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派遣王女☆ウルスラ / 第2話(6,679文字)


■第2話■


BADコンテスト(前編)


扉絵


1頁 円卓の準備


砂漠の軍事国家、グランディア城
宴を催す居館(パラス)の一室
壁際には、城の貴婦人らが刺繍した騎士道物語のタペストリーがさがる。床に敷物がひろげられ、その上に草花が撒き散らされる。敷物には香水がまかれ、食卓の下では侏儒の給仕が香を焚きはじめる。辺りは芳しい匂いで充満する

ウルスラは円卓の、陽が当たらぬ席に黙って座っていた。豪奢で煌びやかな世界に、ただ、息をのむばかりだ
昨日もまったく同じ豪華な宴席だった。一昨日も、先一昨日も、一週間前も、ウルスラがグランディア城にやってきて一ヶ月のあいだずっと毎日、豪華な宴会はつづいた。
今日はとくに客人が多いらしく宴会はナダル城にある最大のパラスで催される
円卓は丈が低く細長い長方形をしている。その傷ひとつない円卓は大聖堂のようなパラスの壁にすっぽりと収まって置かれてある。
ウルスラは鏡のようにつるつるする大理石のテーブルの一点を見つめて、一ヶ月、悩みつづけていた。
「この円卓どうやってパラスに入れたんだろう?」
巨大な一枚岩の大理石を削って作られたテーブルを触って
「やっぱ組み立てたのかな?」
「あっ!!」
「円卓をこの場所に置いてからこのパラスを建てたのか!!」
宴会のセッティングをする時間がかかりすぎて、暇をもてあますウルスラは一ヶ月かかってようやく、パレスにピッタリと置かれる超巨大円卓の真実を導きだした

国王のナダル王はテーブルの長い一辺の、神の子が磔にされたステンドグラスが飾られた窓側に座り、彼と彼の第二王妃の世界美女コンテスト二十年連続グランプリを誇るベンチュラを中心として、その左右に元女盗賊(トレジャー・ハンター)の第三王妃のカテリーナ、第四王妃で唐国の嶷の皇帝から贈られたユーラシアの妖女とよばれるヤン、世界皇女選別女学院から逆指名で派遣されてきた第五王妃ウルスラ、あどけない顔の少女の第六王妃ルーシーが座る

客人たちがパラスに入ってきた。グランディアの王族や騎士たちだ。覚えきれないほどの高貴な人々がパラスに入ってくる。円卓の縁に、まるで角砂糖に群がる蟻んこのように、ずらり千名は座っている…

椅子にはふかふかのクッションが敷かれていて座ると心地の良くて眠たくなった。舟を漕ぎ始めると、左に座るルーシーはウルスラの脇を小突く
「ありがと」
ウルスラはいうが、ルーシーは口を開かない。瞬きもしない硬い表情で食事の準備が終わるのを辛抱つよくまっていた。ルーシーはまだ五歳ほどの少女だった。先月まで奴隷だったと聞く
今日は客人たちがナダル城で最大のパラスに入りきらないようで、戸外にも食卓が並べてある

宮廷詩人は叙情豊かに歌いはじめる。すると、大物たちが現れ始めた。閣下と呼ばれる老将軍から枢軸卿、枢機卿、大公、公爵、子爵、伯爵、大司教や候や騎士たちは、それぞれ美しく愛らしい貴婦人を相伴させて、洒落た会話を交わしながら、二人一組で席に座った

ウルスラからもっとも離れた対角線に座る銀色の甲冑を付けた教皇直属の不死鳥騎士団長は胡麻つぶのように小さく、もはや肉眼では見えない。ウルスラは双眼鏡をだして、のぞいた

「ぎゃ、あんなところに、アリスとカフカが…」
「あんないちゃついて…ああもう悔しい!」

最後の騎士が席に着く
「全員、座りました」
給仕長は大声で手をあげる
すると給仕人たちがおごそかに入場する
給仕らは客人が手を洗うための水盤とタオル、広間を明るく照らす蝋燭をもってまわる
その次は楽師と歌手の一団が入ってくる。トランペットや竪琴などの旋律にのせて、美しい婦人たちの歌声が朗々とパラス内に響きわたる。献酌侍従(けんしゃくじじゅう)たちはぶどう酒の大壷を抱えて、客人の席と席のあいだをめぐる
最後に内膳正(ないぜんのかみ)が率いる行列が料理を山と運んでくる

