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銃による決闘


12月の凍える朝、
冬の静けさが辺りを包む。
神秘的な森の奥深くで、
誰にも知られず男は眠っていた。

私の兄は死を選んだ、
薄汚い社会を捨てて。
人は平和な国だと言うが、
どこにだって目に見えない敵はいる。

 「精霊に祈りを捧げても雨は降らない」
 と嘆く村人を時代劇で見た。
 牛や馬は痩せこけ、家は朽ち果て、
 彼と家族は放浪の道を歩むのだった。

札束を身にまとった女優がライトを浴びて、
過去のロマンスを照れもせずに語る。
かたや私の母はやつれ、口数も少なくなり、
玄関では去年のゴキブリが死んでいた。


もしも私が銃を持っていたら、
悪党の不正を暴くだろうか?
それともゴロツキを何人か集め、
果てしない荒野で列車を襲うだろうか?

「英雄」とはいったい、
何を成し得た者を言うのか。
強さの中にも弱さがあるように、
誤りの中にも正解はあるだろう。

 ポール・ムニが銃を手に、あなたから、
 金や、縄張り、ワイフを奪っていく。
 どんな存在も運命にひれ伏すのだとしたら、
 努力とは愚か者のする行為なのだろうか?

思想家たちが勇気について議論しているが、
そこにいる誰もそれを持っていなかった。
猛々しい革命家の中には、
単に血に飢えているだけの輩もいる。

3
あらゆるものが凍りつき、
冬の寒さが一層厳しさを増してゆく。
画家の筆には霜が降り、
詩人の凍える舌は言葉を落としてしまう。

私たちの家は競売にかけられ、
落札者たちが私たちの酸素まで奪ってゆく。
私の父はか細い声で演説する、
「老いた者が住める国などどこにもない」と。

 兄の亡霊が私に言い残したのは、
 ただ「笑え」の一言。
 待ち望んだ再会があっけなく終わると、
 私はしばらくの間、呆然としていた。

凍える真冬の夜を経験すると、
春が訪れることすら忘れてしまう。
しかしこの星は何度でも春を体験するのだ、
核爆弾で滅んだりしない限りね。


銃声か、はたまた雷鳴か、
とにかく雨が氷を溶かしてゆく。
天気のように気まぐれな運命が、
私たちに犠牲の代償を支払った。

悲しげな兄の遺影の前に、
銀行が大金を置いて帰っていった。
涙を流して喜んだ私たち家族は、
なんだか少しおかしな気持ちになった。

 イーストウッドの『グラントリノ』の、
 ラストシーンを私は思い浮かべていた。
 あの映画は舞台を近所に移した、
 古典的な西部劇だったのだと気づいた。

兄の死をみんなは、
自殺か何かのように言うけど、
私にはこう思えるんだ、
彼は銃による決闘で死んだのだと。

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