人間のイメージ
「人間には、教会にないものがある」
ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ
君をイメージするーー
たとえば、
大きな池の底で息を潜めている、
ダイヤモンドの甲羅の亀を。
運命が、釣り針の先の小魚(の鱗か、目)を、
暗闇の中で輝かせ、池から、
その亀を、大空へと釣り上げる。
空の彼方には木星、
飛翔体には来訪者、
月と太陽、
そして(死神の)手には銃。
古いものを新しく、
赤いものを青く、
変わらぬものさえ幻想に変えるーー
君は、陽気な革命、
オーシャンビューの革命。
もっと、君をイメージしてみるーー
たとえば、
空気の重みにより、
椅子に縛りつけられ、
ホテルから出られないでいるパラノイアを。
そこには窓もなく、
法律もなく、
テレビはどのチャンネルも同じことを言う、
「では、次のニュースですーー」
夕食のテーブルにはワイン、
詩には脚韻、
マリアッチバンドの歌と、
ドナルド・トランプの不正。
怒り狂ったカスタマーたちが、
ハンマーを振り上げ、
「破壊しろ」と騒いでいるーー
君は、優雅な革命、
スイートルームの革命。
もっと、もっと、君をイメージしてみようーー
たとえば、
奇妙さを感じさせる夜ーー
水夫はオレンジをかじり、
その香りが人魚の目を覚ました。
月をシャーベットにし、
ベッドにスプーンを隠し、
主人はメイドとの淫らな夢を見る。
恋は語らい、
愛は道のり、
ダンスとロマンス、
偶然の一致。
姿のない妻を、
一生かけて探しても、
その所在はつかめないーー
君は、素敵な革命、
フレッド・アステアと、
ジンジャー・ロジャースの革命。
あるいは、
おもちゃの兵隊ーー
それは歓びの歌を得意げに歌い、
ブリキの将軍はクラリネットを吹く。
首をなくした男は、
死を宣告されたが、
それでもアルファベットを探し続けていた。
その腕には傷跡、
ジョージ・ハリスンのシタール、
ミサイルの閃光、
マリファナの煙。
花を集め、
塔を飾り、
マリー・アントワネットが処刑を待っているーー
君は、悲劇の革命、
コンコルド広場の革命。
もしくは、
泥棒とスカンクーー
2人は、車の中で酔い潰れ、
ビーチには辿り着けなかった。
スカンクは「フェアじゃない」と言ったが、
泥棒は気にしなかった、
彼の頭は甘いピーチのことだけ。
勝利とは文芸作品、
敗北とはハゲタカで、
夢とは、つまり空虚な物語、そして、
未来とは、死への恐怖にほかならない。
つむじ風が、
罪を覆い隠し、
公共機関は今、休暇で忙しいーー
君は、汚れた革命、
議員会館(のトイレ)の革命。
たとえばーー
思考の森の中で、
ビジネスマンはコートを脱ぎ、
自分の使命を血眼で探す。
宙吊りの街には、
ひとつの椅子もなく、
欲望のスコールに濡れていた。
歴史が時間で、
国が境界線なら、
靴紐は、こんがらがるエコノミー、投資家を
転倒させる、エコロジーという競争で。
電車を逃し、
雨に濡れ、
スマートフォンでも情報が得られないーー
君は、うら若い革命、
グレタ・トゥーンベリの革命。
さぁ、君をイメージしようーー
たとえば、そう、
オーティス・レディングをーー
彼は結婚式で歌い、
恋人たちの誓いをダイナマイトにする。
鳥が空を飛び、
赤ん坊が泣くように、
嫉妬は、重ねるごとに嫉妬深くなる。
慈悲は孤独、
厳しさという優しさ、
理性的な情熱が嘆く、
「受容とは、どこか議論めいている」と。
明かされた秘密とは、
崩された防壁。
愛に決まりも境遇も重要じゃないーー
君は、乾いた革命、
テネシー州メンフィスの革命。
たとえばーー
誰のためでもない台詞が、
夜明けまで生き、
ため息のように消えてゆく。
詐欺のための文句は、
王の前で偽証する、
満足することのない詩作の中で。
言葉は欲望、
言葉は炎、
言葉は悪行、
言葉は氷。
想像力が死に、
指先が嘘をつく、
今に「知能」は、感情までも奪うだろう
(ああ、プログラムというプロブレム)ーー
君は、クラシカルな革命、
カサブランカの、いや、
イングリット・バーグマンの革命。
したがってーー
君の目を惑わす霧が晴れ、
死の間際、「革命」たる君は知る、
「秩序」こそが、自由への行進だったのだと
(そう。「汝、疑うことなかれ」だ)。
やがて命は、
重力を無視して旅をする、
大きな池の底から釣り上げられて、
亀は、ダイヤモンドの甲羅を、
君は、自分の「名前」を忘れるーー
はてさて、
君の名前とは、
マンキーウィッチだったか、
ボグダノヴィッチだったか、
マーロン・ブランドだったか、
マイケル・マンだったか、
Instagramだったか、
チューインガムだったか、
「ダブ」みたいな石鹸だったか、
「サマー・オブ・ラブ」だったか、
ペニシリンか、
アスピリン、
「ミスター・ドーナッツ」、
ミネソタ・ファッツだったか、
まさか、マリリン・モンローや、
ウォルター・マッソーなんかじゃあるまい、
それともジェームス・ディーンか、
クイーンのアルバムのタイトルみたいだったか、
ボーリングの上手いビリーなんとかだったか、
それとも、
『ロンドン・コーリング』の中のジミーなんとか、
いや、カニエ・ウエスト、
「ドラゴンクエスト」だったっけ、
アトミック・ボムや、
「カントリーマアム」だったかな、
「ドント・シンク・トワイス」や
「タンブリング・ダイス」だったかもーー
いや、きっと、
君は、ずっと革命、
夏の終わりの革命。これらがーー
人間のイメージ。
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