ぐぅううう〜

ウルスラは料理を見て香りを嗅いで、お腹を鳴らした
千人の客人たちは、とくに貴婦人たちは口に扇子を充て、くすくすと笑う

豚の血と脂のソーセージ、うさぎのシチュー、肉かまぼこ、そら豆の濾し汁、牛と羊の大ぶり塩漬け肉、ジンギスカン、牛の脂および骨髄を刻み込んだ牛のパテ、去勢鶏、山うずらの焼き肉、辛子ソース入り鯉のスープ、鳩サブレ、米、うなぎの蒲焼き、仔牛肉、海水と淡水の焼魚、脂肪とパセリのパン入りスープ添え肥えた去勢鶏のパテ、ピーマンの肉詰め、うなぎパイ、豚の脂肉入りスープ、肉だんご、クレープ、砂糖、蜂蜜、プリン、花梨の実のサラダ、信州そば、煮梨、糖菓、卵ボーロ、肉桂入り甘葡萄酒が次々と給仕たちによって運ばれてくる

「すご〜い! 昨日とまったくちがう料理だ!!」
あまりの食の感動でウルスラの瞳のなかには四つのキラ星が光る
給仕たちはせっせと料理を運んでくる
「でもまだまだ時間がかかるわ」
あくびが出そうになってそれを隠すようにウルスラは天井を見あげる。豪奢な、ナダル王家の紋章が刻まれた銀製のシャンデリアが吊されている
背の高い副給仕長がやってきて、シャンデリアに蝋燭をさしこんでいく
壁には輪が取り付けられていて松明を灯せるようになっている。が、松明には火がついていなかった
「きっとパラス内で松明を焚くとパラス中が煤だらけになるからだわ!!」
また真実を言い当てたウルスラはテーブルを注意ぶかく見まわした。
テーブルに小さな燭台を置かれてあった


2頁 ボッチは給仕に


ボッチはというと
ウルスラとともにナダル城にやってきたが仕事が見つからなかった。執事試験には合格したが最終面接で落とされた
いまは料理人宿舎で寝泊まりする給仕人の日々だ

今日もボッチは台所で料理人たちとともに懸命に働く
大鍋ではスープがぐつぐつと煮え、見習いの少年は焼き串をそろえ、下女は野菜を洗って切る
ボッチはそうした調理場の大騒ぎを横目で見ながら、第二料理長がフライパンをふる真後ろのデシャップ台に立って、指示をふるうマーリンのようすをうかがっていた
「ほら、そこ、しっかりもって!!」
「カトラリーのならびに不備がないかチェックも忘れずによ!!」
マーリンは内膳正補だ。内膳正は宮廷の食料調達および宴席の給仕を執りおこなうエリート官職ですごくえらい。だからマーリンはすこしえらい
内膳正補のマーリンは若い女性でスタイル抜群だ。彼女は仕事にあまりに夢中で自分の女の魅力を忘れているようだ。だがよく見ると艶かしい豊満な女を感じさせる。彼女の給仕服はボッチも魔界テレビの情報番組でよく見たゴスロリ系のメイド服だった。
マーリンはおおぜいの給仕たちに指揮を下している。新人給仕たちはそろってパラスに椅子やそれにかぶせる刺繍カバーを運びこみにでかける

「前菜組、スープ組、肉料理組、デザート組は話をきけ!!」
「客人の趣味や嗜好は完璧に頭に入れておけ!!」
「きみはだれだ!?」
「新人のボッチといいます」
「きさまも働け!!」
「ひとつ、ご意見を述べても構いませんか? マーリンさま」
「あたしになにか文句あるんだったらいってみなさい!!」
ボッチは中世辞典をだして、咳をひとつして、読みあげる
「中世の晩餐などのカトラリーはみなで使いまわすのが基本」
「…」
「手づかみもマナー違反ではない」
「……」
「なぜなら円卓とは平等という騎士道精神に基づいてあるからだ」
「………よし、チミの名前は?」
「ボッチでございます」
といってメモ帳にひらがなで「ぼっち」と書いた
「まずは内膳正補マーリンさまの助役に任命する!!」
「ありがたき、幸せでございます」
「あなた、奴隷出身の私と違って口が良いな。元貴族からの凋落組か!?」
「(魔界からの脱出組…)いやま、そうでございます」
「あなたを新人妃の付き人に任ず。第五王妃は下品なのだ。教育係がサジを投げた。見てやってくれ」
「ぎょい」
そうやってボッチは出世階段を一歩ずつあがっていくのであった


3頁 BADコンテスト!!


