミ、それでプロの作家になれると思ってたんだー」

漫画の、師匠と弟子によくあるパトゥーンである。

じゃ、ストックを一本、作っておくか。
ということで、「竜胆〜」Vol.8【祇園の夏、編】の別視点の少女編をかいていた。
生まれてはじめて眠りながら書いて書きながら眠った。目覚めたらディスプレイが、「一枚の札を男のポケットにねじこもうとしたが男は拒んっっっっっっっっつつつつっっっっっっっっっっっつつつつ、つつつっっっっっつつっっっっっつつつつつつっっっっっっっっっつっっっっっっっt…

ってみんななってた時ってありません? 猫がキーボードにのっかっちゃってたときとか、www

昨晩の顛末が下記。

今回の主人公は「少女(三人称)」か「わたし(一人称)」に迷ったすえに今回は「わたし」で主人公の少女をかいた。
が、これ(ノープラン)が、今回の大失敗のもとだった。書いている当人のぼくは、個人的には背の小さい少女の視点で世界を見て描いていてワクワクしながら書いていたのだが。ま、それが自己満足の素人の由縁である。

少女編では、「少女」が「男」と「女」の間ををいったりきたりしながら展開される。わたし(一人称)視点では、それが抑えきれない。もっと世界を俯瞰できる。三人称でないと、この世界は収まりきらない。書き終えずに寝てしまって。
今日の散歩の間に、わからないその原因を探っていて、ハッと気づいた。
ま、いい勉強でした。

❶今日の発見(時間の空白を埋める)。

じつは、冒頭が書き始められずに2時間以上、ディスプレイとにらめっこをしていた。ふんともすんとも物語が動き始めなかった。が、

前回の、❸「竜胆〜」Vol.8【祇園の夏、編】の男と女は、『その1日はどのようなに過ごしたのか?』を思い出したとき、まさに物語の歯車が動き始めた。ちょっと順序立ててかく。

ぼくは前回のVol.8の「女の一日の空白の時間」を埋めようとした。

⑴、今回の主人公の「少女」が、東京から新幹線で京都駅に九時についた。

⑵、この九時の時点でVol.8の「女」は京都駅にいるはずだ。粉屋と男の部屋は北区の大徳寺裏にある(京都駅までバスで20分)。

⑶、「女」はVol.8の「男」の部屋を少なくても8時ごろにはでていなければならない。(少なくとも「少女」を京都駅に、迎えにいくためには。)

⑷、⑶かつ「女」は、粉屋のランチ営業の準備もある。

⑸、「少女」は京都駅から「女」につれられて粉屋に到着、ふたりで店の準備をする。粉屋のランチ営業が落ちついた15時まで、「少女」は粉屋にいた。物語スタート。

上記の⑴〜⑸の空白が一瞬、浮かんだときにはもう、物語はすっかり動きはじめていた。

❷登場人物をどこに配置するか?

今回の収穫は、

「少女=わたし」の視点で、物語を内側から照らすことができた。

⑴、【Vol.8】の世界は崩さない。

⑵、読者は【vol.8】を読んでいない。

⑴、⑵を前提に踏まえて、主人公の「少女=わたし」をうごかせた。

例えば、「男」が粉屋に入ってきたからだ。筆者(ぼく)は、「少女=わたし」を外の路地に移動させている。外にでて子どもらに混じった視点から粉屋のなかを描写できるようにだ。

プロは、こんなに行き当たりばったりには書きませんよ。と言われるかもしれない。でもだ。素人でも書く技術を身につけたら、どこからでも軌道修正はできる。もちろん長編作品ではこのやりかたでは、できない。けど短編(原稿用紙100枚まで)ならすごくいい技術だ。

❸「書いた量のレベルは下がらない。」安心せよ。

ぼくはじぶんに自信がない。世のなかのだれにも評価されていないわけだから。が、先生は励ましてくれるのである。(そこは受講生の個々の性質を見ているんでしょうね)
この言葉は励みになる。

ぼくが大好きな、世界が認める作家でガブリエル・ガルシ=アマルケスがいる。コロンビアのノーベル文学賞受賞作家で代表作は「百年の孤独」「族長の秋」など。美樹香月先生とおなじことを言っていた。

