それは、私が今まで見た中で、いちばん美しい、本当に美しい景色でした。

そこはスキー場でした。

本当はそんな高いところにはもうないというところにまで、ゴンドラは続いていて、私たちはそれを乗り継いでいました。

そのとき私と一緒にいたのは、あなたでした。

とても高い、いちばん高いようなところで、私たちはゴンドラから降りました。

人はまばらにいたような感じがしましたが、姿や声は特にありませんでした。

それなので、ほんの少し滑り始めたら、すぐに二人の他には誰もいなくなりました。

高いところから滑っているはずなのに、なだらかで、怖くなくて、私でも安心して滑ることができました。

ゆっくりだけど、滑って滑って、気持ちよく滑って、とても遠くまで来ました。

ふと、≪こんなに遠くまで来ちゃって、大丈夫かな≫と心配になりかけたとき、あなたが目の前で止まって、そこにまたゴンドラが現れました。

あなたのお顔を見たら不安は消えました。

≪ここがいちばん遠くで、これ以上遠くに行くことはないんだな≫そう思ったからです。

また二人でゴンドラに乗りました。

晴れていて、陽の光できらきらと、真っ白い世界が、ほんとうに、とても綺麗に光っていました。でも、眩しすぎることもありませんでした。声をなくすほどの美しさに、二人でうっとりしました。

こんな綺麗な場所がこの世界にあったんだねと、私たちは言葉や笑顔を交わしました。音はなかったけれど、あなたの声や私の声が、たしかにそこにあったように思います。

私たちは、そこでいくつかの大切なことを話すこともできました。

その美しい世界の不思議だったのは、

ただただ真っ白に覆われた雪の世界だったのに、そこにはこの世界のすべての色が散りばめられているように、あらゆる光がちらちら、きらきらと耀いて、とても美しく調和していました。

それから、そのかけがえのないひとときに、私たちはお互いに、タイムリミットがあるのを知っていました。しかしそれでも、焦ったり、切なくなったり、「終わりが来ませんように」と祈ったり……そういうことはありませんでした。終わりがあるということを、私たちはただ知っていて、深く享受していました。そしてその静かな覚悟のなかで、その時間を慈しみあいました。

それなので、最後のゴンドラから降りて下に向かって滑っていくときも、私たちはとても穏やかでした。

そしてそのままふもとに近づいていったとき、私は布団の中で目を覚ましました。

とても静かな、満ち足りた気持ちでした。あまりにも美しくて、この上ない幸せな気持ちだったので、≪ああ、夢だったのか≫と、残念な気持ちになりかけました。でもすぐに、≪夢だったけど、夢じゃない≫そう思いました。

あの美しい世界は、今もほんとうにあるでしょう。

でも、どこにあるとも言えません。

わかるのは、もしまたあの場所に行けるとしても、誰かほかの人とは行くことができない、ということです。一人でも、行くことはできません。

あの場所は、あなたとしか行けない場所だったのです。

私は、これまでの人生で見たなかで、いちばん美しい、本当に美しいあの景色を、見せてくれたのがあなただったということが、とても素敵で、うれしくて、感謝だな、と思いました。

≪巡り逢えたことが、奇跡だったんだ≫そう思いました。

あの世界は、二人きりで、誰にも邪魔されることのない世界でした。

それでいて、この世界のありとあらゆるいのちのようなものの気配を包み持っていました。

私たちは、それらにおびやかされるのではなくて、それらのためにこそ、二人きりで過ごす時間を持ったのです。

もしも願いが叶うなら、私はもう一度、あの美しい景色をこの目で見たいです。

できれば今度は夢ではなく、現実にあなたと見たいです。

でも、遠い遠いお空の下で、あなたもおなじような夢を見たかもしれないって思って、そうだったらいいなって思って、

そうしたら、それだけで満足なのも、ほんとうです。

2017年11月に見た夢のこと。

Be with you

小絵

#一度は行きたいあの場所

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