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「竜胆-」Vol.14【五分前の世界、Ver.5.❷】

プロの作家に文章指南を受けている。前回までの流れは下記、

袋小路に陥った。

前回の、文章が削げない。

昨日のGoogleドキュメントのメモ。

⑴これ以上、文脈(ことば)を付け足せば、不要な意味(文脈)が発生する。削げば、物語の密度、強度が崩れる。
この物語「竜胆-」はこのまま置いておいていいのではないか?
例えば、外部からの要請で「事件が欲しい」「最近の社会事件を盛り込んでくれ」「ラノベの軽い筆致で書いてくれ」その他の要請があれば、そういう方向へと舵を向ける「たたき台」とはなるが、また新たに「竜胆-Ver.」を一からならできそうだが。「竜胆-Ver.」はすでに廃墟になった気がする。

⑵「雲ひとつない。」から(男の視野に入る物体の影など、心情や、回顧の挿入などで)物語の更なる展開は可能だ。だが展開すると、物語に文脈が派生する。書くべきか、書かずに置いておくべきか?

⑶(途中まできて)ここらへんまでくると、文章をどうする。ではなく、構成をどう変える?と、筆者は思考が変わっている。迷いすぎて作業目的が変わっている。
これ以上進むと、「Vol.14」を破棄してまっさらな「Vol.15」を描き始めると思う。その方が楽だ。逃げではなく。ここまでくると文章修練じゃない。文章がたたき台の役割を果たしていない。じぶんの文章にケチをつけている。現在の文章のどこが悪くどういう方向へ書けばいいのかわからずに、筆者が作業を投げだしている。

⑷同じ文章でカメラワークを変えればいいとか、セックスシーンを加えればいいの問題じゃない。丸々別の文章で変えるべきか?では結局、最初からおなじ設定の別視点なりの新しい物語を書くべきだろうか?

⑸同じ文章でカメラワークを変えればいいとかの問題じゃない。丸々別の文章で変えるべきか?では結局、最初からおなじ設定の別視点なりの新しい物語を書くべきだろうか?

⑹もう、これは作業じゃない。文章修練でもなんでもない。面白くないし。楽しくないし、ただの義務だ。

⑺別の人間に書いて欲しい。

⑻これ以上に、じぶんの文章は追えない。

⑼袋小路に陥ったときにどんなリフレッシュ方法があるか。その方が重要だ。


結局、朝になっていた。

散歩のあいだ、ずっと考えていて、ふと、❹つのアイデアが浮かんだ。

❶「男(三人称視点)」を「ぼく(一人称視点)」で書き換える。
❷女が男の部屋をでてった時間をずらす。(男の起きる5分前に女が男の部屋を出る)☞物語スタート。(粉屋の営業中の設定は変更を余儀なくされるが)
❸「男」と「女」を逆転させる。「男が粉屋の主人」「女が木造アパートの住人」あるいは女は「ゆきずりの女」
❹、❷の設定で❸のパターン

❷は妙案だとおもった。女が粉屋へ帰っていく道筋を描くことで、男がおなじ道筋を歩いてとおる路地(「竜胆-」Vol.13【祇園の夏、Ver.4】)の5分前を描くことができる。

ということで、今回は下記、

(とにかく袋小路なんだからなんでも書いてみよう!)

今回、描きたいこと。

①女を動かせて女の目からみた男の部屋、男のアパート、廊下の勝手口、隣室(隣人の気配)、軋む廊下、階段の角度、郵便受け、そのなかに女がじぶんの手紙を入れるまでをきちんと描きたい(といって男の部屋をがんばって凝って描かない。描くことがなきゃないで描かない)。
②Vol.13【祇園の夏、Ver.4】とVol.14【五分前の世界、Ver.5.❷】は並行世界である。無理やりVer.4に辻褄を合わせようとしない。Ver.4はVer.4。Ver.5.❷はVer.5.❷。
③「後ろの文が冗長に膨らむ、じぶんの書き癖」を発見。最初の、
例1)となりに寝ている男は昨日、祇園祭で会った男だ。(ボツ)
例2)男がとなりで寝ていた。(採用)

例1)を書いた場合、後ろに、「出逢ったくだり(回顧シーン)」をだらだらと描きつらねていまう(いつもの悪いぼくの癖)。

例2)であれば「男との出会い」は後に持ってこられる。

④女に男のかけ布団をもって帰らせるのが困難になった。理由は「男がいつ起きるかわからない」だから「布団」「血」の件は放置。マクガフィンは手紙だけ。
⑤物語が最後、破綻している。

