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派遣王女☆ウルスラ / 第11話(4,267文字)


■第11話■


バックトゥー・座・フューチャー PART4


扉絵


1話 目醒めない主演



ウルスラはベッドから起き上がる
「ふぁ〜あ、なんだか2週間分くらい寝た気がする」
みんな(フリード、サクラ、ルーシー、地蔵)は中央のテーブルを囲んで朝食をとっている
ボッチはエプロンを着、おたまと菜箸をにぎって
「お嬢。きっかり2週間ぶん寝ておりましたぞ!!」

ウルスラはパジャマ姿で目をこする
むにゃむにゃ…
「で、あれからなんかあった?」
「え? いやまァ………」
ボッチは笑ってテーブルを見やる

テーブルにて
「ひッ、きしュッ!!」
地蔵はくしゃみをする
「婆さん大丈夫か…石だからってもう歳なんだから…」
地蔵は怒る
「あたしを婆さん呼ばわりしないでおくれよッ!!」
サクラはフリードにツッコむ
「フリード、そうやって見た目で婆(ばあ)さん扱いしないの」
ボッチはうなずき
「そうですよ、サクラさんのいうとおりですよ」
「でもま、電車でそういう場面をよくお見かけしますが」
フリードはナイフとフォークをもつ手をとめて
「おま、まだいたのか?」
サクラは
「いたわよ、ずっとッ!!」
箸で部屋の隅のガラクタの山をさす
「17年前の証拠!!あそこにぜんぶあったじゃないの!!」
フリードは口からつばをとばし
「あんな事実!! おれだって知らなかったんだ!!」
「あんな場所にあれやこれや、壺に楽器にあんな箱に…」
「こんな地蔵の婆さんに………!!」
とフリードはフォークで地蔵をさす
地蔵はもっている錫杖でフリードの頭をたたく
「でてきたのが地蔵の婆さんで悪かったねッ!!」
「人魚の美女ならよかったのかいッ!!」
サクラとフリードは
「まぁまぁまあ……」
ボッチはお子様ランチをほおばるルーシーを見て
「ルーシー嬢、ほら、お汁、こぼしてますぞ」
ルーシーの口元についたチキンライスをつまんで食べる
「お口元にご飯粒が……」
サクラは箸でボッチをさして
「アンタ、執事というより乳母ね……」
「ババアがなんだって?」
「第一、箸でひとさまをさすんじゃないよッ!!」
「バチがあたるぞな!!」
フリードはフォークで地蔵をさして
「サクラはさっきあんたに『乳母』っていったんだ婆さん!!」
「耳、聞こえねえのか?」
地蔵はテーブルをばんッと叩く
「だから、あたしを婆さん呼ばわりしないでおくれよッ!!」
お子様ランチのプレートが空中に飛びあがって……山型のチキンライス…万国旗…タコ型の赤ソーセージ…ミートボール…フライドポテト…チキンナゲット…エビフライ…プリン…ナポリタン…ミニハンバーグ…グリンピース…ミニトマトが、宙にバラバラに浮いてまたテーブルに落下するそれをルーシーは、手のひらに載せたプレートのうえに逆再生動画のように整然とならべていく
「フリード、そうやって地蔵を婆(ばあ)あつかいしないの…」
「そうですよ、サクラさんのいうとおりです…」
「…でもま、電車でそういう場面をよくお見かけしますが…」
「おま、まだいたのか?」
サクラは激昂して
「おま、ってなによッ!!」
「いたわよ、ずっとッ!!」
フリードは言い直す
「サクラ、まだいたのか?」
サクラは顔を赤らめ
「…きゅ急に父親ぶって…」

トーンダウンしたサクラはもう一度、おなじセリフを棒読みでいう
「…急に父親ぶって……」

むにゃむにゃ………ウルスラは寝ぼけまなこで見つめている
映画の助監督の姿をしたボッチはウルスラの肩をつつく
「嬢…」
むにゃむにゃ……
助監督のボッチは台本『第11話☆パンドーラの箱!!』を開いたページに指をあて
「嬢、ここです。ここ………シーン、1の3」
ウルスラは
むにゃむにゃむにゃ……
「嬢、この場面お嬢がみんなを止めるところです」

「あわわわ……」

みんな動きを止める

ボッチはこちら読者へふりむき
「え、このまま行くの? シュール過ぎません?」

ボッチは驚いた顔を読者に見せ
(やるの? ほんとうに………)

またテーブルで止まるみんなに両手で大きな丸を作ってみせ

(このままで、オッケーで〜す!!)

