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ひょうたん(J.Iくん)

この記事は2020年12月27日にホームページにて掲載したものです。

僕が子どもの頃に通っていたアトリエの先生に、一番最初に習ったのが水墨画だった。鉛筆のデッサンよりも先に教えてもらったことを覚えてる。
半紙や筆には、書道で馴染みもあったので取り掛かりやすかった。
水墨画はとても奥が深いのだけど、かしこまらず肩の力を抜いて楽しむことだってできる。

脳みそが動くよりも先に手が動いて、手が動くよりも先に筆が動いて、筆が動くよりも先に墨汁が半紙に吸い込まれていく。そんな感じ。

そんな水墨画はJくんにピッタリじゃないかな、と思って、この日ふいに誘ってみた。

「やってみる?」と僕が訊いて、「うーん」と唸るJくん。だけど「やらない」とすぐには言わなかったので、とりあえずJくんの脳みそがやらない理由を何か考え始める前に、さっそく半紙の前に座らせてみたよ。

いかにもな布キャンバスに向き合う時とは違って、ペラペラな半紙の前ではほんの少し力も抜ける。


水墨画はまず丁寧に筆を作るところから始める。
筆先から根本にかけて、墨の濃淡で綺麗なグラデーションを作る。これがなかなか難しい。

余談だけど、ギターの弦を上手に張れるようになるまでには、すごく時間がかかる。魚釣りだって、釣竿に針をつけることは難しい。
だから、いつでも最初の第一歩目は、音を鳴らす楽しさから。魚を釣り上げる楽しさから。絵を描く楽しさから。
下準備ができるようになるのは、少しずつ、ゆっくりでいいよ。
自分で何度も繰り返し工夫をすれば、自然と上手になる。


まずは僕が筆を持ってみた。なんとなく。筆を使ったいろんな表現を見せる。Jくんはそれをじっと見ている。
次にJくんに筆を渡して、しばらく遊んでもらった。筆の感触、墨のにおい、半紙に水が染み込んでいく様子を楽しんでもらった。何度も繰り返しているうちに、ずいぶん墨と仲良しになれる。Jくんの手が新しい半紙にどんどん伸びていた。


そのうちに「なにか描いてみたい」とつぶやいたので、もう一度僕が筆を取って、山の絵を描いてみた。それから竹。葉っぱ。おまけに魚や馬も描いてみた。
そのあとで特別になにかを言う事なく、筆をJくんに「どうぞ」と返した。Jくんは僕の描き方や描いた絵を見て、なんとなく手本としながら、山や魚を描いた。

「むずかしい~」とかなんとか、時折ブツブツとつぶやきながらも、水墨画を楽しんで、たくさんの絵を描き上げていたよ。

1日の終わりに描いた、Jくんのひょうたん。
今日の集大成と言える出来上がりになった。


おうちに帰ってからは、木製の額に入れて飾ってもらったんだって。
自分の描いた絵が飾られるって、なんともくすぐったく、恥ずかしくて嬉しい気持ちになる。

額装されたこのひょうたんの絵を、なんでも鑑定団が鑑定したら…、
いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……だなんて、ついうっかりすごい値段がついちゃったりするかもね。


水墨画、これからも続けていけるといいね。

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