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私小説を書いて判明した筆者の疾患。20230411tue299(GM全記録)

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 書いていてちょっと驚いた。私小説といえど、主人公「男」と「筆者」蒼井は別物(別人格)だと思っていた。

 男のキャラと物語を書きすすめているうちに、「男」のある症状に辿り着いた。

 ガガゴゴガガゴゴ。店の裏手の通路の入り口で二層式の洗濯機が音を立てる。みゃおああ、るろろろ。通路の奥の影から生き物が鳴く声が聞こえる。のどを震わせるようにゴロゴロ。ネコだ。一匹じゃない。十匹ほどは、いる。男は思う。二層式の洗濯機とプレハブと間に、彼らの自宅へと抜けるほそい通路が見える。人影が見えた。挨拶をしようか、迷った。
 ガタン。
 洗濯機の音は止まった。
《乾燥機がある(これも仕事で? )、足元にキャンプ用のなが椅子(休憩所? )、左手にものほし台(角ハンガー、さがる雑巾・サンダル)、プレハブに竹ほうき、長板? ちがう立てかけられたオボンだ、落ちたクギ、黒い車はボクシー、白色はエルグランド、外に来客がならぶためのプラスチックいす、アカ、キ、アオ、アカ色にシロ抜きのカンバン「喜ちゃん飯店」、店の裏のオクサンの自宅、三かい建て、西にえんがわ、二世たいだ、芝生の庭、パンジーの花だん、タバコの吸いがらが山(ここキツエン所? )、奥でベツの水音が(ベツの洗濯機が? )…》
 男は、目にうつる風景を、まるでカーボン用紙に複写するように、するするとメモっていった。男はメモをとるのが速かった。「オザワがモノをメモるその手の速さは、尋常じゃあねえな」と、盆栽屋に勤めた同僚に言われたことがあった。
 なぜそれをメモしたのか。男にもわからなかった。バイトの初出勤で緊張して、目に映るものすべてを覚えようとしたのか。
 男は、自分はADHD(注意欠陥・多動性障がい)ではないか? と昔から疑っていた。好きな小説やゲームはいくら時間を費やしても集中できる。だが好きなこと以外のものごとや大きな緊張をしたりすると、いろいろなわき見や独自の思考浮遊や突飛な判断などの衝動が脳から、ぴょんぴょんととびでる。
 数年前に、男は自分の思考の在りかたや散らばりようを、ふかく内省して、主治医に「ぼくはアスペルガー症候群ではありませんか? 」とおもいきって訊ねたことがあった。
 はっはっは。ちがいますよ。
 強制終了だった。男にとってはだれにも相談できないふかい悩みだった。主治医は最後の砦だった。その主治医に笑われて、男はひどく傷ついた。それから男は、自分はADHDではないかという疑懼(ぎく)はだれにも相談していない。

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