「文章が上達するコツは書いた原稿の量じゃない。捨てた原稿の量だ。」


日本の漫画界でもっともボツ(お蔵入り)を貰った漫画家の、鳥山明もおなじことを言っていた。

「ボツを食らった量だ」



励みになりますね。

それでは(つまらぬものですが、良ければ)どうぞ。


「竜胆〜」Vol.9【祇園の夏、少女編】

夏。京都。

もう店の手伝いは大丈夫だから外であそんできなよ、と姉がわたしをみおろしていった。満席で四名のお客さまに、姉に教わったとおりの角度のおじぎをし、わたしはこども用の脚立からおりた。それからこの日のために父親に買ってもらっただぶだぶのスヌーピーのエプロンを脱いだ。おいくつ? 七歳。こどもさんかい? いえ妹なんです。へー。夏休みで東京から。はじめてのおつかいみたいだねえ…    うえから聴こえてくる。接客をしながら姉はうわ目づかいで、おこずかい、そこ。わたしは脚立をたたんで、しゃがんだところに隠れた赤い金庫から五百円をとって首にさげたがま口に入れた。壁と姉のお尻をすりぬけようとすると、足で止められた。床の三和土に金庫がでんとあって姉は足で隠すとおおきな木のスコップがはいった背の高い木のバケツが倒れた。おおきな木のスコップを手にしてこれなにに使うの? と姉をみあげると、そのまま抱きあげられた。

お客さんのひとりが、それ、柄杓(ひしゃく)、っていうんだよ。今日みたいに夏の暑いときは柄杓で道にお水をかけて空気を冷やす。打ち水っていう。ほら、おむかいさんもやってる。姉の店は路地に面した全面ガラスばりになっていて、道むこうで腰が曲がった老婆が打ち水をやっていた。

わたしは柄杓が入った桶をもってカウンターの一枚板をくぐった。

背を伸ばしてやっと手がとどく冷たいドアノブを開けて、姉の店の外にでた。頭のうえで、切れ目の入った黄色いよこながの旗が、風に揺らめいていた。「粉屋」。わたしには読めなかった。お父さんに買ってもらったデジタルウォッチならよめる。いまは3:05pm。

数珠につらなった太陽の光線が熱い。わたしが住んでいる東京とはまったくちがう種類のむっとする夏の陽射しが痛いほど肌にあたる。深呼吸をすると熱気で肺がただれそうなほどむし暑い。

ドアの脇にある水道の蛇口をひねって桶に水をはった。たぷんたぷんに水をはると桶がもちはこべない。急いでキュッと水をとめて、むかいの腰を曲げた老婆の真似をしながら打ち水をする。打ち水にわざわざ腰を曲げる必要はないことに気づいてめんどくさくなって桶から普通に水をびゃしゃばしゃと撒く。なんかちがう。首をかしげる。ガラスの向こうで、お客さんが姉に、ほら、妹さんに教えてあげてきなよ。笑っている。

姉が表にでてきて、熱いからこれ。といって濡れた手ぬぐいを首に巻いてくれた。ひんやりした。すぐに乾いちゃうけどね。いいのよ、どんなふうに水をまいたって効果はおなじなんだから。こういうのはフウカク。映画のお侍さんはお腹が出っぱていたほうがサマになるのとおなじよ。変わるからほら、あそんでおいで。わたしは姉の顔をまじまじとみつめる。姉はひどく青ざめた疲れた顔をしていた。なにかあったのかな。

黒く光る影がわたしの目の前をとおりすぎていった。小犬だった。艶やかな真っ黒なからだ全身で真夏の陽射しを浴びすぎたのか壁のほうへいったり観光客のほうへいったりふらふらだった。わたしは黒い小犬を追いかけた。

きゃっ、振りむくと、ガイドブックを片手にあるく若いふたりの足元に姉が打ち水をして、肩をすぼめて会釈をしていた。ふたりの濡れたはずの足元はみるみる乾いた。黄色いのれんを一瞥し、店をのぞきこんだがそのままとおりすぎた。

わたしは、黒い小犬を追った。

黒い小犬は路地の突きあたりの日陰に入ったところですこし息を吹きかえした。まわりで地元の子たちが水遊びをしてはしゃいでいた。男の子は肌着にパンツ姿で、女の子は浴衣を着ていた。そうだ黒い犬に水をあげよう。けどまわりに自販機は見当たらなかった。ちょっとまっててね。わたしは姉の店に引きかえす。