これだと新たな「マクガフィン」を設置するしかない。「五分先の女が、店から、アパートの裏庭で黒い子犬を蹴っ飛ばす男の姿を目撃する」とか、「常連の噂の男像をどこかで描く」とか、

載っけてありますが、読まれたくないダメダメ文章です。

「竜胆-」Vol.14【五分前の世界、Ver.5.❷】

アパートの裏庭では、朱色の木槿が血が燃えるように咲き誇っている。屋根に太陽があたってトタンが熱でパリパリと音を立てる。男の部屋で女は目覚めた。窓の隙間から蝉の声が一斉に飛びこんでくる。

例1)となりに寝ている男は昨日、祇園祭で会った男だ。(ボツ)

例2)男がとなりで寝ていた。(採用)

(文)蒼ヰ瀬名

女は男の腕をそっと退けた。陽があたる畳に男の腕がころがった。男の腕の先の指に、乾いた女の経血がついていた。汗と垢で黒くひかる布団にも女の血があった。男は女に背をむけたまま寝息をたてている。昨晩、女は祇園祭で初めてであった勢いのまま男の部屋になだれこんだのだった。

女はじぶんの服をさがした。書生机のうえにきれいに畳んであった。女は服を着た。腕時計をつける。15時だった。ランチ営業を片づけながら夜の仕込をしている時間だ。大きく肩を落とした。女は畳にあおむけになった。傘のない裸電球がぶらさがっている。女は天井からぶらさがる電球をみつめながら計算を巡らせた。いまからなら夜営業に間にあう。

三畳の男の部屋にはなにもなかった。布団のほかに、リュックがひとつあるだけだった。なかに紙と筆記具があった。

男のリュックから紙とペンを取りだして女は皺くちゃのシャツのままうつ伏せになって手紙を書いた。書いた手紙をハート型に折った。

部屋をでると共用の水場があった。手を洗おうと蛇口を捻った。泥のような液体が勢いよくでてきた。京都の修繕のしていない古い家屋によくある、いわゆる鉄管ビールを流したまま女は東側の小窓を開けた。日陰が東へ伸びていた。蛇口から黒い砂鉄のような錆がでおわると冷たい真水に変わった。手で水を掬って飲んだ。冷たくておいしかった。女は手を洗ってハンカチで手を拭いた。

音を立てずに部屋のドアを閉めると6とかいてある。男の部屋番号にちがいなかった。となりの5に、ひとの気配をかんじて女はいっぽ後じさった。不気味だった。立ち止まって耳を澄ませる勇気はなく女は狭く急な階段をいっぽ、またいっぽ軋ませおりていった。

木の手すりに針金で括られただけの郵便受けのなかにハートに折った手紙を入れた。すぐにまた手紙をとりだして内容を確認する。

「昨夜は(朝までですね。笑)、とても楽しかったです。よる、あなたのへやの窓からランタンがみえた店それがわたしがやっているお店です。ごちそうします。一度、お立ち寄りください。まどか。」

靴を履いた。裏庭にでた。

裏庭の竹林の翳にベニヤと塗炭で囲っただけのトイレがあった。
プラスティックを踏んだような感覚があって女はシューズをあげる。陽にあたらぬアパートの東側の緑に湿った土いちめんに、蝉の抜け殻が転がっていた。
路地から、男のアパートの裏庭へ、鼻を湿らせた黒い小犬が入ってきた。首輪がついていた。
路地にでると電柱に迷い犬の貼り紙があった。女は一歩さがって裏庭のトイレのほうをみた。
女は携帯をだして電柱の貼り紙に電話をしようとしたがバッテリーが死んでいた。女は裏庭に戻って黒い子犬を抱え表の路地に放した。ベビーカーを片手にビニールプールを膨らませている父親がいた。ふたりの男の子が水鉄砲で撃ち合いをしている。ほかの子らは水ふうせんを投げあっていた。
子犬は地元の子どもが遊んでいる裏路地へと消えていった。子どものひとりに見知った顔があったが無視した。
路地にでた女は歩きだした。腕時計をみる。三時五分。夜の営業にはまだ間にあう。
真夏の古都の盆地の昼下がりのねばり気が、肌にねばついた。
あっ、男の後ろから声がきこえた。
ベチャ。振りかえった女の胸元で水ふうせんが弾けた。
子どもらはポカンとしていた。
それから子どもらは笑った。

女もポカンとしていた。胸元が冷たくてひんやりした。浴衣をきた女の子が女の胸元を見て顔を赤らめていた。じぶんで白のカットソーの胸元をみると水で濡れて乳房が透けていた。

それからおとこの子らが水ふうせんを容赦なくなげてきた。女の見知った年長のおとこの子が指図をしているようだった。ベチャ。ベチャ。ベチャ。女の足元にいくつもの水ふうせんが飛んできた。みんな腹をかかえて笑った。

