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小説感想『予言の島』澤村伊智(読了:2022/8/21)


作品紹介

澤村伊智の『予言の島』は2019年にKADOKAWAより出版された作品。文庫版は2021年に出版されいる。”再読率200%”"初読はミステリ、二度目はホラー。"といったキャッチコピーに釣られて購入。派手なキャッチコピーは苦手けど、内容とドンピシャだった場合の爽快感も捨てられない…。

ネタバレは避けるが、ある程度内容には触れているので注意。

以下はあらすじの引用。

瀬戸内海の霧久井島は、かつて一世を風靡した霊能者・宇津木幽子が最後の予言を残した場所。二十年後《霊魂六つが冥府へ堕つる》という――。
天宮淳は、幼馴染たちと興味本位で島を訪れるが、旅館は「ヒキタの怨霊が下りてくる」という意味不明な理由でキャンセルされていた。そして翌朝、滞在客の一人が遺体で見つかる。しかしこれは、悲劇の序章に過ぎなかった……。

引用:KADOKAWAオフィシャルサイト

ミステリとして

「霊能者が予言を残したとある島」「主人公一行が出くわす特徴的な面々」「余所者にやたらと冷たい島民」「節々で出てくる土俗的なワード」とサービス精神旺盛な舞台装置の数々。ミステリとしての物語は、これらの要素を軸として進む。

一般的なミステリのように、話が進むに連れて徐々に謎が明らかになっていくわけだが、物語上の謎は早い段階で読めてしまう人が多いと思う。とは言え、本作のメイン要素は作品全体の構成であり、前述のオーソドックなミステリ要素はあくまで物語を進める上での舞台装置だ。

最後の展開だけに期待する読み方をすると、物語上の謎や展開はあくまでサブ要素という位置づけになってしまう。が、そのような読み方をしても道中で楽しませてくれるのは流石。一発一発は若干弱いものの一定の間隔で山場があり、パニックホラー的な感覚でサクサクと読み進められた

一番好きなシーンは警官の家にクロムシがビシっと置かれている描写。この描写はミステリ上の伏線でもあるけど、異様な雰囲気の描き方は澤村伊智のホラー作家としての表現力が滲み出ていて印象に残っている

キャッチコピーについて

読み進める中で、結局この作品はミステリなのか?ホラーなのか?と、どの方向に話が進むのか期待と不安が入り交じる状態で読み進めた。結果としては"初読はミステリ、二度目はホラー。"というキャッチコピーはその通り。理想としては読み進める中でキャッチコピーを忘れて、読み終えたあとに思い出して「なるほど~~!」となるのがベストなのでは

一般的なホラー作品だと不気味な描写やドロッとした雰囲気、作品によっては人間の汚さなどがポイントとなるが、本作はミステリとしてのオチをトリガーとして作品全体がホラーに変化する構成。どのような表現が適しているのかイマイチ分からないが、立体的なホラーとして楽しめた。

多かったレビュー

構成に縛られており全体的に文章が読み難いというレビューが目立った。たしかに読んでいて引っかかることが多く、何度か読み返す箇所があった。登場人物の意味深な発言に引っかかるなどではなく、シンプルに日本語が頭に入ってこないような箇所だ。

この引っ掛かりに関しては、最後まで読むと違和感の正体が分かるため、これを「読者にも届く違和感のある文章(意味が分かると怖い話的な)」と捉えるか「構成に引っ張られ過ぎた無理のある文章」と捉えるかで評価は分かれると思う。私は前者だったので特に不満はない。

もう一つ多かったのは周りの人物の立ち振る舞いについて。要はオチのネタに対して登場人物の言動がおかしいだろうという指摘だ。これは正直一理あるが、構成上の前提として納得するしかないと思う。登場人物がトリックの都合で違和感のある言動を取るパターンは個人的に苦手なので、レビューした人の気持ちは理解できる。

インタビュー記事を読む

読了後に作者のインタビュー記事を読んだ。『獄門島』へのオマージュと言えるものを書きたかったトリックは決まっていたが表現に苦労したなどの話が語られていている。また、作中では「呪い」というものについていくつかの視点で描かれているが、呪いというある種の縛りに対する作者の考えも興味深い。作品を読み終えた人は是非読んでみて欲しい。

本筋からは逸れるが、登場人物の一人である江原数美の外見のイメージは漫画家の東村アキコの自画像らしい。私も全く同じ姿を思い浮かべながら読み進めていたので驚いた。お団子ヘア的な描写があったからかも。


おわりに

キャッチコピーが派手な作品はあまり期待しないで読むようにしているが、見事にキャッチコピーの通りで楽しめた。澤村伊智の作品をいくつか読んでいる人ほど、結局どこに着地するんだ…と期待と不安が入り交じりながら読み進められるのではないかと思う。

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