小説感想『冷たい檻』伊岡瞬(読了:2023/4/19)
作品紹介
伊岡瞬の『冷たい檻』は2020年に中央公論新社より出版された作品。伊岡瞬は『代償』や『悪寒』あたりが代表作っぽい。最寄りの書店の一角で『乙霧村の七人』を見かけて名前は知っていたけど、なんとなくそちらはスルーして本作を手にした。
"この村では何かが起きている。残念ながら、それが何かはまだ分からない。しかし、偶発の事故じゃない。あれもこれも繋がっている気がする。人を殺すことをなんとも思ってないか、あるいは、商売にしている人間がいるかもしれない"という帯に書かれた本文引用に引かれて購入。
以下はあらすじの引用。
物語の進み方
舞台は北陸地方のとある村。あらすじにもあるように、失踪した警官の捜査を主人公の樋口とバディの島崎が行うかたちで物語は進む。
大まかなパート(視点)は「警察(主人公ら)パート」「医療・養護施設パート」「更生施設パート」の3つに分かれる。数ページだけの視点もあるので実際はより詳細に分類される。各パートの中で複数の人物が登場し、巻頭の登場人物紹介に出てくる名前は30名弱とかなり多い。
複数視点+多数の登場人物という要素で読みにくそうに感じるが、各人物の言動を事細かに覚えとかないと楽しめないような作品ではないので、特にネックにはならない。自分も、3人組が出てきたら各キャラの名前は意識せず、適当に映像化しながら読んでいた。
面白いポイント
各パートでそれぞれ気になる謎が散りばめられている。「主人公のバックグラウンド」「医療・養護施設で過去に起きた事件」「更生施設の少年らの間で流行っている謎の信仰」など。
作品の体を成すために当然だけど、これらがどう絡み合っていくのか…という点がポイントになる。特に「更生施設パート」は他の2パートがリアルな描写であるのに対してどこか非現実的な描写が多い。この施設ってそもそも何?という点が興味を惹かれるポイントになると思う。
多かったレビュー
場面展開が多いという感想が目立つ。合わない人には厳しいだろうけど、場面展開もキャラクターも多いのに読みやすい!という感想の方が多い印象。個人的にも同意で、視点の切り替わりが苦にならず、細切れになっていることでむしろテンポよく読める。
感想(ネタバレなし)
それなりのページ数、多数の登場人物にも関わらずスラスラと読むことができた。警察小説ではあるものの、主人公が外部の人間ということもありガチガチではなく、初めて警察小説を読む人にもおすすめ。
あとは主人公の樋口が良いキャラをしてる。女性キャラが樋口の顔立ちに惹かれている描写があるからというのもあるが、内面的にもシブくて良い。バディとのやり取りも良い。クールで頭が回って情にも厚くてツラも良いシブイ中年とか強すぎる…。
感想(ネタバレあり)
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インタビューを読んだ。新聞(電子版)での連載だったので、実際の事件を参考にしているわけではないもの社会性を持たせた内容にしたかったらしい。
https://www.zakzak.co.jp/article/20181118-YQXZZ7E7LNPXFM5PLJEB54XDKY/
政治家パートは正直蛇足だと思ってたが、なるほどな~という印象。色々書きたかったのは分かるが、物語上浮いていて気になったポイントなので腑に落ちた。下品なローカルフィクサーとかいてもいなくてもという感じだけど、書きたかったのだろう。
「アル=ゴル神」の正体は薬でハイになった少年たちというオチは中々ぶっ飛んでると感じたが、着地点としては妥当か。小学生がそこまでするかという感想はあるけど、最近の子供は何をするか分からないという老○的な視点で見ればありか。施設に来ていることもあり、生い立ち的に少し歪んでしまっている子がいると考えれば良いのかな。
あとは、アルツハイマー+製薬会社の人体実験ってメジャーな設定なんだろうか。キムタクが主演の某ゲームで同じような設定があったけど、陰謀論界隈では定番ネタだったりするのかな…。
プロローグで誘拐された子供とエピローグで再開して終わり!というのはスッキリとエンタメしてて良い。ご都合主義だなんだという感想もあるだろうけど、物語ってそういうもんだし。
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おわりに
久しぶりに警察小説を読んだけど、娯楽として優秀なジャンルだなと改めて感じた。刑事ドラマが多い理由が分かる。一時期逢坂剛、堂場瞬一、今野敏、横山秀夫あたりを読み漁ってたけど、久しぶりにまた読んでみようかな。