ボッチは音を立てずに、右手をあげてカウボーイが縄をまわす仕草をする
止まっていたみんなは動きだす

「で、」

「で、それが………」

フリードはサクラの肩をつつく

サクラは、とつぜんひどく驚いた顔を見せ、両手で顔を隠す

「えッええ〜〜〜〜〜!!」

地蔵は自分の顔を指さす

「見ればわかるじゃろ、地蔵じゃ」

またみんなは止まる

ボッチは滝のような汗をかき、ウルスラをじっと見る
みんなも止まったまま滝の汗を流し、ウルスラを見る

ウルスラは目をこする
むにゃむにゃむにゃ………

フリードはウルスラがいうはずだったセリフを自分のセリフのようにいう

「で、その……婆さんの……その地蔵の姿ってのは……」
「世を忍ぶ仮の姿なんだろ? きっと……」

「そうじゃ」

サクラは顔を覆う指を左右にひろげて、目をみせ

「じゃあ、あなただれなの?」

「元魔王じゃ」

ズコーッ!!


2頁 フリードの部屋(Take2)



時(正確には2週間前のピッコマ第9話のラストの頁)はさかのぼって
……


「えっウルスラ、なにいってるの?」
サクラはボッチに訊ねる
「さっき、断崖の丘の特別養護老人施設にいってきて、その人形劇で魔女のがいった予言のことばです」

「ん?」

ボッチはハッと何かに気づく
ゆっくりとムーンウォークをしてフリードの部屋を出て、ドブが流れる暗渠の通路にでる
フリードの部屋のなかから、ウルスラの寝ぼけ声が聞こえる
「……奥へ行くと、岩が崩れ落ちて小屋のように見えるところがある。そこへ入って行くとお助け道具が一式そろってるよ、楽器とか箱とか鍵とか壺とか色々なものがあるよ……」

部屋の奥に発光する何かを見つけるボッチ
ボッチはゆっくりと、恐るおそるフリードの部屋に入っていく

ボッチはゆっくりとフリードの部屋の隅々を見渡す。フリードの家はせまくて暗い。壁はコンクリートで四隅にガラクタの山がある。中央には小さな丸いテーブルがあって、床は打ちっぱなしでひんやりとしている。部屋のあちこちにガラクタがデタラメに積まれている。弦の切れた馬小屋のようになったバンジョー、民家や矢倉のような妙な形をした壺、積まれた無数のフォークやスプーンはまるで森のようだ。割れた壺から枯れた菖蒲や蓮の花が、長持が、空き瓶が、電線が、提灯が、とんがり帽子が、盆栽が、ウイスキーボトルが、扇風機のプロペラが、六角レンチが、マンホールが、車のナンバープレートが、ドラム缶が、空き缶が、角から古いが脚が生える高級そうで堅牢な宝石箱が、背の高い城のよう見えるオルゴール箱、化粧箱、賽銭箱、輪に無数に繋がる鍵などだ床に散らばっている、角の奥に小さなベッドが置いてあってウルスラとルーシーが抱き合って眠っている。そこでふとボッチはこのゴミの配置に何かを察知し「あっ」と気づき、声にならない大声をあげる……

(あ…この部屋は……これは…)

