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好きなものは好きな時に好きと言っておこう


今日も今日とて好きなものと共に暮らしている私は、最近ドラマを観ることにハマっている。

昔の自分だったら絶対に観ないであろう話の筋書きにもどかしい思いをしては身悶え「そっちかーい!言わないんかーい!」と何度もテレビに突っ込んでいる。すれ違いのラブコメもので、主人公のヒーローがなんともうじうじしている。ヒロインもところどころずれている。2人とも合理的に考えられるのに、肝心の目を合わせて話すのを忘れて何も言わなかったりする。あー!私がそこにいたらびっくりする話数で抑えられるのにな?!話数を追うたび「私がここにいたらもう○話目で終了してた…」と机に突っ伏して言ってる気がする。お節介おばさん爆誕である。

話を戻す。今は好きなものを観ながら、あー好き!たまらない!と臆面もなく言える自分になれて良かったと思っている。


その昔、今と同じように好きなものを好きと言っていたらやれおかしいだ、変だと言われることが多かった。父の影響で知った歌謡曲を口ずさめば「何その曲」だとか。好きな漫画を真似て描いていれば「何その変なの」とか。自分を特別だと思ったことなどないが、好きなものの領域が広かったおかげでなんでも覚えられてよかったと思う反面、ちょっと面倒でもあった。とりわけ幼い頃は学校や地域が子供の社会だ。その時の流行や周りの雰囲気から外れたことを言う私に対して、その子がなんの気なしに言った一言だったというのも十二分にわかる。わかるが、

好きなものを好きと言うには、とても勇気がいることなんだと思った。

きかん坊で気の強い私の中は、存外繊細だった。



初めて買ったCDは、というタグを見つけて書かないわけにはいかないと思って筆をとっている。

少しどころかだいぶミーハーだった私は、自分の世代ではなく少し年代が上の音楽を聴いてみたりと色々模索していた。もっぱら友達の家のお兄さんお姉さんがかけていたものをその子の家に行っている間聞かせてもらったりだとか、あるいは父の仕事仲間に教えてもらうだとか、その程度だったが。

ある日。小学校の宿題も片付けて寝る時間になった頃のこと。お風呂も済ませて、早く寝ろーと言われていた私はこっそりテレビをつけて観ていた。なんとなく観ていた番組の合間、15秒程度の短い時間。とあるバンドの1stシングルが発売されるようで、そのCMが流れていた。

衝撃的だった。

知らないことを知れて嬉しいのと、自分がこんなに好きになれるものがあるなんて思ってもみなかった。音楽をさらに深くきっかけになったのは間違いない。

これが私とポルノグラフィティの出会いである。

ただ、小学生だった私にはお小遣い制度などまだなかった。お手伝いでもらえる額は基本的にすぐなくなってしまっていたし、CDやデッキ、プレイヤーなども持っていなかった。すごく好きだったが、新聞のテレビ番組欄を見ては頑張ってテレビの前に正座して観れたらラッキー程度だったのを覚えている。その生活がしばらく続いて、やがて誕生日の時になってCDプレイヤーを買ってもらった。喜びすぎてタンスの角に小指ぶつけて悶絶したのはいい思い出だ。日常のお小遣いを貯めていた私は、喜び勇んで自転車をこいでいき隣町のCDショップで発売したばかりの「愛が呼ぶほうへ」を購入したのだった。擦り切れるまで聞いた大好きなCD、ケースが半壊してもいまだに大切にしている。


https://youtu.be/Gs-GHYKJA9w



中学生になって、まわりがアイドルにハマったりしていった。もちろんアイドルソングも大好きだったから周りの流行から外れることもなかったし、実際好きなグループもいたから話してて楽しかった。ただ、本当に心から大好きなものひとつだけは周りに言い出せずにいた。幼い時に言われた「変なのばっか好きになるね」がとれにくい魚の小骨のように心に刺さったまま抜けていない。

そんな中でももっと気さくな子がいた。
吹奏楽部の子だった。いろんな曲を開拓している最中だそうで、音楽好きだって話を私に振ってくれたときがあった。教室でたった2人きりだったし、なんとなく、口にぽろっと出してみた。

「私、ポルノが好きでさ」

返事が聞くのが怖いことを、気の緩みで一瞬忘れていた。

あー!格好いいよね!CD持ってるの?

びっくりして顔を見たまま狼狽えたのを覚えている。どうしてこんなに簡単に紐解かれてしまったんだろう、好きなものを好きというのが怖くてたまらなかったのに。

「あるよ、今度貸すね」

答えを探すより早く、返事をした。


後日。友人にそのCDを手渡した。ちょっと緊張をしたのを覚えているけれど、友人はとても嬉しそうに笑って受け取ってくれた。その数年後、その友人が人生で初めてのライブへ連れて行ってくれることなど誰が予想できただろうか。

「どうしても青井に見せたかった」

私に新しい音楽を教えてくれたの、青井だったから、と。

ステージに近い席で、照明が会場を滑る中潤んだ瞳で一生懸命ステージを見ていた友人の横顔が忘れない。好きなものを好きと言うことに勇気など要らないと教えてくれた友人と私を繋ぐ、人生で初めて買ったシングルの思い出である。



「好きなものを好きと言うことに勇気がいるのかもしれないけど、自分自身が好きならいいじゃん!え!え!言わないんかーい!」

冒頭のドラマを観ながら私が言っていたことだ。
だから私は「好き」を伝えるようにしているし人の好きなものの話を楽しく聴ける自分のことは割と好きだ。友人や恋人(今はいないけど)たちが好きなものを好きと言える世界でありますように。今日も私は好きな音楽と好きなものに囲まれて暮らしている。

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