メダカの甕に手を添えしゃがみこんだ、顔を青白くさせた姉が、わたしに手を振っていた。あれ? ちがう。顔をあげたままの姉の目線を辿ってわたしは息を呑んでその場に立ち竦んだ。真反対に振りむく。姉が手を振っていたさきは黒い犬が凭れかかっている木造の二階の一室だった。そこで全裸の男が姉にむけて手をあげていた。全身がぞわぞわとした。お父さんとお母さんが夜にやっていることを姉とあの男がやっている。それはお父さんとお母さんとまたちがう。ぞわぞわ。吐き気がした。みなかったみなかったみなかった心でくりかえし姉の店へ走った。

水のペットボトルをもって戻ると黒い犬はいなかった。けどわたしは、足の赴くままに、全裸の男のアパートの門をそっと踏みいれた。ズックが終日日陰でじめじめしている土にねっとり沈んだ。

黒い小犬を見つけ追いかけようとして、後じさった。しめって滑る土に足を取られないようにゆっくり後じさった。

全裸の男だった。薄暗い木の衝立に屋根がついただけのトイレでおしっこをしていた。男は手は洗わずにズボンで拭いた。後じさったわたしは電柱の陰に隠れそれを目撃していた。ひどく嫌な予感がする。

黒い艶のある小犬がしっぽをふって男に近づいていく。男は、犬をするどく木のトイレへ蹴りとばした。小犬は濡れ雑巾みたいに便器のパイプにぐしゃっと叩きつけられた。黒い小犬はしろい泡を吹いて死んだようにぐったりした。首輪が光っていた。

怖くなってわたしは走って路地の子どもに紛れた。

男はアパートの塀と電柱に貼り紙に目をとめ一歩さがってトイレをみた。携帯をだして電柱の貼り紙に電話。五分もしないうちにわたしと変わらぬ齢の女の子を連れた母親がやってきて男にふかぶかと頭をさげた。男はしゃがんで女の子の目線になった。さっき蹴った黒い小犬を女の子に返した。優しい顔だった。さっきの恐ろしい男とはまるで別人だった。

男が小犬の腹をさすると小犬がビクついた。心配そうな顔をする親子に男はちかくの動物病院を教えた。母親はことわる男を無視してポケットに札を一枚ねじこんだ。親子は黒い小犬を抱いて去っていった。男は電柱の貼り紙に唾を吐いた。

きゃっ。わたしの背中が濡れた。わたしはすごい勢いの水鉄砲の流れ弾を浴びていた。周りをみると、ベビーカーのお父さんがビニールプールに足で空気を入れていた。ほかの子らは水ふうせんを投げあっていた。

それは鮮やかなスーパーキャッチだった。わたしの後ろから、水ふうせんが男のほうへ飛んでいった。男は飛んできた水ふうせんを、ひざを柔らかくつかって、力を吸収するようにうまくキャッチ。

男はあごで空をさしている。わたしはポカンとみていた。男は水ふうせんを頭に乗せる。ほかの子どもたちも首をかしげていた。かまわずに男は空を指さし、子どもが見あげている青空に向かって思いきって水ふうせんをほうり投げた。

五、六人のなかのひとりが、男の意味がわかったといったように目を輝かせ、水ふうせんの着地点を目指して上空をみつめ、あんぐりと口をひらきながらふらふらと、路地をさまよう。水ふうせんは、空をどこまでもあがっていった。一番高いところでとどまったなかに太陽のひかりをつつむ。それからゆっくりと下降をはじめた。ふらふらと着地点で待ちかまえている子どもの頭のうえで、水ふうせんは勢いよく、べちゃっ、と弾けた。わたしは驚いて目をみはった。

男の子らは目を輝かせて、ぼくにも投げてと男のところに集まっていった。すると、これはもっと面白いぞ。そういって男はピッチャーのように振りかぶって中腰でまちかまえる脳天めがけて水ふうせんを手加減なしで容赦なく投げつける。ベチャ。みんな腹を抱えて笑った。わたしも笑った。

男は路地に唾を吐き、路地の子どもに背を向けて歩きだすと。一気に男に打ち解けた男の子たちのひとりが男の背中に水ふうせんをぶつけた。男が振り返ると子どもたちは蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。わたしも紛れて姉の店に走った。走りながらわたしは男のことを考えていた。

