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ビーグル(Y.Nくん)

この記事は2021年2月14日にホームページにて掲載したものです。

前回、アクリルガッシュと仲良しになったYくん。
今日は動物を描くって、張り切ってやって来たよ。

「何の動物にする?」と僕が訊くと、「犬がいい」とすぐに返事をした。Yくんの家にはワンちゃんがいるらしい。動物が好きなんだって。

犬と言ってもいろんな犬がいるよ。「どんな種類のワンちゃんにする?」と訊くと、今度はうーんと悩んでいた。頭の中にはイメージが浮かんでいるのだけど、その犬種の名前が出てこないらしい。

「茶色くて、少し小さくて、ふわっとしてて、なんだっけ。」
「なんだろう。」

いくつか挙げてみた名前がどれもピンと来ず、僕も犬の種類には詳しくないので、2人でiPadで画像検索をした。
確かこんな名前だった、とYくんが検索をした言葉は【ベーグル】だった。

検索結果に、茶色くて小さくてふわっとした焼きたての【ベーグル】の写真がたくさん出てきたのを見て、「犬じゃないやん」と2人で笑った。ベーグルじゃなくてビーグルだったね。
気を取り直して、さぁいこう。笑

スケッチをする前に、何枚かのビーグルの写真を一緒に見て、構図を考えた。
それができたらまずは画用紙に鉛筆で当たりをつけるところから。この前描いた、氏郷の兜のときと要領は同じだね。

犬の体を描くとき、Yくんは宙を見上げて、実物を思い出すようにして描いた。いつも触れ合っているワンちゃんの、頭から背中からお尻にかけての丸いフォルム。
こういう絵は、写真を見るよりも、自分の体験や記憶をもとにして描く方がいいに決まってる。デッサンやパースの正確さを気にするのは、まだまだ先でいい。

丁寧に描き上げた胴体に、足や尻尾の位置を描き加えた。足を描くのだって、ワンちゃんのあのふわふわの足を思い浮かべながら描いたよ。
さぁお楽しみの絵の具だね。


今日僕が、Yくんに伝えたかったことは、筆の表情を大切にするということ。どの向きで、どういう力で、どういうストロークで筆を使うか。
その工夫の大切さに自分で気付いて、コントロールできるようになって欲しいなと思った。

だからYくんが絵の具を塗るとき、僕はとなりで「ねぇねぇ犬の毛ってどんな感じ?」とやたらとしつこいくらいに尋ねた。
触ったとき、毛並みは硬い?柔らかい?
長い?短い?

ワンちゃんのあの感触を、頭の中に常に思い浮かべられるように言葉をかけ続ける。

前回に描いた鉄の兜と、犬の毛並み。ぜんぜん違うよね。それを同じ筆で、同じ絵の具で、どう描き分ける?どうやったら表現が変わる?

Yくんは一生懸命考えながらじっくりと丁寧に、筆の表情と向き合いながら描いたよ。
たまに疲れては休憩し、僕に「手伝ってくれ~」とかなんとか言いながら。笑


食物や動物を描くときと、車や建物などの無機物を描くときでは、筆の運び方が全く違う。特に生き物は難しく、綺麗に塗ればいいというものでもない。
線からはみ出さないようにとか、ムラなく塗れるように、だなんてことばかり気にいしていると、命のにおいがしなくなる。
だから僕は子どもたちに、いつもこういう言葉を使う。
「生き物は、キレイとテキトーのあいだで塗るんだよ」って。


Yくんは、「どういうこと?」って笑っていた。
まあいいさ。いつか分かる日が来る。笑


Yくんは長い時間をかけて、一生懸命にビーグルを描き終えた。
それから仕上げに背景を描いたよ。気持ちのいい、グリーンの草むらにするんだって。

最後の最後の仕上げまで、丁寧に取り組んだよ。
なかなか大変だったと思う。だって隣からね、変な大人が「ねぇ、草ってどう生えてる?どんな向きで生えてる?」ってしきりに話しかけてくるんだもん。笑

出来上がった絵をしばらく窓辺に飾っていた。

Yくんはこのあと、残りの時間で別の工作に熱中していたのだけど、たまにふと顔を上げて窓辺の自分の絵を見ては、こう言うのだった。

「え? ねえ先生、この絵、めっちゃよくない?」


達成感と充実感とほんの少しの疲労感を感じながら、Yくんはとても満足そうだ。
Yくんの表情がとても暖かかったよ。

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