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小説感想『死刑にいたる病』櫛木理宇(読了:2022/8/11)


作品紹介

櫛木理宇の『死刑にいたる病』は2015年に早川書房より出版された作品。元々は『チェインドッグ』というタイトルの作品で、2017年に文庫版が出版された際に改題されている。

櫛木理宇の『ホーンテッド・キャンパス』は何度か書店で表紙だけ見かけていた。また、ドラマがそろそろ始まる『鵜頭川村事件』は文春オンラインで掲載されている漫画で読んでいる。名前も作品も知ってはいたものの、タイミングが合わず作品を読んだことはない作家だったが、『死刑にいたる病』の映画宣伝用カバーで表紙を飾る阿部サダヲと目が合い購入

ネタバレは避けるけど、ある程度内容には触れているので注意。

以下はあらすじの引用。

鬱屈した日々を送る大学生、筧井雅也(かけいまさや)に届いた一通の手紙。それは稀代の連続殺人鬼・榛村大和(はいむらやまと)からのものだった。「罪は認めるが、最後の一件だけは冤罪だ。それを証明してくれないか?」地域で人気のあるパン屋の元店主にして、自分のよき理解者であった大和に頼まれ、事件の再調査を始めた雅也。その人生に潜む負の連鎖を知るうち、雅也はなぜか大和に魅せられていき……一つ一つの選択が明らかにしていく残酷な真実とは。

引用:ハヤカワ・オンライン

物語の進み方

殺人鬼である榛村の過去知る人物を主人公が訪ねて周り、彼の生い立ちやエピソードの聞き込みを行う形で物語が進む。凶悪犯であることは確かであるものの、榛村の印象は人それぞれで大きく異なっており、主人公は榛村の人物像をいまいち掴めない。

没入感を高める演出が上手く、主人公と同様に読者も榛村の印象に困惑しながら読み進めることになる。主人公の内面が少しずつ変わっていく様子が本作のポイントだが、この演出にハマれないまま俯瞰的な視点で読み進めると、あまり楽しめないかもしれない。

作中での主な謎は以下の3つ。

  1. 最後の一件は冤罪だという榛村の主張は真実なのか

  2. 真実の場合、真犯人は誰なのか

  3. 毎章末の場面転換は誰視点で、何のための描写なのか

作品の魅力

主人公も読者も、榛村という怪物に揺さぶられまくる点が面白い。この魅力を考慮すると、主人公が小説や映画でありがちな妙に頭の切れる人物ではなく、飛び抜けた才能もない捻くれた学生という役柄が光る

特別な推理力を持っているわけでもないので、当然真相には中々たどり着かないし、頼れるのはネットの情報や書籍だけ。更に聞き込み先からは四方八方に発散する榛村の印象がインプットされて情報過多に。そんな状態でも主人公はなんとか自身で考察を重ねるが、基本は榛村の手のひらの上だ。

サイコパスキャラの表現は残忍性や共感性の欠如、二面性などが描かれがちだが、本作では徹底的に他者を揺さぶりコントロールすることへの異常な執着にスポットが当てられている。その揺さぶりを読者にまで侵食させる巧みさが素晴らしく、没個性で影響を受けやすい主人公が大役を果たしている。

多かったレビュー

自分も榛村に揺さぶられたという感想が多い。そういう作りになっているから当然ではあるが、読者を引き込めないと中々出てこない感想。

もう一つ多かったのは、最後の展開で驚いた、やられたという感想。本作は二段オチの構成になっているが、たしかに驚きはした。驚きはしたものの、あくまで主軸としては一段目のオチで、個人的には二段目は正直あってもなくても良かった。衝撃を重ねた方が一段目が際立つから入れた要素なのかなとも感じた。


おわりに

阿部サダヲの眼力とタイトルに釣られて購入したが楽しめた。『死刑にいたる病』は某作品を思わせて中々に吸引力のあるタイトルだけど、読み終えた後だと改題前の『チェインドッグ』の方が合っている気がする。榛村という鎖に繋がれている主人公はもちろんだけど、異常なまでの執着心に囚われている榛村も、鎖に繋がれた犬だと皮肉ってるのかな…。

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