女は子どもらを無視して店へとあるきはじめた。
バチン。女の背で水ふうせんが破裂した。
背中がぬれた。子どもらは走ってにげていった。背中ではじけた水が生温かい機能だかれた男の愛液のようになって股に絡まってくる。下腹部が濡れた。女は昨晩の交わりをおもいだした。

女を濡らしていた水はみるみると蒸発した。

女は店に着いた。

女は向かいで打ち水をする老婆は会釈した。ガイドブックを手にしたふたりはのれんのかかっていない女の店をとおりすぎた。

女は外にのれんを掲げた。それからドア横の、ブリキのランタンなかに蝋燭の火を入れた。夜営業のしるしだった。

外に軽く打ち水をして桶を置き女は、甕をのぞきこんだ。波うつ水面にのれんとじぶんの顔がゆらめいている。藻にメダカが隠れているのがみえる。女は顔をあげた。はっとした。

女が店まで歩いてきた路地のさきにふるい木造二階建てアパートがある。きのう祇園祭で偶然であってそのまま抱かれた男のへやがみえた。

男の部屋の窓がはんぶんあいていた。女は目をほそめしゃがんだ位置から男のへやをみた。

路地に立つ電柱で男の部屋はちょうど隠れてみえなかったが女は、傾いででっぱった二階の男のかどべやに小さく手をふってみた。女は店に入ってすぐに夜営業の準備にとりかかった。

カラン。まってたんだよ。まどかちゃん。

腰まきをつけ夜の仕込みの支度をしているそばから、いつもの常連が店に顔をだしてきた。店はすぐに埋まった。店はカウンターの止まり木が四席あるだけの小さな珈琲店だ。

女が狭いカウンターのなかで食器を洗っていると、常連のひとりが、女に、知り合いかね? といった顔で外を顎でしゃくった。のれんの前に男が立っていた。男の顔は隠れていた。

店のドア横に太い蛇腹のダクトがつきだしていて、コーヒーを煎った薫りと焙煎された豆の白い滓が雪のように吹きでてきている。

男はのれんをくぐってドアを押した。
カラン。ベルが鳴った。
男は目を細めた。まだ目が店内の暗さに馴れていないようだった。
男の視界が広がったようだった。
男はドアを開けた右手の業務用の焙煎機とレジの間に立っていた。いらっしゃいませ。女は愛想笑いをした。

四隅に間接照明があるの雰囲気のある店にはクラシックが流れている。
女が立つ背後の棚には、ごつごつした素焼きの、縁がうすい青磁器の、取っ手のないマグ、小さい赤いエスプレッソカップなどが棚に並んでいる。

ようやく男の目が店内の暗さに目が馴れてきたようだった。男は、サロンを腰に巻いた女をためつすがめつみていた。
満席だったので男が帰ろうとすると、一番奥の、洒落た京友禅をきた老人が、わたしいま帰りますからどうぞ、といって男に席をゆずった。
男は礼をいって奥の席に黙って座った。
他の三人の常連も気を遣ったのか、五分も経たぬうちにかえっていった。
女は、壁にかかっていたロールカーテンの紐をするするとひっぱった。

西に傾き始めた真夏の陽射しが店内に入り込んできた。
店内が路地に顔をだすと、女に水ふうせんをぶつけた子どもたちが集まってきた。
子どもたちは店のなかの男と女を囃したてた。
女は男にメニューを渡す。
おれはここに飲みにきたんじゃない。男は勢いよくメニューを閉じ、女に突っ返した。
女はコーヒーを淹れた。女はなにか他に好きな音楽はあるか。男に聞いた。男は笑った。
男はカウンターのうえに郵便受けに入っていた手紙を広げ、これはどういう意味だ。と訊いた。

店のガラスの前に男に水ふうせんをぶつけた子どもたちがやってきた。
子どもたちはこんどはガラスに向かって水ふうせんを投げ始めた。水ふうせんのなかに赤や青や黄や茶色の液体が入れてあって、店のガラスはドロドロしたカラフルな液体で汚れた。男は鼻を鳴らして笑う。外で何かが破裂する音がして女は店をでた。
子どもたちが逃げていった。
のれんのしたにある甕が割れていた。路地のうえで藻に絡まったメダカがぴちゃぴちゃ跳ねていた。女は手ですくった数匹のメダカをコーヒーカップに移した。
メダカ。そのままじゃ死んじまうな。
男はケラケラと笑った。女は顔をひきつらせ笑った。

男は金も払わずに、店をでていった。

2022/01/12/Wed_22:02_Vol.14_Ver.5.2

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