宴も酣(たけなわ)
宴会の第一部では、男女の歌合戦、グランドイリュージョン、本物のエクスカリバー抜き大会が催された。
大トリで今世紀最後の剣豪と謳われる、ナダル軍参謀総長のドグマ2世が円卓に巨岩ごと突きささったエクスカリバーをにぎったときには会場でどよめきが走った。
「ドグマ殿がエクスカリバーをぬいたらどうなるんだ!?」
「ドグマ様が伝説の聖騎士だ」
パラス中にどよめく。玉座に座るナダル王は笑い額から汗は滝。ドグマがにぎるエクスカリバーを見つめる
「ふぬッ!!」
「ぐおおおおおおおおぉ〜!!」
「ぐへッ!!」
ドグマ、円卓の真ん中にぶっ倒れる
パチパチパチパチ
ナダル王は拍手を始めると列席した騎士たちを讃える大喝采になる
「おぉーッ!! 」
びくともしないエクスカリバーに一同は安堵
「ここでだれかにあの伝説の剣を抜かれたら」
「どうなるものかと思ったわ」
「オホホホ!!」
貴婦人たちは扇子を口に添えて笑う

カルマ
「みなさま、お静かにねがいます!!」
「ここでナダル王から重大な発表がございます」
会場はどよめく

ざわざわざわざわ

カルマ
「この度、世界皇女選別女学院からの逆指名を受けて、ナダル王はウルスラ・エクリプスをグランディア国の第五王妃に、同時期にナダル王の世界の奴隷からひとり王妃に迎える慈悲ぶかき慈善事業にて、イスカンダール紛争地の奴隷よりルーシー・キャメロットを第六王妃として迎えいれます」

カルマ
「ナダル王は、この慶事を、イベントにして皆に還元したいとのことです」
「キャッシュバックか!!」
「ポイント還元はもういらんぞ!!」
「イカサマビンゴ大会はもうやめろ!!」
老将軍や枢機卿からちゃちゃが入って会場は爆笑の渦
「第九八回ナダル杯を行います!!」
「して、ナダル王杯ではにをやる?」
老将軍は訊ねる
ナダル王は玉座から立ちあがる
すると楽屋裏で休んでいた吟遊詩人や楽隊や踊り子が登場して、円卓に乗る。阿波踊り、カーニバル、フラダンス、リンボーダンス、サンバ、ベローダンス、プロレス、泥レス、社交ダンス、パソドブレ、ワルツ、タンゴ、ブレイクダンス、ルンバ、ヒップホップ、ラテンダンス、バレエ、K POPダンスなどが、ドンチャカと始まった

マイクを片手にナダル王
「ベスト・アベック・ダンス・コンテストだ!!」
「おーッ!!」

カルマ、マイクを渡され
「略して第1回BADコンテスト!!」

「賞金はいくらだッ!?」
西の枢機卿と北の大司教が声をそろえてさけぶ

「賞金100兆ガルド!! 副賞で石油6億ガルドロン!!」
水を打ったようにパラスは静まった
「ぎゃッ!!」
「国際通貨に直すと…いまのレートだと…1200兆ダラー!!」

カルマは話をついだ
「さらに!」
パラスは沈黙する。カルマはパラスを舐めるように見渡し、言葉をつぐ
「わが国は先日、で非武装国家五カ年計画を宣言しました」
「廃棄予定の武器、車両、ミサイル、精鋭部隊、暗殺技術、他国との密約の内部文書、同盟、軍事機密の一部を無償で提供させていただきます」
「おーッ!!」
現在、戦闘中の領主たちや騎士たちは大いに喜んだ

ナダル王は片手で杯をあげた。ナダルの口元にマイクを差しさすカルマ
「今回は、第二王妃ベンチュラ、第三王妃カテリーナ、第四王妃ヤン、第五王妃ウルスラ、第六王妃のルーシーにも参加させますので立候補がいれば当人に申しでを」
ナダル王は不敵な笑みを浮かべいう
「ってことは、パートナーになれば必然的に賞金の半分は手にはいる!!」
騎士のひとりはさけぶ
「ワー!!」
「太っ腹だ!!」

ウルスラは口のまわりを食べ物だらけに汚し、食べるそばからボロボロとこぼす。ボッチはテーブルを床を絨毯を懸命に掃きそうじする
ナダル王はウルスラとルーシーの間やってきて片手ずつをもって二人を立たせる
「だれかパートナーはおらぬか!!」
「ワッー!!」
パラスは盛りあがる