「ボッチ、なにをそんなに驚いた顔してるのよ」
サクラはいう
「悪いな、汚ねえ部屋で」
フリードは頭をぽりぽりとかく

「違うんですッ!!」

「こ、このゴミの配置は……さっき見てきた人形劇…」
「その舞台世界なんです!!」

フリードはいう
「それはつまり…どういうことなんだ?」
サクラはいう
「どういうことなの?」

ボッチは唾をのんで話をつぐ
「あ、あそこの、とんがり帽子は岩の小屋で、フォークとナイフがつまれ山になった所が森で、扇風機のプロペラが女の村で、宝石箱は勇者の城で、あの山脈のように横たわるウルスラ嬢とルーシー嬢は、凶暴な勇者が現れた北の山……」

「まったく、わかんねえな」
「だって私たちその人形劇を見てないもの」

さっそくボッチはゴミの山を漁って、人形を見繕って、見てきた人形劇を再演してみせる



3頁 地蔵のお婆、登場



フリードとサクラは三角坐りをして観ている

ボッチは両手に汚れた人形をもって演じる

『…17年の月日が経つ日、女たちは森に入って車座になって相談しました
そこへ魔女がやって来ました』

ボッチは魔女の人形を床に歩かせて
「どうしてこんなところに座っているのか」

ボッチがつかむ人形は魔女に事情を話す
『森の奥へ行くと、岩が崩れ落ちて小屋のように見えるところがある。そこへ入って行くとお助け道具が一式そろってるよ、楽器とか箱とか鍵とか壺とか色々なものがあるよ』と魔女人形は教えてくれました
『そんなガラクタばかりで魔王が倒せるわけがない』とボッチは人形を笑わせて『でも若い女は無駄でも森へいってみようと出かけていきました』

ボッチは人形をフォークとナイフが山になる森のなかを歩かせ
『森の中を歩いていると、岩が崩れた小屋がありました』
またボッチは岩の小屋を示す、とんがり帽子の前で人形を止まらせ
『こっそり中をのぞくと老婆がひとり座っていました』外から声をかけようとしたそのとき、丘の城の勇者がこの岩小屋をめがけ駆けてきたのが見えました』

その時、

「ひッ、きしュッ!!」

ガラガラガラガラ……

フォークとナイフが積まれた山が崩れた
崩れた山から角がねじれた古い箱が床に転がり落ちる

「ぎょッ!!」

3人は息をのむ

角がねじれた古井箱の蓋がひらき、なかからごろり、ひかり輝く錫杖をもった地蔵がでてきた

「ぎょぎょぎょッ!!」

3人は後退る
地蔵は、よっこら庄之助、といってむくりと起きあがった


「ぎゃっぎゃーーーーーーーーーッ△!!」
ボッチとフリードとサクラはさけぶ

「魔女だァ〜ッァ〜ァ〜〜ッ!!」
「和魔女だァ〜〜〜ァァ〜ッ!!」
「石像BBAだァ〜〜〜〜〜ッ!!」

蓋がひらいた箱の中から、おどろおどろしい呻めき、さけび、断末魔、阿鼻叫喚、それからさまざまな苦痛の声、一言でいえば不吉としか喩えようのない声が聞こえてくる……

「ひッ、きしュッ!!」
でてきた地蔵はくしゃみをして、それからティッシュで鼻をかんで
「わしは魔女でも和魔女でも…」
「…石像BBAでもない……」
「地蔵じゃッ!!」

ズコーッ!!

3人はズッコケる


ルーシーはベッドから起きてくる



4頁 パンドーラの箱


ベッドから起きてきたルーシーはツカツカとこちらに歩いてきて、ガシャガシャといろんなガラクタを蹴散らして、寝ぼけまなこでフリードの家の扉側の隅のゴミ山から、輪に無数につながる鍵をとって、無数にあるような多くの鍵のなかからジャラジャラと音を立て古びた鍵をえらんだ。それで床に転がり落ちて開いた箱の蓋に鍵をかけた

「あ、閉めよった……」
地蔵はいう

ルーシーはまぶたを手でこすってベッドに戻って横たわると寝息を立て始めた

「あ、寝よった………」
地蔵はいう

「で、アンタはいったいだれなんだい?」
3人はいう



第12話へつづく

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