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〜未読スルーは言い訳を産む卵〜

母の善意の嘘と恋の駆け引き

〜未読スルーは言い訳を産む卵〜

1740文字・30min


一般論のコラムで書く。

生まれて初めて、未読スルーをした。

LINEはほとんど母としかやり取りをしないので母のLINEを未読スルーする必要はない。

では、未読スルーをする相手とは?

それは自然と「損得の駆け引きをする相手」となる。

その「損得」は「恋」となるわけだが。

SさんとLINEをしている。

朝8時にトイレに起きた。

Sさんから「おはよー」のLINEが入っているはずだと思った。しかし、僕はケータイを開かなかった。体調が異常なほどにだるかった。

僕が熱中症か?

僕は自分が熱中症に罹るはずはない。とタカをくくっていた。自分が熱中症かどうかはわからない。が、だるかった。


二階のトイレの扉を開けた時、吹き抜けから玄関の三和土にゴミ袋が三つ、並んでいた。その一つを、大人の女の影が掴んで玄関の外に消えた。妹だと思った。


僕は、自分を恥じた。


母は、前日、白内障の手術をしていた。

昨晩、母は術後の安心のせいか、右目を塞ぐ眼帯に「イタイイタイ」と文句を言った。

「痛いのは、生きている証拠だよ」

「そうね、お医者さんも言ってたわ」

僕は実家に帰った息子が得意になったつもりで、皿洗いや買い出しを買ってでた。夜は、母は実家に居る長男と話すのが楽しいらしく、刑事ドラマの話をする。

が、明けて朝、僕は、母が本当に頼っていたのは妹だった、と知る。


朝、僕は二階のトイレから、妹がゴミ袋を車に運び入れるのを、見た。二度寝して階下に降りて冷蔵庫を開けると、セブンイレブンで買ってきたサンドイッチと野菜うどんが入っていた。糖尿病の父の分も含めての三食分だ。


僕は思い出した。高校三年の時の正月だ。人生で最後のお年玉は祖父が、地元の市会議員を務めていた都合で、県議会議員や地元の農業委員、区長や祖父が世話した人間が僕にお年玉をくれた。お年玉は十八万円になった。その日、高二の女子校の制服姿の妹と、口喧嘩をした。

昔、僕の時代でも田舎、農村コミュニティでは、長男とそれ以外は差別をする。慣習があった。

「お年玉そんなに貰えていいわね! 同じ兄妹でなんでそんなに違うの? 」

妹の渾身の嫌味だった。

 生まれてきた順番なんか俺が選べるかよ!

 とは妹には言えなかった。


高校の正月の記憶。妹はまだ覚えているだろうか? 妹の頭にはそんな記憶はもう存在しないかもしれない。


僕は、自分を恥じた。

母は、僕に「アキちゃん。色々頼んで悪いわねー」と僕に笑顔でいう。

だが、実際、母を手術で送り迎えしたのは妹だ。彼女は職場の昼休みを削って母を眼科まで送り迎えをした。僕はその日、東京に出ていた。


母が長男の僕を愛するのは嘘ではない。僕に黙って妹に白内障の手術の送迎を頼んだもの、別に自然のことだったろう。だが、長男の僕と妹の間には埋められない溝がある。高校の正月のお年玉の件で叫んだ妹の言葉で、入った亀裂は、三〇年経ったいまでも深く、厳然と横たわっている。


今日の、昼食のとき、僕は母にセブンの野菜うどんを皿にほぐしてやった。

母は、眼帯を外した、まだ腫れが残る左目を僕に見せて笑った。それから白内障を取り除いた水晶体と膜の間にコンタクトレンズを入れた話をした。

「それって、メガネをせずに視力をあげる、レーシック手術っていうやつかな?」

「わかんないけど、裸眼にコンタクトが入ってるのよ」

 僕と母は眼科の世間話をした。

 猫が、テーブルに飛び乗って、窓の外をじっと眺める。まるで七宝焼の置物のように。母は猫が見つめる裏庭を指さして、

「アキちゃん、今日ね、裏庭にトンボが飛んでたのよ」

 母は笑った。

「地球規模で猛暑だけど、自然界は秋なんだねー」

僕は母の笑顔を、うまく見ることができなかった。






(コラム文章としては、ここ〆るのが良かったか… 汗)


話はSさんのLINEの未読スルーの話にもどる。

SさんのLINEの未読をスルーするのは「恋の損得勘定」だ。その感情は、妹に対しての後ろめたさとは違う種類だ。僕は妹のLINEは知らないがもし妹とLINEをしていたら未読スルーをするだろうか? 答えはYESだ。

「利害の駆け引き」や「損得(感情)」など、人間関係が複雑になると未読も既読もスルーが始まるんだな。

僕は、それを学んだのである。


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