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この記事は2021年2月28日にホームページにて掲載したものです。

Y君、今日で4回目の教室。
数を重ねるにつれて、Y君とアクリル絵具が仲良くなってきている。
そしておまけに僕とも、仲良くなってくれている。笑


今回、Y君が描きたいって選んできたテーマは、ジャングルの王、トラだった。
トラ。トラかあ、と僕が唸ったので、「むずかしい?」とY君が訊いた。

「このあいだ描いたビーグルがこれくらいとするでしょ。」
僕は両手を胸の前で小さく広げたあとで、「トラはね、これくらい」と言って腕をめいいっぱい大きく広げて見せた。

Y君は描けるかなぁと驚いていた。
大丈夫、君なら描けるとも。


まずはiPadでトラの写真を探す。好みのトラを見つけて、いっしょに構図を考えた。
(こういうときいつも思う。本物のトラが見れたらなって。)

あれこれ悩んだあとで、今回は、迫力満点のトラの顔を画面いっぱいに描くことに決めた。

まずは鉛筆でスケッチ。

トラの形を、手に覚えてもらう大切な時間だ。
普段、僕らの目がなんとなくで見ているものを、きちんと見直していく。

耳の向き、目と鼻の位置、トラのヒゲはどこから生えてる?

手が描くためには、目がしっかりと働いて、情報を伝えてあげないといけない。
描くって大切。描くことは見ることにつながっているから。


スケッチを取り終えると、いよいよお楽しみの絵具だ。
今日Y君は買ってもらったばかりのアクリル絵具を大事そうに持ってきている。

「いいね、新しいえのぐ。」Y君はすごく嬉しそうだよ。


ペーパーパレットの上に、少しずつ絵具を出していく。
ベースとなるトラの色をまずは作ることにした。

「動物なんかを塗るときはね、絵具はキレイに混ぜ切らなくていいよ。」
僕はいつも子どもたちにそう教えている。

2つの絵具を混ぜて、均一な1つの色にしようとしなくていい。少しのムラが、色に深みを出して面白いんだ。
(余談だけど僕の好きな料理研究家も言っていたよ。「和え物は、混ぜ合わせてひとつの味にしようとしない。食材のハーモニーを楽しむ」んだって。なんだか似ているね。)


これだという色がパレットの上で出来上がったら、どんどん色を着けていこう。
もちろん、筆のストロークを意識することを忘れずにね。
トラの毛はどんな向きで生えているだろう。


ひととおり塗り終わった自分のトラを見て、「なんかたぬきみたい…」とY君は嘆いていた。
大丈夫、大丈夫。(笑)
大まかなところから手をつけ、そのあとで少しずつ細部を調整していく。
絵ってそういうものだよ。

どうしても気に入らなければ、上からもう一度厚く絵具を塗りなおしたらいい。
何度でも何度でもやったらいい。

それがアクリル絵具のいいところ。
失敗を恐れずどんどんいこう。


少しずつ少しずつ積み上げていくイメージ。
疲れたら少し休憩をしよう。目と手を休めることも、とても大切なこと。


「先生、なんかうまくいかん。どうしたらいい?」

トラの複雑な縞模様に手こずるY君に、自分の絵を遠くから見てごらんと勧めてみた。

描く人と見る人を自分の中で分ける。
さっきまで描いていた絵を遠くから見てみると、ほら。
画面に近づいて熱中してるときには気づかないことに気がつく。

絵を描くとき、この作業はとても大切なんだ。


それから、トラの模様は線対象だけど建築物のような線対象じゃない。
模様ごとにも色が分かれてるけど、実はきちんと分かれていない。

「ようするに、きれいとテキトーのあいだ」と僕が言うと、「またそれか」とY君は聞き飽きたように返事をしたよ。(笑)


トラを仕上げる前に、背景にジャングルの葉っぱを描くことにした。すごくいいアイデアだ。トラとジャングルのコントラストがとても綺麗。
Y君はペインティングナイフを使って、豪快に描いたよ。これはもう、お手の物だね。

最後に丁寧にトラの瞳に色を置いた。アレコレ試行して作ったこだわりの色だ。

描きはじめは不安ばかりのトラ。
最後は大の大満足。

諦めずに、最後まで根気強く立派な作品を仕上げたY君に、大きな大きな拍手をおくります。

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