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夢の途中


 深い深い眠りについていたと思ったのに、目が覚めてしまった。

 何かの拍子になのか、よくわからない。夢を見ていたとも思えない。突然自分の意識が目覚めたように、はっと起きたのだ。こういう時金縛りにあっていたりとか、何か見えざるものが見えるとか、そういうことが起こるというけれど、体は普通に動くし部屋は真っ暗なだけだ。壁掛け時計が針を動かす音だけが、部屋に響いている。
 
 枕元のスマホを見ると、夜中の3時だった。まだ眠っていてもいい時間。いや、眠っていたい時間。

 ふと寝返りをうとうとすると、自分自身がトイレに行きたいことに気がついた。ああきっと尿意を催していたんだ。私はそう思うと素直に起き上がりトイレに向かった。眠さも少しはあったが、このまま寝ると大変なことになるから行っておこうと思ったのだ。

 トイレから出て、またベッドに潜り込む。これで寝れる。そう思っても、なぜか眠れない。目を閉じて、寝返りを打ってみても、なかなか自分の意識が眠りへと行かない。

 トイレの電気で目が冴えたのかな。そう思った時だった。ふと最近の仕事の失敗を思い出す。上司に提出した書類に入力ミスがあり、「もっとチェックしなさい」と指摘を受けた。ずっと机にしまっていた書類に実は締め切りがあり、しかもそれを過ぎてしまった。請求の漏れ。コーヒーをこぼす。その他諸々……。最近なぜかこう言うミスが多い。どうしてなんだろう。元々雑な人間なのはわかっていたから、いろいろ丁寧にやって行かなければと入社してから心がけていた。しかし、最近ちょっとしたことにつまづいてしまい、中にはそれが大きな失敗になって周りにも迷惑をかけてしまう。

 はあ、なんて自分はできないんだろう。なんでもっと上手く立ち回れないんだろう。人は間違える生き物だって言うけど、私は間違えすぎなんだよな。本当にダメだなあ。

 そう思えば思うほど、その負のサイクルは止まらない。こんな夜中に、しかも暗い部屋でそんなことを考え出すと止まらないのはわかっているはずなのに。

 余計に眠れなくなった。もうどんなに目をつぶっても知らない誰かが私を責め立てている気がしてならない。なんかもう無理だ。いっそ起きよう。

 もう一度起き上がって部屋の電気をつける。明るい光が目を刺してくる。

 こんな夜更けに電気をつけるのは、どこかに背徳感を抱くのは私だけだろうか。でも、その背徳感がさらに私をマイナスな感情へと追い込んでいく。

 ふと、机の上のメモが気になった。退勤の時に机の上に手紙みたいなメモが置いてあって、捨てちゃいけない気がして持って帰ってきた。開いてみようと思って鞄から取り出したものの、たまたまその時宅配便が来てワタワタしているうちに忘れて風呂に入ってそのまま寝てしまったのだ。

 メモを開くと、こう書かれていた。

『いつもお疲れ様!あなたがたくさん頑張ってるのはみんな知ってるからね。大丈夫だよ。今度みんなで飲み行こうね!』

 視界がぼやける。ネガティブな時にこんな言葉をかけられると、涙が出てしまうのだ。私がいる部署では、私が1番歳が下で入ったのも最近だ。だから私なんかと比べて上司たちは当然仕事量も多いしその責任だって大きい。私なんかに気にかけている時間なんてないはずなのに。いつの間にこんな物を書いておいてくれていたんだろう。

 でも、その手紙を見た瞬間から、私の中のネガティブが消えていった。

 明日から、また頑張ればいいんだもんな。ちゃんと見てくれている人たちがいるんだもん。うまくやろうとしなくても、やれることを少しずつやっていけばいいんだ。開放感すら覚える。こうやって気遣ってくれる上司がいて本当に幸せだと心から感じた。

 開放感と共に、また眠気がやってきた。

 真っ暗な夢の途中。その先には、きっと輝く何かがあるのかもしれない。

 私は電気を消して、もう一度ベッドに潜り込んだ。すぐに眠りへと誘われて、私の意識は深い谷の底に落ちていった。

 

 

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