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小説感想『カケラ』湊かなえ(読了:2023/8/23)


作品紹介

湊かなえの『カケラ』は2020年に集英社より出版された作品。文庫版は2023年に出版されいる。

最寄りの書店で平積みされておりなんとなく購入してまま積読していた。文庫版の表紙が印象的なのと、紹介に書かれていた「大量のドーナツに囲まれて自殺した田舎町の少女」という文が中々強烈。

以下はあらすじの引用。

美容外科医の橘久乃は幼馴染みの志保から「痩せたい」という相談を受ける。カウンセリング中に出てきたのは、太っていた同級生・横網八重子の思い出と、その娘の有羽が自殺したという情報だった。少女の死をめぐり、食い違う人びとの証言と、見え隠れする自己正当化の声。有羽を追いつめたものは果たしていったい——。周囲の目と自意識によって作られる評価の恐ろしさを描くミステリー長編。

引用:集英社HP

作品のポイント(ネタバレなし)

美容外科医の久乃が、患者へのカウンセリングや自身の同級生へのインタビューをする形式で物語は進む。話の内容はかつての同級生である横網八重子のこと、そして八重子の娘である有羽が自殺したということについて。

第一章~第七章で、それぞれ異なる人物が久乃に対し、自身が知っている情報や思いの丈を語る構成になっている。

作品全体を通して「容姿」や「価値観」がキーワードになるが、様々な人物が主観で語る構成のため、当然それぞれの主観に偏った内容になる。

聞き手(久野)と読者は、各登場人物の偏った話を聞きながら、何が真実なのかを突き止めていく……というのが本作のポイント(楽しみ方)になる。

感想(ネタバレあり)

構成としては面白い。徐々に真実が明らかになっていく点や、この人物の話は偏った意見だったんだなと後に分かる点など。

ただ、人物の台詞ベースでひたすら進む構成のため、全体的に間延びしている感は否めない。端的に要点だけ述べるようにすると台詞上違和感が出るし、台詞上でしかキャラクターの表現ができないため、ダラダラと語らせることになるのは構成上仕方がない。

久乃の主観はプロローグとエピローグを除き一切ない。「久乃の視点が書かれないが、有羽の死にどう絡んでいるのか?」という観点で読み進めた結果、有羽の手術をしたというだけでガクっとなった。同じような観点で読み進めた人は多い気がする。冒頭に数行挟むだけでも払拭できるのにあえて書いてないということは、なんらかの意図があるのかもしれないけど、モヤッたポイント。

あと、なんとなくスッキリせずレビューを漁ってみたところ、柴山先生を責めるレビューが多い。こんだけ露骨にヒールとして書かれてればそりゃそうか。

ただ、八重子は千佳を裏切ったことへの悔悟から、若干歪な形で有羽を愛している。一方、有羽の愛情の受け取り方も、千佳や萌(千佳の妹)、恵一(千佳の夫)との関係性の拗れから、歪んでいると言うか八重子を正当化することに固執している。柴山先生の偏屈さが目立つけど、他の人物もたいがいだよな、という感想。


おわりに

構成としては面白い。台詞ベースで進む点はかなり神経を逆撫でされるため、好みは分かれそう。

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