それは怖さと寂しさとわたしにはわからないなにかがまざった不思議な魅力だった。ずっとながい時間、おなじ時を過ごせば、好きになっていくかも。

黒い雨雲で空が覆われ夜のようになって雨が降ってきた。

振り向いた。男がまっすぐこっちに向かってくる。姉の店に来るんじゃないかとわたしは怯えた。男がおってくるようで怖かった。夢中で走った。

本降りになる前にわたしは姉の店にたどり着いた。

姉は夜の営業でつける銅製のランタンを開けてなかに火のついた蝋燭を入れていた。わたしは姉と、店に入った。

お、おかえり、遊んできたかい。と常連さんがわたしにいった。天気が崩れてきました。姉がというと、傘さしてきたっけ、お客さんがざわついた。

わたしはカウンターをくぐって姉の足元の三和土に直に膝を抱えてすわってじっと黙った。そういえばいま気づいたが、わたしの足元に、薄い湿った布団がシンクの下に畳まれてあった。大人の血と汗が混ざった饐えた臭いが鼻についた。男と姉が抱き合っている嫌な臭いだった。くろ茶色の絵の具のような染みがついていた。苛立ったお母さんが、だからこういう日は、やりたくないのよ! と父に怒っている姿を思いだした。

男はやはり姉の店の前に立っていた。お客さん、きてるよ。いうふうに姉の腰に巻きつけたエプロンをひっぱる。気づいたようだったが姉は知らんぷりした。うえから食器を洗っている音が聴こえる。

カラン。ドアベルが鳴った。

男が入ってきた音だ。わたしは思った。

姉の後ろからレジをのぞく。男の足が見えた。

姉が顔をあげるのがみえた。

男の足がドアに向かったが、傘ないですからあたし帰ります。どうぞぜひ。緑の絣を着たお客さんが席を立った。

チャンスだと思ってわたしはピアノのジャズのボリュームを大きくしたその隙に、緑の絣を着たお客さんと一緒に姉の店をでた。

姉の店をでると、店の前に、男に水ふうせんをぶつけた子どもが集まってきてきていた。路地からガラス越しに、店のなかにいる男と女を囃したてている。わたしもそのなかに混じった。男はわたしたち子どもを無視していた。姉は男にメニューをみせるが男は反応がないようだった。姉はコーヒーを淹れた。男に無視された子どもたちはどこかへ消えた。わたしは向かいの電柱に隠れて姉の店のなかを眺めていた。

男は、カウンターのうえに紙を広げ、これはどういう意味な、ん、だ。というふうに、紙を、人さし指でコツコツとたたいた。姉は、さっきシンクのしたにあったどす黒い大人の女の血のついた布団のことを弁解しているに違いなかった。

姉の店のガラス前にまた子どもらがやってきた。水ふうせんをガラスに向かって投げ始めた。水ふうせんのなかに赤や青や黄や茶色の液体が入れてあって店のガラスがペンキを混ぜたようなドロドロした液体で汚れた。店のなかの男は鼻を鳴らして笑った。パリン。数人の男の子が玄能でメダカがいる甕を大きな音を立て叩き割った。姉が店をでると子どもたちが逃げていった。メダカの甕が割れて、雨にぬれたアスファルトのうえで藻に絡まっオレンジのメダカがぴちゃぴちゃしていた。手ですくった数匹のメダカを姉はコーヒーカップに移した。

ガラスで隔てられた店の外からみると、まるでみえない雲に絡め取られたまま糸が絡まっては落下する凧のように、姉は、男にふるまっているようにみえる。姉はずっとそういう姉だったのか。でも姉は楽しそうだ。

それからわたしは恐ろしくなった。

後日、追記

ガラスの枠のなかはまるで、声の聞こえない人形劇のようだった。

後日、追記(転換の一文)

メダカ。そのままじゃ死んじまうな。

男はケラケラと笑った。女は顔をひきつらせ笑った。

赤や青や黄色や茶色にまみれたガラスの向こうに黒い犬を抱えた親子がとおる。

男はメダカの入ったカップをもって外へでた。

カウンターのなかで女はドロドロしたカラフルな液体で汚れたガラスの内側から、路地でしゃがんだ男が女の子に話しかけている姿をみていた。

昨日会った男の優しい笑みだった。

男はメダカの入ったコーヒーカップを少女に渡し、母親に頭をさげた。母親がまた一枚の札を男のポケットにねじこもうとしたが男は拒んだ。

店にもどった男はレジの横にささったボールペンを持ってきて、女が男の郵便受けに入れた手紙の裏に、男が今日やったこと、そのすべてをかいた。

男は金も払わずに、店をでていった。

女は、男の手紙を読んだ。最後に、

「また抱きたい。」

かいてあった。





2022/01/07/Fri_06:43_Vol.9

よろしければサポートおねがいします サポーターにはnoteにて還元をいたします