4頁 スパイ・カテリーナ



夜。満月
第四王妃の間。サファイアパレス
黒電話の受話器を耳にあてる令嬢の影
「パパ!? 聞いてる!?」
「私にぴったりのダンスパートナ、送ってちょうだい!!」
「え!? それどころじゃない?」
電話線を、指に巻きつけくるくるする影
「こっちは目下、戦争に負けそうだ? 明日にも降伏?」
「パパなにいってんの!!」
「ナダル王の賞金の話、聞いたでしょ」
「1200兆ダラーとナダル国の兵器の五年分の無償供与よ!」
「ナダル国の機密情報はまだかっていわれても…」
受話器を両手でもち、注意ぶかく周りをみる
「この通話、盗聴されてないわよね」
「パパのグレナダ王国と…」
受話器をもつ影は涙をながす
「ナダル王国との三十年戦争もこれで終わりにできるのよ!!」
ピカッ
雷が落ちて、受話器を持つ影は部屋にふりむく
ぬッ!
ウルスラの顔がアップ
「ぎゃああああああッ〜!!」
カテリーナの目玉が飛びでる
両手でつかんだ電話器の角でガンガンと殴る
「ツー、ツー、ツー、ツー、ツー」
「切れちゃったじゃないのッ!!」
コンコン
扉はノックされ、ギィィィィィィと開く
「嬢、こんなところに! 探しましたぞ」
ボッチはカテリーナに深々と頭をさげ、寝巻き姿のウルスラの手を引いて去る
バタンッ!!
ドアを閉めるカテリーナ
「まさか聴かれてた!?」
「始末しないと!!」
カテリーナの顔のアップ


5頁 やあ、久しぶり!



BADコンテストまで、あと一週間

ナダル王の謁見の間
第1回BADコンテスト
ナダル王妃のダンスパートナーオーディション
および参加者選抜会場

背の高い王の謁見の間の扉が開かれる。
ボッチは三角旗を手にもって登場
「はい一次筆記試験に受かった方々はこちらですよー」
ぞろぞろぞろ
人界からは残虐なギロチン公爵を始め、爵位をもつ騎士、大司教とその刺客、天界からは怒り神、太陽神、天女、海神、聖霊界からはゴーレム、ドラゴン、スライム、キマイラ、トロール、クラーケン、カーバンクル、獣界からは獅子、鹿、クジラ、鳥界からは恐竜、物界からは石男、歩く本、足の折れたデスク、止まった砂時計、ねじれた階段、聖霊界からは水、火、光、闇、時間の精霊たち、餌界からは弱獣、植物、雑魚、結界からは井戸、風穴、滝、岩などがぞくぞくと試験会場に集まってきた。総勢三百人だ

ボッチは笛を鳴らす
ピィー!
「二次試験始まります。基礎体力測定〜」
ピッピッピッピッピッピッピッピッ

三百の参加者は、ボッチの笛に合わせて
屈伸、腕立て、スクワット、サイドステップ、ジャンプ、ケンケン走り、バック走から前向き、バック走、クロスステップ、かえるの足うち、カンガルー、うさぎ跳び、蜘蛛歩き、いぬ走り、倒立などをやる

手板をもつ審査員が□にレを入れて、肩を叩かれると、脱落だ。80名ほどに絞られた

「お昼休みでーす。お食事はパラスエメラルドの間で立食になります」
ボッチはマイクで案内する
「まずはこちらで食券をお求めください!」
マーリンはスピーカーでしゃべる

エメラルドの間

がやがや

審査員の豪華なテーブル
ベンチュラ
「わたしのパートナー、だれになるのかしら。ふふふ」
カテリーナ
「ベンチュラさまには最も優勝に近いダンサーになると思いますわ」
ベンチュラ
「ヤンは、希望はあるのかしら?」
ヤン
「我随便!随你的便吧!我想老家,想死了!」
「………」
ベンチュラ
「彼女はなにをいってるの? ボッチちゃん通訳!!」
ボッチは五ホン、と小さな咳をし
「不好意思,请再说一遍,慢慢说好不好?」
(申し訳ありません、もう一度ゆっくり言ってもらえませんか?)
ヤンは顔を真っ赤にさせ
「气死了你! 真讨厌! 我就是说我要去老家!」
(アンタムカつくわ!マジ嫌い!私は家に帰りたいって言っただけ!)
ボッチは笑顔になって
「ヤンさま若干怒っておられです。ひたすら田舎に帰りたいと」
ウルスラはヤンに訊く
「あんた、下の名前は?」
ヤン
「ヤン・グイ・フェイ!」
ボッチはメモ帳をだして鉛筆で紙に《楊貴妃》とかく
ウルスラは鼻をほじる
「へー」
カテリーナ額から玉の汗をかく
「さすがナダル王だわ…」
ベンチュラはチャーシューを口に入れ、唇を光らせ、ウィンクをする
「アンタが東洋の絶世の美女だったなんてネ♡」
カテリーナはお子様ランチに不器用に手をつけるルーシーを横目で見
「この小便臭い元奴隷少女は人前でおどれるのかしらオホホホ♪」
ウルスラの両肩に男の手が乗る
「おばさまたち、こんにちは、ごきげんはいかがですか?」
ルーシーとオムライスを奪い合っていたウルスラはふりむく
「ぎゃッ!!」

カフカ王子の登場
「おー、ウルスラ・エクリプス!! おひさ!」
アリスの登場
「あら、ウルスラ!! やだ懐かしい!!」
「ぎょぎょぎょッ!!」


第3話へつづく












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